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情報デザインコース卒業研究制作 ✧ インタビュー第1弾 | 田中 雅さん

みなさん、こんにちは!
多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展2023 - 「」広報部門です。

今回のnoteは、卒業研究制作展参加者へのインタビュー記事の第1弾です。
これから約2週間にわたって全15名のインタビューをお届けしていきます!
彼らがどのような想いを持って今までの制作をしてきたのか、記事を通じて皆様にお届けできたらと思います。

第1弾は「ラーニングとデザインゼミ」に所属する田中 雅さんのインタビューをご紹介します。

✧ インタビュイー紹介

田中 雅 / MIYABI TANAKA
多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース4年
ラーニングとデザインゼミ(主査:植村 朋弘教授)所属

── 普段は主にどんなもの、ことを制作していますか。

田中:普段は医療や福祉など社会インフラとよばれる分野に関するUIUXデザイン作品を多く制作しています。
なぜこういった分野に興味を持っているかというと、家族など周りに医療関係者が多かったことや、私自身が過去に事故に遭い、病院にお世話になったことがきっかけで社会インフラ分野の重要性に気づき、強く意識していくようになったからです。

── なぜ医療系へ進学ではなく、美術系という選択をされたのですか?

田中:小さい頃から、絵を描くのが好きだったからです。幼稚園の頃から何かをずっと描いていました。小学生まではファッションデザイナーや漫画家など、具体的な夢もあったんです。

 実は医療関係の仕事に携わることを考え始めたのは中学からでした。冒頭でお話しした通り、家族や親戚に何人か医療関係者がいるんですけど、ときどき「将来医療系には行かないのか?」と聞かれることもあって。それで漠然と医療系の仕事もいいな、と思っていました。とても大変かもしれませんが、人の生活に強く結びついていて、直接誰かの命を助けられる良い仕事だと思っていたので。でも、私は恐ろしく数学が出来なかったんです(笑) 

 いよいよ大学受験が現実味を帯びてきて悩んでいたとき、美術の先生に美大進学という選択肢を増やしてもらったことで、昔から好きだった絵の勉強をどうしてもしたい!と思い、美術大学に進学させてもらいました。

✧ 卒業研究制作作品について

── 卒業研究制作で制作した作品の紹介をお願いします。

「晴眼者と視覚障がい者、かかわりとつながりを模索するワークショップツール、対話のデザインに関する研究」

田中:作品タイトルは「晴眼者と視覚障がい者、かかわりとつながりを模索するワークショップツール、対話のデザインに関する研究」です。
本研究制作は晴眼者と視覚障がい者を対象とした、異なる素材と重さのコマを用いるバランスゲームを利用したワークショップです。
ゲームを通して、自分自身と異なる属性・感覚を持った相手と対等なかかわりをもつことができる、対話の場をつくることを目指して研究・制作を行いました。

 ゲームのルール自体はシンプルなバランスボードゲームです。参加者である晴眼者と視覚障がい者の2人で1チームを組み、合計2チームで遊びます。盤面のバランスを崩さないように、コマの形やコマを置く場所で盤面がどう傾くかをチームの中で互いに伝え合いながら、コマを置いていきます。
バランスゲームの終了後はゲームの中で互いに感じたことをリフレクションし、共有します。

 また、ワークショップの中では互いが心地よく対話するための「対話のルール」を設けたり、チームを超えたコミュニケーションを増やすミッションカードといった、より対話を促す仕掛けを随所に設計しました。

バランスボートゲームで使用する盤面、コマ
ミッションカード

✴︎ きっかけ・制作を決めた経緯

── この作品を作ろうと思ったきっかけや経緯について教えてください。

田中:3年次の経験デザイン領域吉橋ゼミの授業で、VUI(=Voice User Interface, 音声対話インターフェース)をテーマに扱ったサービスデザイン作品を制作したのがきっかけです。私は中途視覚障がい者の歩行支援を行うプロダクトを提案しました。そこで実際に中途障がい者の方にインタビューをしたとき、「中途視覚障がいだからといって配慮されることで、傷つくことや悲しいことがある」とお話ししてくださったことが深く印象に残ったんです。その時の感想を率直にいうなら「配慮って普通は良いことなんじゃないの?」と。

配慮はときに良いふるまいではない?

田中:どういうことだろうと気になって、もっとよくお話しを伺ってみたら「配慮してもらうことは、周りの人の善意や優しさに改めて気付かされる機会だと思う。だけど、初対面の人にも障がいのことで変な遠慮とか気を遣われたり、暗に『障がいだからこれはできないんでしょう?』と思われているのが分かってしまうことがあって悲しい。」とお話ししてくださったんです。

 「配慮って一見良いふるまいに思えるけど、当事者の方からするとすべてがそういうわけじゃないんだ」と当時の自分には全く無かった視点に気付かされました。配慮する側と配慮される側。そういう固定化された立場や状況だと、無意識のうちに互いに一歩引いた関係になってしまって、心地よい対等なかかわりの構築や踏み込んだ対話をすることは難しいんじゃないかなと。

 そこから、これらの問題をどうしたら解決できるか考えているうちに「晴眼者と視覚障がい者、かかわりとつながりを模索する ワークショップツール対話のデザインに関する研究」というテーマにすることに決まっていきました。

── 慎重に考えていかないといけないテーマですね。

田中:そうですね。慎重に進めていかないといけないと思いました。
それにこのテーマを扱うには、私に知識が足りなさすぎると感じていたので、卒業研究制作では最初にできる範囲で視覚障がいについてリサーチを進めていこうと考えました。

✴︎ 制作過程

── では、リサーチについて詳しくお聞かせください。

田中:最初は、地元にある障がい者総合サポートセンターや施設にお邪魔して職員の方にインタビューをさせていただいたり、点字講習会の見学をさせていただきました。他にも「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というワークショップに参加しました。

”ダイアログ・イン・ザ・ダークは、視覚障害者の案内により、完全に光を遮断した”純度100%の暗闇”の中で、視覚以外の様々な感覚やコミュニケーションを楽しむソーシャル・エンターテイメントです。
これまで世界50カ国以上で開催され、900万人を超える人々が体験。 日本でも各地でオリジナルイベントが開催されています。”

ダイアログ・イン・ザ・ダーク公式HPより

理解するってどういうことなの?

田中:まず印象に残っているのは、インタビュー時に職員の方から頂いた意見でした。私が視覚障がいの現状や当事者の方について「理解を深めたい、理解したい」という思いがあることを伝えると「まず、理解するってどういうことなの?理解したいって気持ちは人によって感じ方が違う。万人に理解してもらうことって難しいし、別に理解することは必要ないと思う。」とお話ししてくださったんです。身が引き締まる思いがしました。

 職員の方にこうおっしゃっていただいたことで、「簡単に相手を理解すると言ってしまっていいのかな?」、「相手を理解するとはどういうことなんだろう?」と改めて自分が研究の中で目指したい方向性ゴールを考えていくことができました。

 暗闇で生まれた異なる感覚を知る面白さ、対等なかかわり

東京・竹芝にある、ダイアログ・ダイバーシティ・ミュージアム 「対話の森®️」

田中:2つ目に印象に残っているのはダイアログ・イン・ザ・ダークで体験したことです。
この体験で特筆すべきなのは、見知らぬ相手とのかかわりです。その場で初めて出会い、年齢も職業もさまざまな参加者たちは、暗闇の中でぶつかったり迷子にならないために互いに声を掛け合い、協力しながら進んでいかないといけないんです。

 丸太の橋を渡るために手を取り合ったり、電車に乗り目的地に着くまで互いの出身について話し合ったり…初めはよそよそしかった参加者たちが最後には全員で暗闇の中で鬼ごっこをして楽しむことができるまでになっていました。

 視覚に頼らないことで、本来相手が持っていた属性や外見の印象から解放されていきます。相手に対して純粋な興味を持ち、対等なかかわりを持つことができるようになるんです。ダイアログ・イン・ザ・ダークのワークショップは「初めて出会った人とこんなかかわり方ができるのか!」と私にとっては大変新鮮で衝撃的な体験でした。

試行錯誤した、プロトタイプ制作

前期審査会までに制作した、プロトタイプのワークショップツール
日常動作が書かれているカード、イラスト・墨字・点字が書かれている

田中:次にリサーチをもとにプロトタイプを制作して、前期の展示発表に臨みました。最初に制作したのは、互いに相手に歩み寄るきっかけをつくることを目的としたワークショップだったんです。日常動作の中で感じる気持ちを、さまざまな形や色のカードを選び、互いに交換します。相手が感じている気持ちを始めは自分で予想して共有し、対話によって相手の本来の気持ちを知るという流れでした。

 しかし、ユーザーテストをしてみて、ワークショップツールにおける色や点字の有無などの情報量の不公平さ、気持ちを話す上で同調を促す空気になってしまったり、そもそも初対面の人に本来の気持ちが話しづらいなど、対話を促す設計のミスマッチさが浮き彫りになりました。

ユーザーテストをしている様子

田中:なにより問題だったのは、当事者の方にワークショップに参加してもらった際「わざわざこれらの日常動作について話すように促されるのは、言外で「これはできないんじゃないか」と軽んじられているように感じる」といったご指摘をいただいたことです。他にもかなり多くの改善点が浮き彫りになりました。

── そこから、現在の形に変化していったんですね。

改善したワークショップツール

田中:そうです。いただいたフィードバックをもとに、よりレクリエーション的な内容に寄せていきました。
問題は「対話のハードルが高いこと」と、「人によって受け取れるツールの情報量の差」にありました。なので、安心して対話ができるように「対話のルール」を設けたり、ミッションカードといった対話の起爆剤をつくったり。

 そして、ゲーム性を高めることでゲームに白熱しているうちに自然と話してしまう…といったように、対話のハードルの高さはクリアしていきました。

ミッションカードの試作①
ミッションカードの試作②

田中:「人によって受け取れるツールの情報量の差」をいかに少なくするかは、特にミッションカードを作る際に意識し、何度もユーザーテスト・インタビューを実施して試行錯誤しました。

 ミッションカードのイラストは、触って図を読み取ることができる触図というものを参考にしているのですが、
その触図の部分が細かすぎて触ってわかりづらい、点字と印字されている文字が片面だけにある必要はあるのか、というフィードバックをいただいたため、いろんなパターンを試作しました。

 途中までは片面のみの印刷だったカードを晴眼者と視覚障がい者で印刷の面を分け、両者がよりつかいやすくなるように考えていきました。最終完成形のカードは表面は点字と触図、裏面は印字のみになっています。

目で見えないものこそ、見えてくる

── 実際にユーザーテストを行ってみてどうでしたか?

田中:そうですね。実際に何度も晴眼者の方と視覚障がい者の方を交えてユーザーテストを行ったんですけど。みなさん、すごく楽しんでくれて。時には晴眼者の方にもアイマスクをしてもらって参加していただいたりとかしました。

 参加されたほとんどの方が初対面の人とも関わりやすい、話しやすいと言ってくださって。あとは自分自身の身体のことを言葉で「実はこうなんだよ」と話すよりも、ゲームを通して自然と伝わるのが良いと言ってくださったり。さまざまなコメントをいただくことができました。
 よければみなさんの一部コメントを紹介させてください。

こういうコミュニケーションツールっていうのがあると初対面の人とも関わりすい、喋りやすい。最初は少しわかりにくい、「こっち」「あっち」みたいなそういう指示語が多かったが、徐々に「Yさん側に傾いてきてますよ」みたいな、そういう状況説明がすごく増えてくるようになって良かった。(中途視覚障がい者・Tさん)

名前を結構呼ぶって仲良くなるきっかけだと思っていて、このワークショップでは必然的に名前を呼ばないといけないので初対面の人とも仲良くなれると感じた。(晴眼者・Mさん )

みんなと同じ1つのものを触っているので、目は見えてなくても、一緒のことをやれているという共感を生むプロダクトだなと思った。
ちょっとずつやればやるほど、みんなが盤面の状況を実況してくれるから、アイマスクで見えてないはずなのに情景が見えてくるような気がした。そこが良いと思った。人柄とか目で見えないからこそ、見えてくるものがいっぱいあったことに気づけて良かった。
(アイマスクをして参加した晴眼者・Yさん )

✴︎ 制作を通して気づいたこと

── 卒業研究制作を終えて、気づいたことや感じたことはありましたか?

田中:まず、障がいの有無に限らず、自分と異なる属性や感覚を持ってる人は、自分が意識してないだけで周囲にたくさんいるということに気づきました。人間って、自分と全然違う相手って怖いんじゃないかなって思って。

 その怖さのもとが何かを考えたら、違う性別、年齢、立場、感覚、異なる属性を持つ人と関わることで、自分自身が否定されたり、受け入れられてもらえないと考えてしまうからなんじゃないかと思いました。そうした怖さから自分を守るために相手のことを知ろうとしなかったり、相手を否定してしまうことがあるのではないかなと思います。

 でも、相手とかかわる怖さから目を背けるのではなく、その怖いという自分の気持ちをまず自覚すること、そうすることでその壁を打ち破り、自分自身とは異なる属性・感覚を持った相手とかかわる楽しさを見出すことができるようになることができたらいいな。
私の研究がそうした活動の一助になれたらと思います。

✴︎ 今後の活動・進路について

── 今後の活動や進路などについて、何かありましたら教えてください。

田中:就職活動をして、4月から株式会社ディー・エヌ・エーでデザイナーとして働くことが決まっています。
でも、対話の場をつくるデザインの研究はここで終わりにするのではなく、この先生涯をかけて続けていきたいと思っています。いずれは大学院に進学して同じテーマで研究してみたいです。

✧ あなたにとって 「爆発」とは?

── さいごに、あなたにとって爆発ビッグバンと呼べるものを教えてください。

「ひたすら手を動かし続けること」

田中:私の制作(研究)スタイルの特徴です。何かを発見してから、手を動かすその行動がすごく爆発的というか、爆発っぽいなと思いました。

(インタビュー・編集:梅木 千夏、画像提供:田中 雅)


インタビュー第1弾、いかがでしたでしょうか。
本卒業研究作品は多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展に展示されております。
記事だけには載せきれない、実際に見るからこそ伝わる魅力がある作品がたくさんありますので、みなさまもぜひ会場にお越しください!

第2弾は、「ワークショップとデザインゼミ」に所属する梅木 千夏さんのインタビューをお届けします。次回もお楽しみに!

多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展2023 - 「  」

会期
3月3日(金)- 3月5日(日)10:00 - 19:00
場所
〒141-0022 東京都品川区東五反田5丁目25−19
東京デザインセンターガレリアホールB1&B2
アクセス
JR山手線五反田駅東口より徒歩2分
都営浅草線五反田駅A7出口正面
東急池上線五反田駅より徒歩3分

詳細多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展2023 - 「  」公式サイト

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