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報酬から源泉された所得税を取り戻す①


源泉所得税の控除または還付を受ける
 
 個人が受け取る一定の報酬については所得税が天引き(源泉徴収)され、所得税を控除した後の手取り額が支払われます。源泉徴収義務を負うのは、報酬の支払者です。受取人は、源泉徴収について責任はありません。
 そのため源泉徴収義務者である支払者が所得税の源泉徴収を失念したり、納期限を過ぎてから納付したり、誤って過少な税額を源泉徴収したときは、支払者側に不納付加算税や延滞税などのペナルティが課されます。

 報酬の受取側にとって、源泉徴収税額は所得税の前払いといえます。 
 年末調整で年税額が精算される給与と異なり、報酬を受け取った場合は、自分で確定申告書を提出しなければなりません。
 確定申告において、納付すべき年税額から源泉所得税の控除または還付を受けることで源泉徴収税額を取り戻せる場合があります。



所得税が源泉徴収される「報酬」は8区分

 源泉徴収の対象となる報酬の内容と税率は、所得税法204条第1項第1~第8号に、次のとおり定められています。
 これらのうち、1号、2号、4号、6号、そして7号が、フリーランス、個人事業者として仕事を請け負う人に関連が深い報酬です。

1号  原稿料、講演料、デザイン料、著作権使用料、翻訳・通訳料等の報酬
2号  弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士等の報酬
3号 社会保険診療報酬
4号 プロスポーツ選手、モデル、外交員、集金人等の業務に関する報酬
5号 映画、音楽またはラジオ、テレビ放送の出演や演出または企画の報酬6号 ホステス、コンパニオン等の業務に関する報酬
7号 プロスポーツ選手等の専属契約によって一時に支払われる契約金
8号 事業の広告宣伝のための賞金、馬主に支払われる競馬の賞金等

 

報酬に対する源泉徴収税率

 上記の報酬等に対する源泉徴収税率も所得税法に定めがあり、基本的に、10.21%(復興特別所得税0.21%を含む)です。
 ただし1号、2号、4号、5号、7号に掲げる報酬で、同じ人に対して、1回に100万円を超える金額を支払う場合には、100万円までは10.21%、100万円を超える部分は20.42%の2段階税率により所得税を源泉徴収するルールとなっています。

(計算例1) コンサルティング報酬100万円に対する源泉徴収税額
  100万円×10.21%=102,100円
(計算例2) コンサルティング報酬300万円に対する源泉徴収税額
  100万円×10.21%+(300万円-100万円)×20.42%=510,500円


 所得税の総合課税では、課税所得金額が高くなるに従い税率も高くなる「超過累進税率」で税額を計算します。そこで多額の報酬を支払う場合は、100万円までは通常の税率で、100万円を超える部分は高い税率を適用して、通常よりは多額の所得税を源泉徴収(前取り)しますよ、というわけです。

源泉所得税の納付期限

 源泉徴収義務者が源泉徴収の対象となる報酬等の支出を行った場合には、その支払日の属する月の翌月10日までに、その徴収した所得税を国に納付しなければなりません。
 なお、給与および第2号報酬(弁護士、会計士等に対する報酬)にかかる源泉所得税については、常時使用する従業員数が10人未満の会社は「納期の特例制度」の承認を受けて、半年に1回の納付(1月~6月分は7月10日、7月~12月分は翌年1月20日)とすることができます。 
 毎月の源泉徴収と納付事務は大変ですから、小規模の会社では6か月ごとの納付でOKとされているわけです。
 ただし、第1号報酬(原稿料、講演料等)は、納期の特例の対象外です。給与等について納期の特例の適用を受けていても、第1号報酬の源泉税は、原則どおり、支払日の翌月10日に納付する必要があります。



報酬の区分と源泉徴収税率

(1)1号、2号、4号、5号、7号に掲げる報酬(2~4の報酬を除く)
 報酬等 × 10.21%(同一人に対する1回の支払金額が100万円を超える部分の金額については20.42%)
(2)2号のうち、司法書士、土地家屋調査士、海事代理士の報酬
 (報酬額-1回の支払いにつき10,000円)×10.21%
※登録免許税、印紙税等の実費立替分は報酬に含めず源泉徴収の計算をする
(3)4号のうち、外交員、集金人または電力量計の検針人の報酬
 ①外交員報酬等のみを支払う場合 ・・・(報酬額-120,000円)×10.21%
 ②外交員報酬と給与所得である固定給を支払う場合
  ・・・ {報酬額-(120,000円-給与等の額)}×10.21%
(4)6号に掲げる報酬
 (報酬-5,000円×報酬等の計算期間の日数)×10.21%
※計算期間の日数とは出勤した日数ではなく、その月の初日から末日までの全日数をいうため、3月なら31日、4月なら30日

給与か、報酬か ?

 司法書士等の報酬とホステス等の報酬に対する源泉税の計算においては、一定額まで源泉不要とする足切りルールがあります。 
 1回あたり10,000円以下である司法書士等への報酬、1日あたり5,000円以下であるホステス等への報酬は所得税が源泉徴収されません。
 これらの少額な報酬は源泉徴収しなくて良いですよ、という意味ですね。 
 あるいは、収入金額から必要経費とみなす金額を差し引いた純額の儲けを源泉徴収の対象としているとも考えられます。
 司法書士の先生が登記所に出向く旅費(最近はオンライン申請が可能な手続きもありますが)、ホステスさんの美容室代、衣装代などのみなし経費を報酬から差し引いた残額を源泉徴収の対象としているともいえます。

 なお報酬として源泉徴収するのは、受取側が個人事業者である場合です。タイムカードで勤怠管理をしていたり、時給制で勤務するホステスさんは、給与所得者として源泉徴収をすべきケースがあるので注意が必要です。

一番のメリットは国等に

 上記の報酬等に対する所得税のほか、給与所得に対する所得税、住民税、社会保険料も源泉徴収により地方団体や日本年金機構に直接納入されます。
 税金と社会保険料が一体で徴収されることで早く収入を確保できるため、源泉徴収のしくみで一番メリットを受けるのは国等です。

 一方で、源泉徴収義務者(支払者)は大きな事務負担を負っています。
報酬等を受け取る側も、天引きされることで納税の感覚が希薄になります。
  
 どちらの立場としても、源泉徴収のしくみを知っておくのは大切ですね。

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