こころを動かす琴線ピアニスト【川村奈美子さん】
| 至極の一言 |
私は小学校に行くときも、ちゃんとステージ衣装を着るんです。演奏すると、音に興味を持つ子、楽器に興味を持つ子、衣装に興味を持つ子。いろいろなことに興味を持つ子がいて。私自身、「美しい音楽、心にしみる音楽」を弾こうと決心したのは小学生のときでした。
小金井から世界へ!心にしみる音楽を奏でる
「ピアノが弾きたい」「ピアノが好きで、好きでたまらない」という気持ちを幼少期から今までずっと持ち続けている川村奈美子さんにとって、ピアニストはまさに天職。ただなぞって演奏するのではない、「心にしみる音楽」を奏でるその表現方法は、“琴線”ピアニストと称されています。国際舞台で活躍するかたわら、地元·小金井市の小学校などでは、ピアノを通じて子どもたちとの交流も深め、心にしみる音楽を生で伝えています。
弾きたい気持ちは幼少期から。琴線ピアニストの誕生秘話
崎谷:琴線にふれるような、人の心に響くピアノを演奏されています。ピアノはいつから始めたんですか?
川村:幼稚園のときにどうしてもピアノが習いたくて、「ピアノを買ってほしいと頼んだんです。両親はまったく楽器ができず、「どうせ高いおもちゃになるだけだ」と買ってもらえなくて。それでもどうしてもピアノが弾きたくて、幼稚園のお友達でピアノを持っている子の家に毎日のように遊びに行っていました。でもその子とは遊ばないで、ずっとピアノを弾いている(笑)。そんなことが続いたので、そのお宅に迷惑がかかるからと、仕方なくピアノを買ってくれました(笑)。ピアノがきたときはうれしくて、うれしくて! 習い始めたら楽しくて、楽しくて!
崎谷:そこまで「ピアノが弾きたい!」という気持ちは、どこから芽生えてきたのでしょう?
川村:0歳のときにはおもちゃのピアノを弾いていたそうです。夜中に目が覚めたときにもポロポロとピアノを弾いていて、夜泣きがなかったと聞きました。音がうるさいからと片づけたら大泣きするので、それならおもちゃのピアノの音のほうがマシだと、また出してきて弾かせたら泣き止んだそうです(笑)。弾きたいという気持ちは、今日までも変わりません。ピアノを小さいときに習っていた方は、練習でストレスがたまったということが多いと思いますが、私は弾かないことがストレスなんです。好きで弾いていたから、宿題も楽しくてしょうがない。5~6歳のときから、1日に2時間ぐらい、お休みの日には8時間ぐらい弾いていました。朝から練習して、難しかった曲が夜には弾けるようになっているというのが楽しくてたまらなかったです。
国際的な活躍が認められ、国際芸術文化賞を受賞
崎谷:初めて海外で演奏されたのは、10歳のときだったとか!
川村:韓国で演奏しました。それがどれほど責任のあることなのか、まだ子どもだったのであまり重く受け止めていなくて、「飛行機に乗って外国に行ける」というのが楽しみでした。衣装も食事も、なにもかもが日本と違う異文化を体験しましたが、和気あいあいと楽しく過ごしたことを覚えています。その頃、先生から「この子はピアニストにします」と言ってもらえて。まだ海のものとも山のものともわからない子どもでしたが、大好きなピアノでほめてもらえたことがとてもうれしかったんです。それで「ピアニストになろう」と意識し始めました。
崎谷:中国との文化交流があるとか。現地でも演奏されたそうですね。
川村:数年前に知り合いの中国の方といっしょに演奏することになり、トリオを組んだんです。そのときに出会ったのが文化大革命の頃の作品でした。当時、作曲家たちが発表できずに眠らせていた曲がいっぱいあったんです。私だったら、1年間音楽禁止と言われてもつらい。それが、あの時代は何年も続いて、どれほど辛かっただろうとわが身に置き換えて考えました。たくさんの方が自分の命を絶つほどの思いをしていた。その中でも歯を食いしばって生きてこられた方たちの気持ちを思うとなにかしたくなって。「ピアノ曲があるなら、私が発表しますよ」とお話したら、すごく喜んでくださり、次々にいろいろな曲が出てきました。それを演奏したCDをリリースし、いろいろな音楽会やテレビでも何度も演奏させていただきました。
崎谷:2008年度には国際芸術文化賞を受賞されましたね。これはどういう賞なのですか?
川村:ピアノに限らず、音楽に限らず、文化全体の中から半年ごとに1人選ばれるそうです。演奏会に来てくれた方が私を推薦してくださって。演奏会の翌日にお電話をいただいたときには「お電話かけ間違えてないですか?」と言ったぐらい驚きました(笑)。
心にしみる音楽のよさを、子どもたちにも伝える
崎谷:地元の小学校を訪問されることもあるそうですね。どんなことをされているのですか?
川村:外部ティーチャーのような感じで、小金井市内を中心に、小·中学校を訪問しています。3~4年前からでしょうか。小学生には音楽の授業をしたり、ピアニストとしての話をしたり。1年生でもちゃんと聞いてくれるし、6年生にもなると大人なのでこちらが学ぶことも多く、とても楽しいです。「作曲家がこういう思いで作った曲だから、こういうテンポと音色で弾くと違うよ」と弾き比べて話をすると、ちゃんとわかってくれますよ。
崎谷:子どもだからわからないということはないですよね。むしろ子どものほうが直観力があるので、すぐに本質がわかったりします。
川村:私は学校に行くときも、ちゃんとステージ衣装を着るんです。演奏すると、音に興味を持つ子、楽器·ピアノに興味を持つ子がいれば、衣装や髪型に興味を持つ子もいる。いろいろなことに興味を持つ子がいて、本当に楽しいです。私自身、「美しい音楽、心にしみる音楽」を弾こうと決心したのは小学生のときだったので、当時の感覚を思い出しながら、伝わるように話をしています。
崎谷:「心にしみる音楽」とただ上手なだけの演奏は違うと、小学生のときには自覚されていたんですね。
川村:それは父の教えでもあったんです。「ただなぞるだけの音楽は心にこないね。ピアノを弾くなら、心に響く音楽を弾いてほしい」と言われて、意識するようになりました。
崎谷:コロナ禍で自粛期間中は、YouTubeに「心によりそう日めくりピアノ」「泣きたいときにクラシック」を精力的にアップされていましたね。こちらも心にしみる曲で、泣きたいとき、涙を流すのにぴったりな演奏です。
川村:実はあれは本番のときの記録用音源で、お聴かせするために録音したものではないので、音はあまりよくないんです。演奏会の後に自分の演奏録音を聞くことはなかったので恥ずかしいですが(笑)、他人の演奏を勝手にYouTubeに使えないので。機械を通した音よりも、生の演奏の音のほうが格別なので、ぜひ今度はコンサート会場でお目にかかれたらうれしいです。
<インタビュー後記>
音楽には確かに心を揺さぶる力があります。小学生の頃から“心に響く”音を求めてきた川村さんもすごいですし、それを小学生の娘に進言したお父様もすごいですよね。「琴線ピアニスト」というキャッチコピーは川村さんが求めているものをよく表現されていて素敵です!
川村奈美子さんProfile /
東京都小金井市在住。クラシックピアニスト。10歳から国際舞台に立ち、北米、欧州、アジア諸国のテレビやラジオ番組、国際音楽祭に出演。カーネギーホールでも演奏。これまでにCD12枚、演奏·作曲に携わったCD付き英語版絵本11冊などをリリース。「彼女の演奏は、柔らかさと歯切れの良さ、そしてエレガントでセンスの良い音楽表現を持ち味にしており、清々しい音楽的感性を感じさせる」とCDジャーナル誌が伝える通り、人の心を動かし、“琴線”にふれる調べを演奏する。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?