見出し画像

わずかな時間でも働きたい女性たちを支援する株式会社キャリア・マム 代表取締役【堤 香苗さん】

「小さな子どもがいても、わずかな時間でも働きたい」という多くの女性の気持ちに応え、1995年に「キャリア・マム」を創業した堤 香苗さん。起業のきっかけは、ママ友3人と立ち上げた育児サークルでした。健常児も障がい児も関係なく楽しめるイベントで約500組の親子を集め、会社経営を始めてからは女性のキャリアと社会をつなぐという理念のもと、アウトソーシングやキャリア支援事業を展開。今では全国に11万人の在宅ワーク会員を抱えています。

|至極の一言|

女性も自分への投資のためにお金を使う社会になってほしい

500組集客したイベントの成功がスタートライン

崎谷:まだSNSもない時代に、健常児も障がい児も関係なく楽しめる親子イベントを開催されて、500組も集まったとか。

堤:手話コンサートや点字の名刺作成など、10〜17時までのイベントでした。健常者側が作るイベントとしては当時珍しかったようで、新聞記事を見てたくさんの親子が東は柏、西は横須賀から来てくれました。当時はまだ「プライオリティシート」の考え方がなく、「シルバーシート」の時代。電車に乗るにもエレベーターもエスカレーターもないなか、みんなベビーカーを担いで来てくれたことが、私の中ではスタートラインです。

崎谷:そんな大きなイベントを開催するまでのモチベーションはどこからきていたのですか?

堤:私は子どもができて多摩に引っ越し、地元の公園に行くようになりましたが、そこで見たのは、似たような考え方のお母さんたちとはすぐなかよくなれるけれど、違う人とは友達になれないという現場。そこに障がいを持つ子を連れてきたお母さんがいたんです。見た目が違うので、そのお母さんはまわりに病状を説明するのですが、やはりうまくなじめなくて。

あるとき、その親子が夜の公園でふたりぼっちでブランコに乗っているところに出会いました。聞くと、どこの公園に連れていってもなじめないので、夜の誰もいない時間帯に来ていると。

私はアナウンサー時代、出番がないときはスタッフルームで新聞や雑誌を読んでいたのですが、ワイドショーでは取り上げられないような子どもの自殺のニュースをたくさん目にしました。「なぜクラスメートは声をかけないの?」とずっと引っかかっていて。
中高生のいじめの現状についての解答、いじめのタネみたいなものを、公園でなじめないお母さんがいるという社会に見たような気がしたんです。

コワーキングCoCoプレイスでは創業相談も受け付けている

それと前後して、私、子宮がん検診でひっかかって。もし黒だったら存命率6割と聞かされ、「4割死んじゃうの?」と思ったとき、当時30年近く生きてきて悔いだらけだったんですね。
もしここでチャンスをいただけるなら、ここから先は人の顔色を見ないで、自分がやりたいこと、やるべきだと思うことを子どもに残してあげたい。少しでもよりよい社会に向けて貢献をしてあげたいと思ったんです。

崎谷:明るい未来を示したいですよね。

堤:そうなんです。いつどうなるかわからない。ここからもらった命は儲けもんと思って生きたいと思いました。今もそこは変わりません。ある意味、第二の人生ですね。

フルタイムで働きにくい女性のために、チーム型在宅ワークの仕組みを作る

崎谷:イベントを行うのと、会社の経営はまた違いますよね。

堤:そうですね。当初は育児サークルをやっていたのですが、たまたま当時の都市公団(現在のUR)が新しく多摩地域にコミュニティを作りたいということで、事務局運営の仕事を持ち掛けられたんです。ただし、任意団体にはお金を振り込めないので、株式会社か有限会社にしてくださいということになって。

崎谷:求められて会社に! そこで創業されて2000年には株式会社キャリア・マムを設立されました。女性を中心に、創業支援などされているのですか?

堤:会社に雇われていると、就業時間、定年、転勤など会社の就労条件で働かなければなりません。そういうやりかたでは働けない人たちが、それでも働くためには、在宅で、自分がやりたい時間、できる量で、得意なことをできればいい。一人一人が1人前働けないなら、1/10人前働ける人が10人揃ってチームで仕事をやればいいんじゃないかという発想で、チーム型の在宅ワークの仕組みを作りました。

崎谷:仕組みを作るのが大変ですよね! あきらめてしまう人もたくさんいる中で、それでも女性も社会に関わっていったほうがいいという思いがあったんですか?

堤:必要は発明の母といいますか、そうじゃないと働けないならそういう仕組みを作るしかないなと。まったく稼いでいないのと稼いでいるのとでは、金額の高さは関係なしに、お金が自分の好きに使えるということで人としてモチベーションが上がりますよね。

崎谷:株式会社になってから20年。会社として山あり、谷ありでしたか?

堤:会社を辞めよう、解散しようと思ったことも実は一度だけありました。夫にポロっと相談したら「お前ひとりぐらい食わせられるから、辞めてもいいよ。
ただ、辞めたら二度とこういうお母さんたちのための組織は作るな」と言われたんです。そのときに、私はこの会社をずっとやるだろうなとわかりました。
私はMBAも持っていないし、データよりも感覚的に自分がおもしろそうだと思うものを選択してきました。成功するかどうか、儲かるかどうか、正しいかどうかではなく、おもしろいかどうかが選択基準。
何かを選ばなければいけないときは、発生する可能性の少ないものを大事に選んできました。このやり方で25年続いてきたので、あながち間違ってなかったなと思っています。

女性も自分への投資のためにお金を使う社会になってほしい

崎谷:「おしごとカフェ キャリア・マム」、「保育室のある仕事場 コワーキングCoCoプレイス」も運営されていますね。

おしごとカフェ キャリア・マム 店内

堤:多摩センターの「ココリア」という一番大きなショッピングセンターにあります。「おしごとカフェ キャリア・マム」は364日11~19時まで、どなたでも使えます。電源・Wi-Fiもあり、最近はZoom会議に利用される方も。こういう場所で働いている姿はかっこよく見えるので、それを見た方がもう一度何かで社会につながろうと思っていただけるといいと思っています。カフェとして普通にコーヒーや季節のスムージーもおいしいですよ。

人気のスムージー

壁面はレンタルギャラリーとしてお貸出ししています。手作りのアクセサリーや編み物の小物類、マスクなどさまざまな手仕事の商品が展示されています。これらは展示だけでなく、実際に購入できるんですよ。また、カフェの横には140㎡のホールがあり、こちらも地域の方々や企業などにお貸出ししています。

レンタルギャラリー

「保育室のある仕事場 コワーキングCoCoプレイス」のほうは、フリーランスの方が集中して仕事できる場所をつくりました。東京都認定インキュベーション施設で、フリーランスになりたい方や起業したい方のご相談も受付しています。

コワーキングスペース

崎谷:女性の利用が多そうですね。

堤:実は男性は多いのですが、女性はまだまだ。女性のもったいないところだなと思うのですが、頭のいい女性は近視眼的。損か得かで動いてしまうので、「これだけしか稼げないのにお金のかかるコワーキングを利用するなんて」と考えてしまうんです。
私は学生時代からフリーアナウンサーとして仕事をしてきたので、自分の時間やキャリアアップのために投資をすることに抵抗がないタイプ。本当はそういうふうに、お金を生かしてほしいんです。お金って生かして使っていかないとなんの価値もない。お金がおいしいご飯を作ってくれるわけでも、肩をもんでくれるわけでもありません。
日本はまだまだ投資より貯金の考え方が多いですが、みんながお金を回して自分もまわりもハッピーになるといいなと思っています。

貸しホール

堤香苗さんProfile
神戸女学院高等学部、早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学在学中よりフリーアナウンサーとしてTV・ラジオのDJ、パーソナリティとして活躍。
結婚や出産に関わらず、仕事と家庭のどちらも大切に自分らしく働きたい女性たちの活躍の場を提供することを志し、株式会社キャリア・マムを設立。
女性の再就労支援実績が認められ、全国商工会議所女性連合会第5回女性起業家大賞グロース部門優秀賞など、さまざまな賞を受賞。2014年には「おしごとカフェ キャリア・マム」、2018年には「保育室のある仕事場 コワーキングCoCoプレイス」を開業。講演、執筆など幅広く活躍。

キャリア・マムHP

Facebook


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?