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「ひのたね ひのかけら」としてボタニカルキャンドルを制作【古瀬陽子さん】

| 至極の一言 |

「キャンドルはいろいろな人の心に寄り添うもの。そして、灯の中で水を連想し、小さな大自然を感じます」

仕事のストレスから自身を癒すために作り始めたボタニカルキャンドルが、いつしか仕事になったキャンドル作家·古瀬陽子さん。
庭の植物を自分の手で乾燥させたり、顔の見える範囲から取り寄せたりと、素材にこだわり、植物の意思にゆだねる感覚でキャンドルを制作しています。オリジナリティ高い作品でありながら、作るときの気持ちは常にニュートラル。使う人のことを考えて、自分をゼロにして取り組む姿に、プロ意識を感じます。


家の菜園で育てた花やハーブ。植物にゆだねて作る、ボタニカルキャンドル

古瀬さん1

崎谷:「ひのたねひのかけら」という屋号、素敵なお名前ですね。

古瀬:キャンドル作家として、みなさんに灯(ともしび)を送れるようになりたいという思いを込めました。私の名前にも太陽の「陽」の字が入っているので、私自身も陽のかけらであり、破片でもあると思っています。

自宅の庭や家族の畑で育てた花やハーブを、自分で乾燥させてあしらいます。秋冬は、枝や松葉もいい雰囲気が出せますよ。

崎谷:植物の配置は、ご自身で考えてデザインされるのですか?

古瀬:絶対にここにこれがないと…と竹串で操作していたこともあるのですが、そうするとせっかくきれいにドライにした葉や花を竹串の先端で粉々にしてしまうんです。

「こうしたい」という思いが仕上がりを汚くしてしまうので、あるときから植物にゆだねるようにしました。「植物が行きたい方へお行きなさい」という感覚で作る方が、個性が出ます。

古瀬さん2

崎谷:ボタニカルキャンドルに香りはありますか?

古瀬:私のキャンドルには、あえて香りは入れていません。気持ちと香りは密接しているので、香りはそのときの気分によって選んでもらったほうがいいかなと思って。

崎谷:キャンドル本体の原料は、大豆由来のワックスを使われているそうですね。

古瀬:大豆を加工したワックスは、地球上から大豆がなくならない限り、人間が大豆を育てている限り、半永久的になくなりません。持続可能なところが、限りある石油系のものと違って、いいなと思い使っています。

自分のキャンドル作りの素材を狭めてしまってはいるんですが、そのなかでもできることを模索したいのです。

崎谷:古瀬さんのこだわりが使う素材に反映されているんですね。

古瀬:すべては難しいけれど、なるべく知っている方から材料をいただきたいと思っています。スパイスを取り扱っている知人から賞味期限が切れそうなものを譲ってもらったり、和ろうそくの芯に使う和綿も育てている友人から仕入れています。


アパレル勤務やセラピストの経験も今につながっている

古瀬さん3

崎谷:以前は別のお仕事をされていたとか。今のお仕事と結びつくところはありますか?

古瀬:全部、手を使う仕事で、相手がいる仕事という点が共通しています。アパレル関係に勤めていたときは、いろいろなデザインのバリエーションを考えさせられました。

今は、ある程度決まった素材で作るキャンドルを、自分なりにどうアレンジしてよさを出していくかということをやっているので、アパレル時代にやっていたことはいい訓練になりました。

セラピストになってからは、必ず向こう側に誰かがいるということを考えられるようになりました。

古瀬さん4

その前にもものづくりはしていたのですが、常に自分のためだったんです。

キャンドルはアート作品とは違い、人に使ってもらうものなので、使う人がいるということを考えて作ります。セラピストの気持ちと似ているかもしれません。

崎谷:ボタニカルキャンドルがお仕事につながったのは、インスタグラムがきっかけだったとか。

古瀬:仕事でストレスがたまって、休んでいるときにボタニカルキャンドルと出会い、ワークショップに参加して、はじめは自分のために習い始めたんです。

できたものの写真を投稿したら「教えて」ということになって。人に教えるなら、キャンドル作りは火を使うので、危険管理もできるようしっかり学ばなければと、キャンドル教室の上級者コースまで通いました。

私は「ボタニカルキャンドルしか作らない」と決めている作家ですが、様々な種類のキャンドル作りの基本や、火の歴史なども学べて興味深かったです。


キャンドルを灯せば、小さな大自然が手に入る

崎谷:キャンドルを灯すと癒されますが、作っていても癒されることはありますか?

古瀬:ありますよ。素材となる植物を手摘みしてドライにしていく過程で、そのさまや香りから癒されます。

古瀬さん5

キャンドルを作るときは、私は自分をゼロにするようにしています。キャンドルは火を灯すことで、いろいろな人の心がそこに寄り添うものだから。

私がハッピーな気持ちで作っても、お悔やみのために使うならそんなエネルギーはいりません。反対に私が悲しみながら作ってもよくない。

なるべくニュートラルな状態で、どんな感情も持たずに作らなければいけないと思っています。セラピストと同じですね。

崎谷:気持ちをゼロにするって難しいですよね。呼吸を整えてみようとか、いろいろするのですが……。

古瀬:自分をゼロに戻すために、私にはキャンドル以外の創作活動が必要ですね。刺繍で曼荼羅を作ったり、絵を描いたりして、自分の感情を排出してバランスをとっています。

身体を使う事もいい切り替えだと体験中です(その後、呼吸法やストレッチ、 それから二胡の練習も始められたそうです!)。時間はかかるけれど、ゼロにするのも仕事のうちだと思っています。

崎谷:キャンドルの灯は、不規則なゆらぎに気持ちが落ち着きます。

古瀬:私は、キャンドルに火を灯すと、そこに水が見え、まさに“小さな大自然”と思います。日常生活で身近に自然がなかったとしても、キャンドルに火を灯すだけで、手短に手早く、卓上で大自然を手に入れられる。みなさんもぜひ試してみてください。


<インタビュー後記>

生活の豊かさは心に余裕がないと手にいれられないものです。古瀬さんにとって生活の豊かさの指針となっているのがボタニカルキャンドルづくり。心の乱れや感情の起伏がキャンドルづくりに反映されてしまわないように、心をニュートラル=ゼロに戻すというお話が印象的でした。インタビューのあとに、オーダーでボタニカルキャンドルを注文しました。ピンク系の花がたくさん入り、ビーズがあしらわれたキャンドルが届きました。それは華やかでかわいらしいのに上品な仕上がり。これが私をイメージして作ってくれた作品だと思うと、恥ずかしくもうれしくありました。


古瀬陽子さんProfile /
東京都武蔵野市在住。アパレル関係、セラピストなどを経験するなかで創作活動を続け、現在は「ひのたね ひのかけら」としてボタニカルキャンドルを制作。大豆由来のワックスや櫨などの植物系ワックス、蜜蝋を使い、家の畑や庭で育てた植物をあしらってアレンジする宝箱のようなキャンドルが人気。キャンドルは東京·武蔵小金井の「でみCafe」などで販売。


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