前男(フロントマン)
突然ですが、僕はデヴィッド・リー・ロスが好きです。
それもソロのデヴィッドではなく、ヴァン・ヘイレンにいる時のデヴィッドが好きなのです。
もちろん、彼の後任であり本当の意味でのヴァン・ヘイレン黄金期ヴォーカリスト、サミー・ヘイガーの実力は疑うべくも無い。
っていうかデヴィッドと比べたら圧倒的にサミーの方が上手い。圧ッッッ倒的に上手い。
それでもデヴィッドの方が好きなのです。
それは生来の天邪鬼気質もあるんですが、その理由を諸々考えてみると
フロントマンとしてのデヴィッドが好きなのだな。と
『フロントマン』という言葉はロックが好きな人なら一度は見た事があると思います。
Front=前、Man=男・人、の名が指す通り、基本的にはステージの中央に立つ人≒ヴォーカリストを指す言葉ですね。
ではヴォーカリストとの違いは何か、については「ステージに立っているか否か」くらいの違いしかないのですが、この記事では
歌唱力など技量を語るときはヴォーカリスト
ステージ上の振る舞いを含む表現者としての側面を語る際はフロントマン
という風に区別しておきます。
さてさて、それを踏まえた上でデヴィッドとサミーを比べてみましょう。
まずサミー・ヘイガーというヴォーカリストの特徴は、なんと言ってもその高い歌唱力で、典型的ハードロックナンバーではワイルドなハイトーンを聞かせる一方、バラードでは男性的な力強さを保ったまま憂いを湛えた熱唱を聞かせる、非常にハイレベルなお人であります。
ステージパフォーマンスに限って見れば、よくも悪くも普通。
特に奇抜な事はせず、基本的には歌声とオーラで魅せるタイプの人ですね。
日本だとあんまりこの手のヴォーカリストっていませんね。松崎しげるさんとかかな?
デヴィッド・リー・ロスという人の一番の特徴はそのキャラクター。
バカみたいにド派手なステージ衣装を着て「どひゃーっ!!」みたいな顔でゲラゲラ笑いながらシャウトし、ステージをとにかく動き回って駆け回っては開脚ジャンプ。
その身体能力はもはやバンドマンでというよりアクションスターか何かかと思うレベル。
対して歌唱力の方は決して低くは無いというか、上手いっちゃ上手いのだが、よくも悪くも歌唱がワイルド過ぎるのと、パッションが歌心を勝っちゃうタイプなのである。
日本で言うと…………甲本……いや違うな……うーん……
まぁそんな訳で、うまい事好対照になっている二人なのですが、やはり「バンドのフロントマンとして」の部分を考えるとデヴィッドの方に軍配が上がると思うんです。
ヴァン・ヘイレンというバンドの根幹はとにかく明るく極度に陽性なアメリカン・ロックで、それはもう一人のフロントマンとも言えるギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンのキャラクターにも現れてますよね。
それまでギターヒーローといえばしかめっ面だったりアヘ顔だったり、どいつもコイツもほぼイキかけ状態でギターを弾いていたのに対し、エディはいっつも楽しそうに、まるでギターを初めて買ったばかりの少年のような顔でバリバリ引き倒すという姿が美しいギタリストでした。
その横に並び立つ者として、誰がふさわしいかと考えると、やはり実力派のサミーよりもバカ明るいデヴィッドの方がバンドには合ってるよなあと思う訳です。
ところでエディのギタープレイってオレンジ色に感じませんか?
そこに添える色を
「ラメとスパンコールでブリンブリンにしたパープル」にするか、
「安らぎと温かみのあるブラウン」にするかって話です。たぶん。
ま、そんな訳でですね、優れたフロントマンとは何かと言うと、
ただ目立つだけじゃなくてバンドのカラーや世界観を担える人物
と言いたいわけです。
そりゃそうだろ、とも思われるでしょうが、それってだいたいヴォーカリストがバンドの中核だからじゃないですかね?
日本だと少ないですが、元々僕が棲息していたHR/HMという魔窟では結構ギタリストやドラマーなんかがバンドのイニシアチブを握っていて、ヴォーカリストがコロコロ変わるのも日常茶飯事だったんですね。
すると当然「何でコイツ呼んできたんだ?」みたいな事象もちょいちょい起こる訳で。
中には「新ヴォーカリスト、前任者より上手いけど前任者のアイツじゃないと物足りねえなあ……」みたいな事もしばしば起こりますし、「路線変更したいからお前クビな!」なんてケースだってそこそこあります。
前者は後任に実力派が来ようとも、なんだかんだファンから求められ続けた男、マイケル・シェンカー・グループのゲイリー・バーデンとか
後者はアメリカ進出と実力を期待されてリッチー・ブラックモアが呼んできたのに、余りにも我を通し過ぎた昭和のチンピラルックスで結局追い出されたレインボーのグラハム・ボネットとか
なんかが著名ですかね?
この辺の事を考えると、ヴォーカリストとフロントマンに求められる素質は別物だな、って分かりやすいかと思います。
無論、フロントマンは派手であればいいというわけではなく、メガデスのデイヴ・ムスティンのように、ライブ中微動だにしないけど彼以外は考えられないみたいな例もありますので、あしからず。
それらを踏まえたうえで、結局最高のフロントマン・ヴォーカリストって誰やねんって考えると…………
結局フレディなんじゃねえかな……
ってなるのが毎度のオチなのでした。
U2のボノとかも結構いい勝負だと思うんですが、結局フレディを選んじゃう。にほんじんだもの。
ん?ヴァン・ヘイレンのヴォーカリストはもう一人いるだろうって?
お客さんツウだねえ。