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自分のパンツは自分で洗え〜3、あなたの精子は老化しないんですか?③


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『最初のお見合い時に結婚の条件などを話すのはNGなのですが、Dさんは早まってしまったのかもしれませんね』

 Dさんへのお断りメールを送ると、桜田さんからそう返事があった。

『相談所での活動は、実際にお会いしてみてどう感じたかというところが進めていくポイントになってきますので、まずは人柄を見てもらうためにも、生活に無理のない範囲でお見合いを進めてみてくださいね』

 続々と届くお見合い申し込みに、私は早くも決断力を試されていた。

 自分の条件から大きく外れた人は申込時に断りやすい。歳が離れすぎている人、年収が自分よりも低い人(注・この場合は250万円以下)、遠方に住み今後のやりとりが想像できない人……逆に悩ましいのが、想定した年齢より若干上の人や頑張れば遠距離で進めていきそうな人だ。

『お写真の印象も、お会いしてみると声の感じや雰囲気が違って見えてくることもあるので、真っ白な心でお見合いを楽しんでいただければと思います』

 写真の印象と実物が違うのはDさんの件で経験済みだ。自分が天童よ○みになってしまったように、不本意なお見合い写真で望んでいる人もいるのだろう。よほどの事がない限り外見で断ることはしないと心に決める。

 私からお見合いを申し込んだ男性が3人いる。桜田さんは私が設定した条件をもとに、自分の担当会員や同じ相談所の仲人ネットワークを使って相手を紹介してくれるのだろう。であれば、自分からは条件からちょっと離れた人を選んでみるのもいいだろう……と、早々に3人選んでみたが、結果は全滅だった。

 申し込んだのは同年代、上下2年以内の学生時代なら同じ校舎にいたであろう年齢。紹介文や自己プロフィールの項目から興味を持った人たちだった。

 やはり、同世代は難しいか。私は傷つきもせずそう割り切った。

 気持ちの切り替えが早いのは、マッチングアプリ含め婚活での年齢の掛け違いを間近に見ているからだ。

 20代前半、婚活パーティーにはじめて参加したときは右も左もわからなかった世界であり、年上好きだった私は10歳上にも果敢にアプローチしていた。20代後半は同世代・30代と不自由なくマッチングしていたところに、40代の申し込み数が増えていくことに気づいた。

 30歳を過ぎ、婚活パーティーで出会った男性を通じて交流会に参加するようになった。オフィシャルな会社ではなく、男性が主導で開催する内輪の婚活パーティーといったところか。男性の知人からつながっていく輪のため、男性陣は40代が大半を占めていたように思う。女性陣の年齢層は幅広かった。

『31歳ってもうおばさんだよね』

 お酒を飲みながらそう言ったのは34歳の男性だったか。30代男性は20代後半から同世代まで幅広くアプローチしていたが、その流れで一緒に絡んでいたのが40代男性だ。若い頃は10歳上の男性にくらっときていた自分が言うのもおかしいが、自分よりひとまわり以上年下の女子にアプローチする男性たちに違和感を覚えた。

  やはり男性は、若い女の子が好きなのだろうか。

 年齢を重ねるたび、マッチングアプリでもその流れが加速する。30代前半の自分が20代男性からアプローチされることがなくなり、同世代の男性にこちらからアクションを起こしても流れることが増えた。30代になって徐々に増えていったのが40代男性、そして50代・60代からもリアクションが来るようになった。

 30代中心の婚活パーティーに参加した際、自分より年下ーー31歳の男性に出会った。なぜ年上がいいのかと聞くと「お姉さんが包み込んでくれそうだから」とのことで、歳の近い私は彼の対象外だったらしい。


 この経験をもとに、私は相談所で出会うのは年上の男性が多いと思っていた。


 予想通り、申し込みが来るのは年上の男性ばかり。逆に年齢が近いと、プロフィールに難があったり、年収を非公表にしていたり……金が目当てで寄ってくる女は嫌だ、というアピールかもしれないが、必要な情報が伏せてあるとこちらとしても慎重になってしまう。

 結婚相談所という真剣な人が集う活動の場で、画質の悪いダウンジャケットの普段着姿。他会社の会員なのか、プロフィールがまるでマッチングアプリのそれ。あるいは、顔だけが切り取られてしかもちょっと人相が怖い。……え? 何を贅沢言っているんだって?


 推奨されたプロフィールに沿った行動を選択しない。

 有り体に言えば、足並みを揃えることができないということだ。


 難ありの申し込みはばっさりと切り捨て、迷った人のお見合いを受ける。有り難いことに、私にも入会バブルーー新規会員に申し込みが集まることーーが起きたようだ。桜田さんの紹介文、そして女子アナ風お見合い写真にしたことが功を奏したのだろう。

 Dさんは新規入会者に片っ端から申し込みをするタイプだったのだと、気づくまでにさほど時間はかからなかった。

 お見合いを受けると、次々と日取りが決まっていく。土曜は夕方まで仕事のことが多く、お見合いは日曜に集中した。土曜の夜に入れた場合は朝からメイクやアクセサリーの雰囲気が変わるため、先輩の甲斐さんに「今日はお見合いの日?」と見破られることもあった。

 一ヶ月のスケジュール帳が『趣味・お見合い』と言わんばかりに埋まっていく。どうせおめかしするなら一日に複数のお見合いを入れたほうが効率的だ。

 やがて桜田さんの紹介状が届き、珍しく同年代とのお見合いが決まった。


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 午前のお見合いはEさん、午後のお見合いにFさん。日曜に2件の予定を入れ、私は待ち合わせ場所の札幌駅周辺にいた。

 待ち合わせ10分前に到着し、私はEさんのプロフィールを確認する。同い年の彼は、いずれこちらからも申し込みしようとお気に入り登録した相手だった。

 プロフィール写真の、満面の笑みが印象的だった。明るい色のジャケット姿に清潔感があり、縁の太い眼鏡の威圧感を笑顔が相殺している。公共事業の会社に勤めているとの情報が最初から頭に入っていた。

 紹介文を読み返すと、ずっとやりたかった仕事に挑戦しているとあった。意欲的な男性だ、笑顔からも明るい性格なのだろう。待ち合わせ時間が近づき、私はそれらしき男性が現れたことに気づく。

 プロフィールはジャケット姿だったが、現れたのは上下スーツ姿。印象が違うが、眼鏡のデザインが写真と同じだ。5分前行動を当たり前にする真面目な方なのだなと、視線を送っているとEさんと目が合った。

「あ、こんにちは」

 声をかけるも、彼は顔を背けてしまった。

 ……人違い? 同じ相談所の利用者であれば待ち合わせ場所も被りかねない。眼鏡にスーツの男性はたくさんいるだろう。私はスマホに視線を落として時間が経つのを待った。


 待ち合わせ時刻になっても、新しい人が現れる様子はない。スーツ姿の男性を探しあたりを見回すと、動き出したのはーーやはり先ほどの男性だった。

「はじめまして、久深さんですか? Eです」

「Eさん、はじめまして。よろしくお願いします」

 挨拶をして、最寄りの喫茶店に入る。札幌駅周辺はカフェが多く、待ち合わせ場所にぴったりの店があった。

「さっき、目が合いましたよね」

 歩きながら、軽い雑談。

「声をかけようと思ったんですが、Eさんが反対側を向いてしまったので、人違いかと心配してたんです」

「あれは本人だという確証がなかったので」


 ……。確証?


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