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世界で一番かっこいい赤

「私が赤を好きになることはない」

小さい頃からそう思ってきた。
赤はとくべつな色。信号でいう“止まれ”の色であり、みんなが振り返る消防車の色。いざという時の赤はとても効果的で強い。戦隊ヒーローの中でも主役級で、パッと目を惹く情熱の色。
私は服を選ぶときに親に「真っ赤はダメ」と言われてから「赤は自分の色では無い」と思ってきた。地味な私にはおよそ縁の無い色だった。

そんな赤色に革命が起きたのは2015年。息子が二歳のとき。ディズニー・ピクサーの映画『カーズ』のDVDを見たのがきっかけだった。

『カーズ』の世界では車が自分で動いてしゃべる。登場人物は全て車。
主人公のライトニング・マックィーン(以下 マックィーン)は、とても自信家で実力もある若いレーシングカーである。真っ赤なボディと溢れる自信がピカピカと光って、まぶしい。
映画の中でマックィーンは、サーキットだけでなく普通の道路や土・草むら・砂などの道を走る。たくさん走る。走る、走る、はしる。
自信満々なナルシストだけど、子どもっぽくて素直なところもあり、とてもチャーミング。後半はバリバリのレースシーンになるのだが、かなりカッコいい。

二歳の息子はマックィーンに釘付けになった。『カーズ』のDVDをほぼ毎日、一日一回は見るという生活が始まった。これがその後ニ年間も続くとは、あの頃は知る由もない。

とにかく、赤いのが良いらしい。
赤、すげーな。さすがだよ、赤。
今まで私の人生に縁の無かった赤色が、どんどん生活に取り入れられる。
ちなみに私もマックィーンの虜となっていた。なにこのくるま。めちゃくちゃかわいくて、カッコイイ。すき!!!!
「息子が喜ぶかも~」と思い、ついつい赤色を選ぶ日々。というか、今まで見えていなかた赤が目に入るようになったのだ。選択肢が増えるというのは、うれしい。

試しに…と、トミカで発売しているマックィーンの赤いミニカーを息子にプレゼントすると、めちゃくちゃ喜んでくれて、前から・横から・下から、全方向死角なし!みたいなアングルで眺めまくっていた。マックィーンのミニカーは、その日から息子の相棒になった。

どこへ行くにも握りしめ、どこでも走らせる。アスファルトの上を「ぎゅいーん!」とドリフトし、ガリガリと車体が削られていくマックィーン。土の上も水溜まりにも躊躇なく入り、走り抜ける彼は ものすごい速度でボロボロになった。

私はその様子を見て「もうちょっと優しく遊ぼうね」と声をかけたんだったか、かけなかったんだか。息子があんまり夢中で走らせるから、遊ぶ時はマックィーンしか見えていなかったから、途中で「まあ、いいか」と思ったのは覚えている。

息子はこだわりが強く、何かが中途半端になるのを嫌がる子で、遊びを強制的にストップさせると後のフォローが大変な時期でもあった。
だから私は見ていた。マックィーンがアスファルトの上を走るのを。家の壁を、フローリングを、テーブルの上を、ソファーのフチを、お風呂場を、空中にだって走り出すのを。
そこには息子とマックィーンだけの世界が確かに存在していた。

マックィーンは毎日走り続け、とうとう何の車か判別できない見た目になった。メッキが剥がれ タイヤが付いている軸も歪んでしまった。
「もうボロボロだし、捨てようか?」と聞いたこともあるが、息子はハッキリ「いやだ」と言った。

それからも新しいマックィーン(カーズトミカでは色やデザイン違いのマックィーンが何台も販売されているのだ!)を買い足したけれど、ボロボロの初代マックィーンが捨てられることは無かった。
メッキが剥げて灰色の部分も多いけれど、このミニカーは息子が手にとった瞬間、世界で一番かっこいい赤になったのだと思う。

ちなみに初代マックィーンは、息子が11歳になった現在も捨てられることなく、息子の宝箱にしまってあります。今はもう手に取って遊ぶことは無くなったけれど。たくさん遊んでくれてありがとうね、マックィーン。

こうして私も赤色が好きになったのでした。今はまだ真っ赤な服を着る勇気がないけれど、今より白髪が増えてキレイなグレイヘアになったら、真っ赤な服やスカーフを見にまとって歩くかもしれない。
その時は息子に「マックィーンみたいでしょ」と言ってみようか。その機会が来るのをちょっと楽しみにしている。

おつかれ~!!


こちらの企画に参加させていただきます!

最初は「白のほうが書けそうだな~⛄️」と考えていたのですが、忘れられない赤を思い出して書きました!
#コッシーさんこーたさん白じゃなくてごめんなさい

マックィーンがどんなにカッコ悪いことになっても、まるっと全部大好きなんよ…🫶

#紅白記事合戦2024
#赤のエッセイ

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玉三郎
お読みいただき、ありがとうございました☺️