元研究開発者の日々の情報:潔癖性と強迫性障害の違い(2020年12月24日号)
(1)潔癖性
部屋の中の細かい汚れに敏感で、衛生的なことを強く意識して公衆トイレの洋式便所に座れない、という人がいます。
こういう綺麗好きの人は「潔癖性」と呼ばれ、医学用語ではありません。
一方、異常な潔癖症は精神疾患の可能性があります。
しばしば、テレビ番組でも潔癖症が取り上げられることがあります。
「仲間と食べる鍋料理が苦手」
(これについては、「鍋を(みんなで)直箸で食べるのは新型コロナウイルス対策としてだめですか?」と疑問が寄せられた。福井大学病院・感染制御部・岩崎教授は「食べ物を介する感染を過度に心配する必要はない」とし「それよりおしゃべりで飛沫(ひまつ)が飛ぶことや換気に注意を」と基本徹底を呼び掛けています。)
「シャンプーのヌルヌルが許せない」
といったエピソードがあります。
ただ、異常な潔癖症は治療対象になる可能性があります。
①感染症にかかる心配
「笑い話で済む潔癖症」と「不潔恐怖症の可能性がある潔癖症」の違いを、鍋料理で説明してみます。鍋料理に「他人の唾液が鍋の中に入る可能性がある」というイメージを持ち「嫌だな」と感じつつも、人間関係を優先させて食べる人は、通常レベルの潔癖症です。
一方、不潔恐怖症の人は、「人の唾液には必ず不潔な物質が含まれていて、それが鍋の中で拡大し、それを食べると病気を発症する」とまで想像が膨らんでしまいます。
不潔恐怖症の人は、浴室で洗剤で全身を洗うだけでは気が済まず、風呂を出てから全身に消毒用のアルコールを吹き付けたりします。また「人の手に1度でも手に触れた」という理由で、寿司やハンバーグを絶対に食べない人も、不潔恐怖症に含まれます。
②恐怖を取り除けない病気
不潔と感じること自体は、大切なことです。つまり、ひどい不潔は、毒になり、人の生命を脅かすからです。しかし一般の人は、「大丈夫な不潔」と「毒になる不潔」を見極めて、それ相応の対応ができるのです。
病気としての潔癖症のキイワードは、恐怖です。
一般の人が平気に鍋料理や寿司を食べられるのは、「仮に食材にばい菌が含まれていたとしても、体に備わっている抵抗力によって排除できる」と考えられるからです。つまり、鍋料理にも寿司にも恐怖を感じないのです。
または、当初は恐怖を感じていたとしても、合理的な説明を受けたり、ばい菌が含まれていないことの証拠を確認したりすることで恐怖を取り除くことができます。
しかし不安恐怖症の人は、どうしても恐怖を取り除けないのです。
③強迫観念による行動
不潔恐怖症として潔癖症を放置すると、強迫性障害を発症します。
ちなみに「強迫」は「無理強い」という意味であり、「人を脅す」意味の「脅迫」とは異なります。
潔癖症以外の強迫性障害の症状としては、人を遠ざけたり、時計を数十秒おきに確認しないと気が済まなくなったりすることがあります。これは「私は人を攻撃してしまう」とか「私には記憶力が備わっていない」という強迫観念にとらわれているからです
④潔癖症が増強される
不潔恐怖症としての潔癖症を引き起こす原因のひとつに、子供のころに受けた厳しいしつけがあります。もちろん「家に入ったらうがいと手洗いをしなさい」というしつけは、まったく問題ありません。
しかし過度なしつけをしてしまう親は、子供に恐怖心を植え付けて手洗いを習慣化させようとします。例えば、外の土や空気に含まれる雑菌を誇張して教えたり、「そうした雑菌が体内に蓄積すると簡単に死んでしまう」といった間違った知識を教えたりすることです。
しつけでは、親の想いが強調されて子供に伝わるので、親自身は「笑い話で済む程度の潔癖症」だったとしても、子供は「不潔恐怖症としての潔癖症」に悪化してしまう可能性があります。
また、「だれだれちゃんちは不潔だから泊まってはダメ」と外泊を禁じたり、「プールに大量の塩素をまくのは、それだけ危ない細菌がいる証拠」と注意してプールに行かせなかったりするのも、子供が過度に反応してしまう恐れがあります。
⑤認知行動療法
不潔恐怖症としての潔癖症には、きちんとした治療法があります。そのひとつが認知行動療法です。この治療の目標は「偏った考え方を修正すること」です。
例えば、「電車の中は他人の唾だらけだから乗ることができない」という患者がいたとします。認知行動療法ではまず、行動を1つ1つ分析します。例えば、
駅のホームにいるときは人ごみがあっても「平気」
乗客数が3人以下であれば「我慢できる」
座席に座っているときに隣の人と接触すると「冷や汗が出る」
といったことが細かく分かります。その上で苦手な行為を排除すると、通常の生活に近い行動ができるようになるわけです。
治療の効果が出てくると、荒療治も試します。満員電車でもひと駅分の乗車なら我慢できるようになったら、ふた駅分の乗車に挑戦します。こうして越えられる壁と越えられない壁を確定し、越えられない壁に極力遠ざける生活方法を見つけるのです。
⑥まとめ
潔癖症は治ります。自分が「変かも」と思ったら、精神科にかかってください。また、周囲の人に異常に潔癖な人がいたら、治すことができるということを伝えてあげてください
(2)強迫性障害
強迫観念に呪縛されて、これを打ち消そうとする「強迫行為」を行わずにはいられないのが強迫性障害です。
強迫観念というのは、自身の意思とは関係なく、頭から離れない不快、不安な気持ちを生じさせる観念です。それは、誰にでもみられる観念ですが、普通の人はたいして気にせずやりすごします
①潔癖症と強迫性障害の違い
潔癖症と強迫性障害の違いの一つに、他者を巻き込むかどうかをあげることができます。強迫性障害の人は、自分のこだわりや不安感が大きすぎるあまり、周囲の人に自分がしているのと同じような儀式ともいえる行動を要求することがあります。
②強迫性障害の原因ははっきりしていない
強迫性障害の原因は特定されていませんが、ストレスが増大する現代社会の中で、過度の防衛反応として強迫的思考や行動が誘発されるのではないかと考えられています。
また、神経生物学的な要因や性格などの心理的要因との相互作用を介して発症に至るのではないかという説もあります。このほか、脳内の神経伝達物質、セロトニンがうまく働かなくなることも要因であるとされていますが、現在のところ原因は特定されていません。
強迫性障害の治療は、主として精神療法で行われますが、さまざまな精神療法の中で実施されるのは、暴露反応妨害法と呼ばれるものです。
これは、回避したり、隠していたりする強迫観念に向き合い、直面化し(曝露法)、不安を軽減するための強迫行為をあえてしないこと、我慢すること(反応妨害法)を継続的に訓練する治療法です。
(3)最後に
潔癖症は病気でもなく、「悪」でもなく、絶対に矯正しなければならないというものでもありません。どこまで、自分の潔癖性のレベルを矯正すべきか、あるいはどこまでを許容するかは、人それぞれの生き方や価値観です。
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ヒルマイルド
引用:
1.精神医療従事者によるサイコセラピー研究所 2017.05.31
2.ホスピタクリップ 2016.12.05
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