雪で終わったバレンタイン
今回も大映4K映画祭のこと。見たいものが多すぎるけど、スケジュールとの兼ね合い、それと時代劇を優先して。
先週末は市川雷蔵の『ひとり狼』。一匹狼の旅烏の姿を描く股旅もの。どすの聞いた雷蔵の声が孤独な渡世人にぴったり。武家社会がぐらつきだした江戸時代後半に、掟としきたりと暴力で台頭してきたやくざ者たちの生態もきちんと描いている。ただ旅から旅に流れるだけではない。草鞋を脱いだら一汁一菜、食べ方から寝方までルールがあり、なにかあれば一宿一飯の恩義を返さないといけない。そんなやくざ世界の奇妙な世界をこの映画では描いている。ここに服装等々のリアリティを加えると『木枯し紋次郎』になるのでは。雪原を進む雷蔵が美しい。雪中の時代劇というのも珍しいが、これが公開された1968年は奇しくも雪山を舞台にしたマカロニウエスタン『殺しが静かにやってくる』が公開されていた。
そして数日後。公開当時『ひとり狼』と同時上映だった『怪談雪女郎』を。大映末期の傑作、以前京都で見た時はすっかり寝落ちしていたので、今回はしっかりとみる。
ご存じ雪女の昔話を映像化したのはこれと小林正樹監督『怪談』ぐらいか。いずれも恐ろしいというか、悲しいラブストーリーである。夜の雪山にそのrん書くだけがぼぅッと浮かび上がり、滑るように迫ってくる雪女が怖い。随所にその恐ろしさを見せる場面はあるものの、基本は大人向けのファンタジーであり、悲恋物である。
雪女役の藤村志保さんが美しい。これが般若のような形相で迫ってくるから、一層怖い。ただそこにいるだけで周辺を凍らせる雪女の恐怖は大魔神に近い。一人、雪山に帰っていくラストシーンも物悲しい。子供に見送られながら雪の中去っていくというのは先の『ひとり狼』と一緒だった。当時、二本一緒に見た人もそう思ったのだろうか。
続いて『切られ与三郎』。『いやさお富、久しぶりだなぁ』や歌謡曲『お富さん』でも知られた与三郎の物語である。大店の放蕩息子が何度も女に裏切られ、そして最後に堕ちるところまで落ちで、最後に真実の愛を知る、これもまた悲恋物といえば悲恋物である。
軽妙な市川雷蔵も魅力、クライマックスの雲霞の如く押し寄せる捕り方と江戸の町の大セットは圧巻。屋根から屋根へ、そしてラストの池もまたセットである。大映の時代劇はいつもそのセットに圧倒されてしまう。
映画を観終え、外に出ると、雪がちらついていた。なんという偶然か、これは雪女からのささやかなバレンタインの贈り物だと思うことにした。凍らされなくてよかった。
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