やや世界一周世界の旅
先月はコロナやらなんやらと、あまりいいことがなく、新年度からは巻き返しとばかりにいいことが続いてほしい、そんなことを思っているわけですが、先日見た映画のはしごはどれも外れなく、久々に充実した休日を送れました。幸せは映画の中にある、他にもあるけど、自分の生活に映画は大事なのです。
まずはジョージア映画祭2022へ。怪獣も暴力もない、この一見スルーしそうな特集上映をなぜ見たのか、といえばいろんな理由があるけど、何事も食べてみないとわからない。ということで今回はツイッターの呟きを再編集して綴ってみます。手抜きですな。
ジョージアという国を知ったのは、松屋のシュクメルリ鍋であり、鍋でありながらも味噌汁付きなところに松屋の矜持を感じ、お腹をタプンタプンにさせたものでした。そしてその時ジョージアが元はグルジアだということを知り、グルジアといえばリングスのビターゼ・タリエルとかグロム・ザザを思い出し格闘技に強い国かと思っていたら、芸術方面でも多彩な才能を輩出していた。ということで、ジョージア映画祭2022『アラベルディの祭り』を見る。1962年の映画、モノクロ。とある雑誌(新聞)記者がアラベルディ修道院の収穫祭を訪れる。そこの住民たちは飲んで、踊って、飲んで、踊って。さらに観光客も来て飲んで踊って。それを見た(眉毛繋がってる)記者は『いかんよ君たち!』と馬を盗んで走り出す。怠惰な民衆への怒り、そして労働から創造は生まれるという主張を記者の視点で描く中編。いや、勝手に村に来て『思ってるのと違う!』と勝手に暴れるのは君のわがままではないか? 冒頭のシーンで、雑誌編集部に貼られたオードリーヘップバーンのピンナップ。西側諸国の有名女優をこっそり忍ばせるところに、当時の共産圏の作家たちの弾圧へのささやかな抵抗を感じました。違うかもしれんけど。
上映後ははらだたけひで氏によるオンライントーク。社会の勉強のような楽しい内容でした。ジョージョアの人も酔っぱらって踊るとやっぱり足が出るコサックダンスになるのか、と。ジョージアはワインで有名ということもアフタートークで知りました。ジョージアの映画のみならず、言語、ワイン、宗教がその根幹にあり、何度も侵略の危機に晒されながらも国土を守り抜いた人たちの意気を知ることのできる貴重なトークでした。そうか、格闘技だけではないのだ。
これで個人的な三月のがっかり感へのリベンジは終了。長い間、お疲れさまでした、ゆっくりしてね、と心の中でつぶやいた。
そして、ここからは力と力が激突する映画たちへ。なんとなく見ようかな、見なくてもいいかな、という映画があったりするもので。ジョージア映画祭の後、時間が空いてしまったので次の上映の『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール報復の荒野』を見ようかな、どうしようかなと思っておりました。迷うぐらいなら見ておけ、と。ネトフリ映画でしょ、現状の映画ではできないことを配信ということで自由に作ってる、なんだかお高くとまってる印象ナンスよ、ネトフリ映画って(偏見)。これもなんだかそんな感じでしょ? で『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール報復の荒野』を見た。
冒頭、穏やかな家族の食卓に現れる無法者。板張りの床に拍車の音がカシャン、カシャンと響き、リボルバーの撃鉄ががチャリン、と鳴る。西部劇に大事なのはこの効果音だと思ってる。それが心地よい。そして夫婦は殺され、残された少年は成長し……賞金稼ぎとなって教会で親の敵を撃つ! 家族団らんに踏み込む無法者は『ウエスタン』『続夕陽のガンマン』を思わせる。
そして外連味たっぷりのオープニングで、あぁ、これはお高くとまってる映画じゃないぞ、好きな連中が寄ってたかって作ったマカロニウエスタン+ヒップホップ映画だった! 近年のアメリカで西部劇を作る際は根っこにマカロニ要素が必然的に入っているのが面白い。自らお尋ね者となりながらも仲間と共に親の敵を撃つ主人公に、それを迎え撃つ強大な悪党集団。ラストは西部の町でダイナマイト込みのドンパチである。そうですよ、西部劇ってこうでしょ? という見本を示したような映画。音と音楽がいいし、いつかどこかで見たマカロニ要素も詰まってる娯楽巨編でした。敵側に強い女の側近がいるのが西部劇には珍しいかなと思った。難を言えば、あのラストの下りはなくてもよかったかな、悪いやつはもっと極悪でないと。悪党が過去や家族の話をしてお話に深みを与える傾向はいいけど、悪役に感情移入してしまうとその悪さが薄くなってしまう。これをサノスってるといいますが(いいません)、今回のもまさにそうでした。因果応報という言葉がしっくりくる最終対決。リアリティとうその境界線で行われるドンパチ、しかし白人と黒人の街って当時あんなにはっきり分かれていたものなのか?
そして、今回の目玉、前売りも買って準備万端の『少林寺4Kリマスター版』へ。思えばジョージアとアメリカ、そして中国とワールドワイドな映画はしご。『少林寺』はリーリンチェイ(ジェット・リー)のデビュー作で、小学生の頃はジャッキーブームの後に少林寺の波が来て、『ブルースリー、ジャッキーチェン、リーリンチェイ誰が強い?』と人間扱いしない、怪獣強さ比べみたいな特集が学年誌で組まれてました。
父を殺された青年が少林寺で鍛え……『ハーダー……』に続き、また復讐ものだった! 厳しい鍛錬はあるけど、兄弟子や師父はリンチェイに優しい、和気あいあいとした部活の合宿みたいな雰囲気。殺生を禁じられたお坊さんだけどたまには蛙や犬を喰ってスタミナ付けるぞ。みんなで悪徳将軍とその軍勢を倒す大殺生だ!『少林寺』はリンチェイはじめ出演者のキレキレの演武、アクションが最大の見どころなのは言うまでもないですが、兄弟子の中には『将軍家光の乱心激突』でおなじみ胡堅強 (フーチェンチアン)もいましたよ、でもみんな坊主頭だから区別つきにくいや。このあと日本では爆発的少林寺ブームで、続編や『~への道』『三十六房』『阿羅漢』が公開されたと記憶してます。ジャッキーがカンフーからアクションへ移行する時期に合わせるように少林寺を舞台にしたカンフー時代劇が入ってきたのですな、たぶん。主題歌は『ハッハッハッハッ!』なキースモリソンではなくショーリーンショーリーンなほのぼのとした合唱が本来の主題歌。
『少林寺』ももう40年前の作品ですが、現代の技術によって美麗にデジタル復元されるのですよ。前売り特典のファイル、入場特典の横長チラシにパンフレットでリンチェイがいっぱい。劇場は『ドラゴン拳』読んでた世代でいっぱいでしたよ、嘘ですが!
以上、祭りと復讐劇、銃撃とカンフーな、結局はいつも通りのチョイスですがとても充実した映画三本でした。タイプは違いますが三本とも主人公が馬に乗っておりました。