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それはいた、それを見た、森の中
最初はいつものJホラーだと思ってました。ある日、森の中、熊さん……じゃない、あれは熊じゃない、クマじゃないよー! と嵐の相葉君が絶叫しまくる予告を見て(全然違いますが、だいたいこんな感じ)、『これは何かあるな』と思ったのです。森にいるのはいつもの怨霊とか曰く因縁つきの何かか、それとも……気になるなら見るしかない、と仕事明けに『”それ”がいる森』を見てきました。『リング』『事故物件』でホラー物には定評のある中田監督ですよ、いったい何を見せてくれるのか。
この先、内容(ネタバレ)に触れてます!
東京を離れ、福島で一人暮らしをしながらオレンジ栽培に勤しむ相葉君の下に、小学生一人息子が転がり込んでくる(あぁ、相葉君もお父さん役を演じる年齢になったのか、と嵐ファンではないけど、そんなことを思った)。彼の新しい学校生活と並行して、近隣で起こる不可解な出来事。さっそく仲良くなった友人に、普段は立ち入り禁止の山に作った秘密基地に誘われる息子君。転校先での友人関係、そして意地悪なクラスメイトとの関係も見せつつ、ジュブナイル的に展開するのかな、と思いました。
二人だけの秘密、秘密基地で楽しく遊んだその帰り道、二人は山の中でおかしなものを見つけます。ぽつんとそびえる銀色の人工建造物。そして、その周辺をせわしなく動き回る、怪しい影。あ、UFOか、宇宙人か! Jホラーっぽい宣伝を仕掛けておいてこの映画、そっち方面(侵略SF)に舵を切るつもりだな! 少年たちが一見無造作に置かれたUFOと遭遇するというビジュアルは『ガメラ対大悪獣ギロン』のようでもあり、幼少期のトラウマとなった実際のUFO遭遇事件『甲府事件』を彷彿させます。息子君の友人が、令和のちびっこキャスティングにしては珍しいおデブさんなのも、昭和テイストを醸し出します。デブの友人は得体のしれない怪物に襲われ、それ以後、頻繁に子供誘拐事件や大人の惨殺死体が発見され、町ではクマの仕業だとして、猟友会が出動するものの……。
『得体のしれないものを見たけど、大人に信じてもらえない子供』『子供を信じて、警察に通報するけど、信じてもらえない大人』『怪物は実は○○で、退治したからもう大丈夫、と思いきや』という怪物映画での定番を踏まえ、映画は一気呵成に『ホラーだと思った? ゴメンゴメン、これ、宇宙人映画なんよ!』とばかりに開き直って加速する! ついには相葉君がオレンジ栽培しているビニルハウスにも出現する宇宙人! 天源山に出現したエイリアンだからテンゲリアンとでも呼べばいいか!
宇宙人は子供を捕食し、大人は殺す! 60年前、同じような子供の誘拐事件に遭遇して以来、宇宙人の存在を信じる町の変わり者爺さんの言葉を信じ、相葉君は息子を守るために立ち上がる! ついでに子供を守る立場の小学生教諭松本穂香もやってやるって! 宇宙人説をまったく信じない警察の指導で、子供たちは小学校に避難。でもそれは宇宙人にとってエサがいっぺんに集まっただけで好都合に過ぎない! 『お上のやることはだいたい逆効果』という、バケモノ映画のセオリーを踏まえた上で、ビニルハウスでの経験で、相葉君は秘策を見つけた! がんばれ相葉君! 奴らは害虫でダメになったオレンジに触れるとおびえていた。そうだ、植物に沸いた細菌が弱点だ!
ホラー映画に見せかけて『お父さん対宇宙人』というまさかの展開に自分はニヤニヤしてしまったけど、ホラー目当てで来たお客さんにはどう映ったのだろうか。『○○かと思って見に来たら、××でした、チクショー』な、小梅太夫みたいな展開は同時期の上映中の『NOPE』と若干重なるし、それよりも、謎めいた仕掛けを施しながら、結局宇宙人映画だったシャマランの『サイン』も彷彿させる。
『リング』の中田監督らしく、ここぞというところの怖がらせ方は一品で、古今東西のUFO、UMAネタをちりばめているのもうれしいところ。とある親子が道路で宇宙人を引きそうになる短いショットは、かつて本で読んだドーバーデーモンの目撃イラストに酷似していたりする。
惜しむらくは宇宙人であるというネタ晴らしがちょっと早いかな、というのと、宇宙人のデザインが、いつものグレイタイプをマッチョにした感じ、というのが残念。せっかく本邦久々の宇宙人映画なのだからデザインは凝ってほしかった。配給の松竹からすれば『吸血鬼ゴケミドロ』以来の宇宙人侵略モノなんだから。宇宙人テンゲリアンが捕食する際、縦に割れた口がそのまま胸の下までパカーと開きます。まるで『ゴジラ2000』のオルガみたいですが、デザイナーさん一緒でした。
相葉君の息子が『お父さんはまた逃げるの?』とかいうフレーズ連発しすぎでウザいな(宇宙人相手だったら逃げるよ)、とか、松本穂香の感情線の動きがよくわからない(教師としてどう動く、個人としてどう動く、言われたから動いてないか? べただけど『エイリアン』のリプリー、あるいは全身泥をぬって『プレデター』のシュワルツェネッガーのポジションでは? そう、この映画に足りないものはシュワルツェネッガーとシガニー・ウィーバーだ)とか、色々ありますが、個人的には邦画でここまでやってくれたのが気持ちよかったので、応援したいです。
でも宇宙人映画、当たるのかな……。
エンドクレジットで、モデルになった山が本当にUFOの観測スポットとして有名だということを知り、『ガチだったんだ』と驚き、『UFOご当地映画だったのか……』と、この映画が作られた真相を知り、最後の最後で戦慄しました。