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じゃれあいメンズの大銃撃戦 

 例えば、いつも通っていた定食屋がいつの間にかコインランドリーに変わっていたような。いつもスルーしていた古書店がつぶれて、跡地にデイサービスセンターができていたような。普段当たり前のようにあると思っていたのもが消えて代わりに新しいものがやってくる。そんな感覚を味わったことは何度かある。

 80年代中旬。世間はシュワルツェネッガー、スタローンに代表される筋肉マシンガン映画が隆盛を極めていた頃、香港からちょっと変わったアクション映画がやってきた。『カンフーがない』。これだけでも脅威だった。夏や冬にやってくるジャッキーチェンはカンフー含め、様々なアクロバティックなアクションで観客を楽しませてきた。でも、今度のやつは違うぞ。そもそもカンフ―できるのか? カンフーしないの? え、銃でカタをつけるの、これが大ヒットしたの? と今までとはちょっと毛色の変わった映画がやってきた。そしてそれ以降しばらく、香港映画といえばカンフーではなく銃撃戦アクションという時代があって、香港映画も徐々に変貌してきた。もちろん、カンフーもある、あるがそこに新しいものが加わってきたのだ。その映画『男たちの挽歌』を封切り時には見ていない。当時住んでいた和歌山では『死霊のえじき』と二本立てで怖かったからだ。

 後年になってソフトでそれらのシリーズを見ることができ、そのすさまじさに改めて驚愕したのだが、そんな『男たちの挽歌』が4kリマスターとなって帰ってきた。一時代を築いた香港ノワールを劇場で体験しようと10年ぶりに大阪のテアトル梅田へ出かけた。

 劇場につくと、モデルみたいなお姉さんたちが写真撮影をしている。どうやらお向かいのテレビ局でイベントが行われており、そこに出演するKPOPグループのお姉さんらしい。そっちも気になるけど、こっちは韓国ではなく香港の男映画を見に来たのだよ、と久々にテアトルへ続く階段を下りる。

『男たちの挽歌』は極道の兄と警官の弟の兄弟愛に、男の友情を絡め、べたなドラマをちりばめた作品。もちろん友情と愛情のドラマに心揺るがされるもするが、メインは、二丁拳銃メインの大銃撃戦である。漫画みたいな構えでリアリティのない二丁拳銃を『かっこいいからやってみました』とばかりに臆面もなく多用したジョンウー監督の大勝利である。この映画でブレイクしたチョウ・ユンファは黒コートに二丁拳銃という、世界中の中学生の『かっこいいセンサー』にビンビンと引っかかるガンファッションが大いに受け、以降このスタイルは『マトリックス』はじめ全世界で模倣されることになり、タランティーノの映画で『香港映画の影響で黒人がベレッタを二丁買うようになった』と言わしめるほどである。

 筋肉マシンガン映画とはまた違った、どこか古臭いけど、それがために誰も手を付けなかったガンアクションにあえて挑んでみたら、一周回ってムチャクチャかっこよく見えたのである。そしてカンフー映画の時と同様、続編、亜流作品が劇場やレンタルビデオショップにあふれることになり、そしてジョンウーはハリウッドでもそのスタイルを崩さないアクション映画を撮ることになる。
 
 ベタだけど、男たちの物語(じゃれあい)に思わず心揺さぶられてしまう。じゃれあい、イチャイチャすればするほど、哀しみが倍増するのです。先日からリー・リンチェイ、ジミーウォングときて、チョウ・ユンファ。デジタル化のおかげでアジアンアクションの流れをスクリーンで体験できるいい時代になった、と思う。そしてこれらが世界の映画界に及ぼした影響は決して小さくない、と思う。映画を観終わり、ユンファ気分で渋い顔をして映画館を出る。そしてユンファのように煙草に火を……と思ったら、梅田周辺はほとんど禁煙地帯になっていた。これも時代だな、と渋い顔で、ユンファな気分で街を出た。

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