今年最後の映画のこと
12・11 シネ・ヌーヴォX『ぼくたちは見たーガザ・サムニ家の子どもたちー』。
2009年のイスラエル軍侵攻後のガザ地区、そこに暮らす子供たちを追ったドキュメント。冒頭、少年の『他の国の子どもみたいに遊びたい』が全て。家族、親族を殺された子供たちの姿に月並みな『戦争よくない』としか言えない。
他国のこととはいえ、なにができるの? 映画上映で支援するんや! というヌーヴォさんの気概に賛同した次第。イスラエルとパレスチナ、宗教、思想の違い、その根は深いと思う。でも何であれ、子供を巻き込むなよ、とは思う。もう戦争やめとけ、と言って止まるわけではないけど、子供たちの無邪気な姿を見ると、余計そう思う。やめとけよ、自分たちの国でじっとできないもんですかね。とにかく子供を巻き込むな、その家族、親族も巻き込むな、丸腰の人間を巻き込むな。戦争するな。あれから14年。あの子らは今はどうしているのかが気になった。
続いてシネ・ヌーヴォ・名画発掘シリーズリクエスト特集vol.3『アマゾン無宿世紀の大魔王』。タイトルからしてそそられる! どんな映画なのかさっぱりわからないところがいい。人生初、がっつり見た片岡千恵蔵映画で、平日のお昼にほぼ満席。やはり知恵蔵御大効果なのか。火山の噴火で始まるニュー東映!
アマゾンからやってきたのは仮面ライダーだけではなかった。ソンブレロにポンチョで、それはメキシコでは? と思わせるアマゾン無宿の源治、ニューヨークから来たゴールドラッシュの熊吉にパリからはジャック、その三人組が日本カジノ化計画を阻止する無国籍アクション。プリント綺麗。
カジノに悪党の隠れ蓑が新興宗教、なんだか今に通じるものがあるけど、人間やることは昔から変わってないだけかもしれない。今足りないのは二丁拳銃の片岡千恵蔵御大だけ。時代劇のノリで大きな顔と声で悪党どもを撃ちまくる! 漠然とした無国籍なノリが楽しい。躁鬱病を『お祭りきちがい』と呼ぶのはどうかしてるけど、人気コメディアンが暴れまわる精神病院の描写を含め、楽しいことしかないじゃない。メキシカンスタイルで横浜に立ち、木曽節を謳う知恵蔵御大、アマゾン無宿はいつしか日本の首領へ。しかしガザ地区のドキュメンタリーに続いて片岡千恵蔵とは、これがミニシアターの醍醐味。
そして『スキャナーズ』! ガザ地区、片岡千恵蔵ときて締めはクローネンバーグ、無茶苦茶ですな。スキャナー(異能力者)が善と悪に分かれて戦う、と書くと派手なSF超能力バトルを連想させますが、クローネンバーグですよ!
痛快なSFアクションになるはずもないけど、見せ場はふんだんにありました。相手の生命活動を操るどころか発火現象、幻覚まで見せる万能エスパーのスキャナーズ。電話ボックスから電話回線をスキャンしてコンピューターをハッキングするとか、当時としては斬新だったのでは。とにかくよく燃える映画。
超能力合戦は特殊メイクと顔芸対決。なぜスキャナーが生まれたのか、そしてついには相手を取り込む能力まで得たスキャナーの未来は? ハッピーエンドにも一捻り。今年見た『ビデオドローム』に続いてのクローネンバーグ。とにかく人間と何かが融合するのが好きなのだなぁ。
あの有名な頭ボカーン! は序盤で登場し、これからどうなるのか? とヒヤヒヤさせるも、それ以降も見せ場多し。異能力者の孤独と覚醒してからの活躍、そして驚愕の真実。トラックがレコード店に突っ込むシーンはなんだかもったいないなぁと思いました。
12・16『銭ゲバ』
シネ・ヌーヴォで『銭ゲバ』を見たズラ。立身出世、つまりは銭のためなら周りの人間、子供も犬もどんどん殺しても厭わない最低人間蒲郡風太郎。いや最低人間と書きましたが、彼にもそうなった悲しいいきさつがあるズラ。それでもひどい、ひどすぎて笑いがこぼれるズラ。ドラマ版見ていてよかったズラ。
台詞回し、キャラの動きがジョージ秋山の漫画っぽく見えるから不思議。何もかも手に入れた先には空虚さのみしか残らぬズラ。原作読んでないけど救いようのないラスト。脳天を灰皿でカチ割られてると体がびょーんと伸び、グレートカブキのように口からビールを吹く、岸田森の死に様がおかしい。
強烈なインパクトの主題歌ズラ。1070年、『子連れ狼』による劇画実写映画ブームより少し早かったズラ。でもブームに乗ってもあの陰惨さは変わらないと思うズラ。映画館を出ると雨が降っていたズラ。レインメーカーズラ。
蒲郡風太郎が『50円分ラーメンください』というと、店員が『うちのラーメンは80円だよ!』と返すシーンがあって。あれから50年以上たつと、ラーメンも10倍ぐらいの値段になるのかな、と。
12・27『エクストリーム・ジョブ』
たぶん今年の映画納めになるであろう、シネ・ヌーヴォへ。今年はたくさんお世話になりました、来年もよろしくお願いします。名画発掘シリーズリクエスト特集、今年最後の映画は年末年始に相応しくとても楽しい『エクストリーム・ジョブ』! 最後の最後に今年のベスト映画を観たよ、三年前公開だけどさ。
『エクストリーム・ジョブ』とは? 麻薬組織の動向を見張るため、組事務所のお向かいのフライドチキン屋を買い取った刑事たちが、カモフラージュのためチキンを撃ってみたらこれが大好評で、張り込みどころではなくなる、というお話。もう、冒頭から面白いものしか見えない映画。最後まで失速しない!
捜査よりもチキン、だんだんお店の経営に比重が傾きかけたその時、良くも悪くも転機が訪れる。個性派ぞろいの五人の刑事、そのうち二人がなぜ前髪ぱっつん、ザブングル加藤みたいな髪型なのか? はさておき。コメディとはいえ、韓国映画のアクション描写は本当に痛々しい。
ダメ刑事かと思いきや実は……なクライマックスの爽快感。映画はこういうのでいい、悪い奴らはボコボコにされればいいのです。それでもアクションは手抜きしない。車にはねられるシーンは事故映像みたい。見終わってから無性にチキンが食べたくなる……こともなく、むしろ焼肉が食べたくなりました。
アクションもさることながら、韓国映画に出てくるヤクザは本職に見えるし、しょぼくれた男は本当にしょぼくれてる。俳優が演じてます、という感じがしない自然さ。だからこそクライマックスは胸がすく思い。ムエタイ刑事イ・ハニさんも本当は美人だけど、野暮ったい姉さんに見えるしねえ。
以上、今年見た映画は延べ147本。見過ぎや。 新作は約三分の一ぐらい。ほとんどヌーヴォさんで見た旧作だらけ。特集上映いくと、本数増えるね。
たくさん新作、話題作も見たけど、引っかかるものが少ない。年取ったかね。『ミーガン』『エクストリーム・ジョブ』『丘の上の本屋さん』『月』『福田村事件』『ザ・フラッシュ』ですかね。旧作は007とマクロスが見れたのがよかったです。今年はいつになくドキュメンタリーを見たなぁ『東京裁判』とか『ぼくたちは見た』とか、そして少しだけ、戦争やしょうが者の問題について考えてのでした。少しだけ。
それではよいお年を