変化するIT企業同士のゲームのルール 独占から寡占へ
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※下記の記事をラフに翻訳したものです
The Economist
2021年2月27日版
”The rules of the tech game are changing
A new phase in the global tech contest is under way"
https://www.economist.com/leaders/2021/02/27/the-rules-of-the-tech-game-are-changing
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市場の独占から寡占へ
IT業界が独占によって支配されているという考えは非常に広く支持されています。投資家も独占禁止法の監視人もそう考えています。しかし、今後もIT企業が独占を維持するのはますます難しくなるでしょう。IT業界は変化の時を迎えています。
米国ではデジタル市場が独占から寡占にシフトしており、シェア2位と3位の企業が台頭して、首位と激しく競争しています。大手IT企業は「顧客とデータ」をめぐり、しのぎを削っています。iPhoneユーザーのプライバシーを誰が管理するかをめぐってアップルとフェイスブックが対立しているのもその一環です。
そして、アジア各地でもIT企業大手が競争を繰り広げています。IT業界の新たな競争の構造は、The Economistが支持するオープンで開かれた資本主義とはかけ離れていますが、寡占は独占よりもはるかに優れています。
シリコンバレーではかつて創造的破壊の強風が激しく吹いていました。トップから凋落した企業のリストは、フェアチャイルドセミコンダクター(1957年創業。かつて存在した米国の世界で初めて半導体集積回路の商業生産)からヒューレットパッカードまであります。しかし近年、巨人たちは長く覇権を握っていました。アップルとマイクロソフトはもう創業40年以上、アルファベットとアマゾンは創業20年以上、 フェイスブックでさえ今月で17年です。
その原因は「ネットワーク効果により規模の経済を生む一方で、データが参入障壁となっているから」のようです。それは、
・検索
・ソーシャルメディア
・広告
・eコマース
・ストリーミング
・ライドシェア
・配達
・支払い
すべてに共通しています。
選択した分野で優位に立った多くの大手IT企業は過去10年間、互いに直接競争する意欲をほとんど示していません。 マイクロソフトのBingで最も検索されている言葉は、フェイスブック、YouTube、グーグルです(競合しない大手IT企業)。 アマゾンのFirePhoneを覚えている人はほとんどいないでしょう(アップル,グーグルとのOS開発の競争からすぐに撤退しました)。
パッと見、何も変わっていません。IT企業は2020年に利益を上げ、投資家は今後さらに多くの利益を上げるだろうと見込んでいます。米国の5つの巨人のの市場価値は7.6兆ドル。しかも彼らの売上は今後10年間で2倍になる見通しです。
見えてくる2つのトレンド
しかし、目を凝らすと変化が起こっていることに気が付きます。マーケット首位のシェアは縮小していませんが、2015年以来、シェア2位と3位のシェアが18%から26%に拡大しています。このことから2つのトレンドを読むことができます。
1つ目の変化は、大手IT企業の主力プロダクトが成熟し、多様なプロダクトを提供し始めていることです。巨人たちは互いのマーケットを荒らすようになったのです。他社と重複する、アメリカの5大巨人のシェアは2015年以来、22%から38%に上昇しました。マイクロソフトとアルファベットはクラウドでアマゾンに挑戦しています。アマゾンもデジタル広告で台頭しはじめています。
もうひとつの変化は、IT企業ではなかった部外者が勢いを持っていることです。創業98年のディズニーは18ヶ月で1億1,600万人の新規ストリーミング顧客を獲得し、創業58年のウォルマートは昨年オンライン販売で380億ドルを売上ました。 eコマースのShopifyやPayPalなどの独立したIT企業は、コロナ・パンデミックによる特需のおかげでブレイクスルーを果たし、自立するのに十分な利益を生み出しています。
この競争は一時的なものだと思われるかもしれませんが、アジアでは前例があります。顧客の選択肢が増え、製品間の差異があいまいになり、市場シェアが変わり、利益率が低下し、イノベーションが起こったりしました。中国にはアリババとテンセント、そして1,000億ドル以上の価値がある企業が5つあります。
インドにはジオ(Jio)が、東南アジアにはグラブ(Grab)、ゴジェク(Gojek)、シー(Sea)があります。これらの企業は、コストをかけて市場を独占しようとするのではなく、顧客を獲得して他のマーケットにも進出するでしょう。たとえライバルと衝突するとしても、彼らは多様化して拡大することを求めるでしょう。
気をつけないといけないのは、この競争は少し出来レースっぽいところです。iOSとAndroidをめぐるアップルとグーグルの2社による寡占は盤石です。広告についても、Facebookに代わるものはまだありません。さらに、IT大手の企業間には心地良いつながりが多数あるのです。例えばアルファベットはアップルに年間最大120億ドルを支払って、グーグルをiPhoneのデフォルトの検索エンジンにしています。アリババとテンセントは、中国の新興企業に出資したりしています。
とはいえ、このGoogleの支払いは現在、独占禁止法の疑いで法務省の訴訟の対象となっています。ヨーロッパではさまざまな企業の製品を連携させ、ユーザーがデータを移動できるようにするためのルールを策定しています。中国はeコマース企業に「9つの禁止事項」リストを策定し、その中には「新しい競争相手を締め出さないこと」が記載されています。
なので、みな野心が旺盛です。ディズニーは2024年までに3億2500万人の顧客を獲得する計画です。ペイパルは2025年までに同社の金融スーパーアプリのユーザーを7億5000万人、獲得する予定です。ウォルマートは広告会社を買収したばかりです。 Facebookはeコマースに参入しています。 Microsoftは、TikTokとPinterestの2つのソーシャルメディア企業の買収を検討しています。中国のHuaweiは、iOS-Androidの複占に代わるスマホ用OSを作成するのに忙しいのです。
というわけで
寡占的競争は消費者に利益をもたらす可能性があります。より多くの企業がサービスの範囲を拡大するために競争するにつれて、消費者にとっては選択肢が増えます。そのためプラットフォーマーは顧客の信頼を獲得することで差別化しようとします。アップルがiPhoneユーザーに、「Facebookによるデータ追跡を拒否しますか?」と聞いているのはそのためです。たとえ広告市場が台無しになろうとも。また、仮企業が顧客へ接触する新たなツールとしての仮想現実などの分野でイノベーションが促進される可能性があります。
2000年当時、テクノロジーが独占に向かうと予測した人はほとんどいませんでしたが、今日では常識となりました。今後もこの寡占的競争が持続するのか、競争が消費者に利益をもたらすのかは誰にもわかりません。しかし、この状況は何年も前よりも有望です。独占禁止法の規制当局は市場が開放されることを評価しようとしています。資本は豊富ですし、世界的なオンライン活動の需要が急増しています。デジタル経済の競争が激化するほど、市場、消費者、企業のいずれにとっても喜ばしいことです。