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今年も暑い夏!大会前には暑熱馴化・暑熱対策を!

マラソンシーズンが過ぎ、少しずつ暖かい季節から、暑い季節になってきました。まだ大会はまばらに開催されていますが、今後の大会はある別のトレーニングが必要になってきます。

そう「暑熱馴化」です。

しかし残念ながら暑熱馴化の知識は、十分に流布されてはいないようです。

アメリカのマサチューセッツ州のファルマスロードレースに出場した選手に対して行ったアンケートでは、レース前から水分摂取が重要で、脱水や濃縮尿は危険なことに重要性は90%以上が理解されていました。ですが、暑熱馴化に必要な日数や、水の飲み過ぎによる水中毒を知っていたのは50%未満でした。

Hosokawa Y et al. Knowledge and Belief Toward Heat Safety and Hydration Strategies Among Runners: A Preliminary Evaluation. J Athl Train. 2019.

都内では、GWの5月3-5日は熱中症警戒アラートが「注意」となっていました。
春日部大凧マラソンはめっちゃ暑かったそうです。

改めて暑熱馴化について、書いてゆきたいと思います。

1.今年の夏も暑いぞ!!

気象庁:全国の季節予報よりhttps://www.jma.go.jp/bosai/season/#term=3month

今年の夏の長期予報をみてみると、北日本は平年より暑い日が40%、東日本・西日本・沖縄奄美は50%となっています。

雨は平年並みの予報ですが、今年も暑くなりそうです。

東進・日本初!90日先の天気予報よりhttps://www.jma.go.jp/bosai/season/#term=3month

また、最近は90日先の天気予報まで公開されています。
あまり先の天気予報は、信憑性に劣ると思われますが、夏の暑さをある程度予想する材料にはなると思われます。

2.では暑さに対抗するには~暑熱馴化とは?

2-1.暑熱馴化とは?

暑熱馴化とは暑熱下のトレーニングにより、上がってくる深部体温に対する抵抗力をつけることです。

実際に暑熱の中で運動を継続して身につく変化は、
①皮膚血管拡張機能の亢進
 (体温を効率よく逃がす事ができ、結果体温が上昇するスピードを抑えることができます。)
②循環血液量の増加
 (皮膚血管が拡張しても相対的な循環血液量の減少を抑えることができます。また、汗をかいても脱水になりにくくなります。)
③汗腺機能の亢進
 (汗腺から喪失する水分が増加し、体温が上がりにくくなります。また塩分の喪失が減少し、低ナトリウムになりにくくなります。)
④暑さの不快感の緩和 
 (メンタル的に強くなります。)

結果、暑熱下でのパフォーマンスがアップします。

若年者、高体力高齢者、一般高齢者の暑熱順化実験結果 :厚生労働省、夏季イベントにおける熱中症対策ガイドライン2020より

分かりやすく言いうと、
身体的には、暑さに対する防御スイッチが速く入る、防御力も増す。
感覚的には、暑さに対する苦痛が和らぐ。

ということです。

2-2.どのくらいで暑熱馴化する?

10日から2週間と言われていますが、ダメであれば1日2日でも暑熱に馴れた方がいいです。

下のグラフは高温下労働での、熱中症死亡の起こった人数です。

平成9-28年の高温下労働における死亡災害がおきた、作業開始からの日数

3-4日目からグーンと減って、1週間もたつとだいぶ少なくなることが分かります。

運動でも同じことが言えます。
下のグラフは暑熱馴化初日と6日目、14日目を比較したものです(文献)。

自転車競技選手における暑熱馴化と深部体温(直腸温)と運動パフォーマンス :Sebastien Racinais et el:Med Sci SportsExerc.2015.3; 47(3):601-6

暑熱馴化は10-14日と書いたものを多く見かけますが、上のグラフのように6日目(5日間馴化)したものでも十分に成果がみられます。

2週間馴化するのに越したことはないのですが、1日2日でも馴化すれば多少は効果があります。

3.これからの暑さへの取り組み方

3-1.5-6月は暑熱馴化

5月6月は、暑い日と涼しい日がまばらにあります。そして運悪く、大会が暑い日となることもあります。

残念ながら、練習日はいつも暑いわけではありません。そして練習は涼しい早朝や夜間のことが多いと思います。
結果暑熱馴化が出来ていない事が多いと思います。

ですので天気予報で「大会の日は暑いかも?」と知ったら、2-3回でも暑熱馴化して下さい。方法は、
・練習では厚着をする。
・練習後にサウナスーツを着る。
・練習後にサウナに入る(文献)。
・練習後に入浴する(文献)。
といった方法が有効です。

3-2.7月以降は暑熱対策

この時期は、普通に練習をしていればある程度暑熱馴化はできています。

もちろん暑熱馴化を万全にしても、冷所を走るようにパフォーマンスを発揮できるわけではありません。しっかりと暑熱対策が必要です。

①水分摂取
一般的に体重の2%の水分を喪失すると、持久力運動のパフォーマンスが低下すると言われています。
ですが実際は体重の1%水分を喪失すると、深部体温が0.4℃上昇するとの文献があります(文献)。つまりは熱中症になりやすくなる訳です。

喪失する分の水分をしっかり摂取しないといけないわけです。
米国スポーツ医学会は、運動開始前の数時間前に300-600mlの水分を(体重60kgの人の場合)、運動中は0.6㍑/時間を摂取することをすすめています(文献)。ただ発汗量は個人差があります。普段から暑熱下の運動で、どの程度体重が減るかを把握して、その分飲水をしっかり摂るよう心掛けましょう。

②塩分摂取
暑熱下では汗中の塩分が増加します。
左下のフラフは暑熱馴化できていない被検者において、屋内のトレッドミルで汗中のナトリウム喪失を調べたものです(文献)。

発汗量と塩分濃度(左)フルマラソン時の汗の電解質濃度(右)

大量発汗すると、汗中のナトリウム量も増加します。
例えば20℃の環境で軽く汗をかく場合は、スポーツドリンクでOKかもしれません。
ですが35℃の環境で大量発汗する場合は、しっかり経口補水液で補給しないといけないかもしれません。

また右上のグラフのように(文献)、汗の塩分濃度は個人差があります。
普段のレースで周囲の人に比べて塩を吹きやすい人は、しっかり塩分を補給してください。

③身体冷却
・プレクーリング(走る前の身体冷却)
走行中に体温が上がるまでの時間を稼げるよう、前もって体を冷やしておきます。フルやウルトラマラソンでは焼け石に水かもしれませんが、特に5kmや10kmの大会では有効です(文献)。

暑熱下ではウォーミングアップはホドホドにして(自分はしません)、日陰で冷たい水でも飲んでゆっくり休みましょう。そしてスタートから5分はウォーミングアップと考え、ゆっくり走りましょう。

・パークーリング(走りながらの身体冷却)
走り始めると、体温はどんどん上昇します。
そのときは、体が体温を逃がそうとしている顔面や手掌などを冷やすのが効果的です。帽子で日差しが顔に直射するのを避け、手や顔に水を掛けたり、手を開いて走るなどで、同部位から熱を放散しましょう。
特に冷水を飲むのは文献的にも効果があると言われています(文献)。

④ペースを落とす
また夏のレースでオーバーペースは厳禁です。
下のグラフは2007年の酷暑で開催されたシカゴマラソンと、2009年の極寒となった大会のペースの比較です(文献)。

平均気温26.67度の2007年シカゴマラソン(暑)と、平均気温2.77度の2009年同大会(寒)の比較:Trubee, Nicholas W.:Effects of Heat Stress and Sex on Pacing in Marathon Runners,2014

暑い時には序盤からペースがダウンしやすく、終盤は大失速する割合が高いです。特に男性、遅いランナー、高齢者、体重の重いランナーは暑熱の影響を受けやすいと言われています。

暑熱のレースではペースを落として体温を上げないようにしないと、終盤まで粘れません。

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