見出し画像

心臓疲労から心筋線維症へ~マラソンで心臓にダメージを積み重ねたら~

1.はじめに

6月にマラソンで心臓疲労がおこるよ!という記事を書きました。
Note「心臓が疲れる?「マラソン誘発性心臓疲労」~マラソンの時に疲れるのは脚だけではなくて~

主に医師の方から、初めて聞いた、勉強になった、という意見を多くもらいました。なので、その続編を書いていきたいと思います。
その記事で引用した心臓疲労の文献で、心筋損傷が起こりガラクチン3やST2が上昇するとありました。
そのガラクチン3やST2は、心筋に負荷がかかり、虚血状態に陥り、マクロファージが活性化して上昇すると言われています(下記図より)。

激しいスポーツ時の心臓バイオマーカー:C. Le Gof et al.Clin. Biochem.2020

そしてこれは、長期間続けている持久力競技選手が罹患する、心臓のリモデリングである心筋線維症のマーカーになるという文献もあります。

要は心臓疲労をおこすような運動を続けていると、心筋が線維化していくかもよ!!ということなんです。
心筋線維症ってなに?どうしたらいいの?について、書いていきます。

2.心筋線維症ってなに?

2-1.本来の心筋線維症とは?

もともとは心筋梗塞や心筋炎で、心臓の筋肉が深くダメージをうけると、その部分の筋肉がカサブタ(コラーゲン線維)に置き換わってしまいます。
他に高血圧や心臓弁膜症があって、常に心筋に負荷がかかった状態でも、心筋細胞の間に線維が増生することが知られています。
これを心筋線維症といい、心臓の機能が低下したり、不整脈が惹起されたりして問題になります。
これがランナーにもおこるわけです。

2-2.持久力競技者の心筋線維症

病気とは無縁にみえるランナーが、心筋線維症の有病率が高いと言ったのは2009年の文献です。そこでは、過去3年間に5回以上のマラソンを完走した50~ 72歳の男性ランナー102 名を対象に、ガドリニウム造影MRI検査を行いました。結果12%のランナーに心筋線維症がみられました。対照集団は4%でしたから、3倍多かったわけです。

他にもいくつか文献をみてゆきます。
2018年の文献では、走歴10年以上のマラソンのベストが3時間15分を切る34人の男性ランナー(年齢48.17±7.48歳)を調べたところ、9%にあたる3人に心筋の線維化がみられたとのことです。やはり一般の人よりだいぶ多いわけです。

心筋線維症がみられたランナーのMRI像:Pujadas S et.al.BMJ Open Sport Exerc Med.2018

そして一番興味深いのは、2018年のトライアスリートに対して行われた研究です。調べたのは、3年以上の走歴と週10時間以上トレーニングをしている83人の症状のないトライアスリート (43±10歳、男性54人) です。対照として 36人の運動習慣のない人を比べています。
結果男性54人中9人(17%)に線維化が見られたとのことでした(対照は0人)。そのうち5人は心筋炎に典型的な、線維化と心膜と薄い隙間がある像でした。さらに2人は右室圧の過剰負荷でおこる右室後部の線維化でした。

心筋の微小梗塞によって心筋線維症が出来るという考えもありますが、線維化する部位からも、炎症や心筋へのストレスによるものを疑うわけです。

2-3.心筋線維症になりやすいのは・・・

同文献では9人の心臓線維症を検出できたので、なりやすいアスリートの像も特定しています。

一つ目は男性です。
男性は17%に線維化がみられたのに比べて女性は0%でした。これはテストステロンが、心筋の局所的な炎症を誘発する能力がある可能性があると文献内で述べています。
二つ目は運動時の血圧が高い人です。
これは高血圧自体が線維化のリスクになるので、説明は必要ないと思います(運動誘発性高血圧は自分のNoteを参照下さい「生活習慣病のランナーはしっかり治療を~運動誘発性高血圧~」)。
三つ目は競技でのサイクリングの累積距離が1880 km を超える人です。
感度89%と特異度79%と、良好な指標になることが分かりました。要はガチで競技した量が多い人ほど、線維化しやすいことがわかります。

3.ではどうしたら・・・

3-1.頑張り過ぎない

結局は長時間、心臓が疲れるくらいバクバクと拍動するのがよくないんです。もちろん記録が出そうなときは頑張ってよいのですが、心臓が疲労してダメダメなレースでは、無理をし過ぎないことが大事です。

足だけではなく、心臓も労わってあげて下さい。

3-2.生活習慣病、特に血圧は治療を

一般的な生活習慣病の治療は大事です。
運動誘発性高血圧はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とβ遮断薬がよいと言われていますし、一般的な心筋線維症にはロサルタンやスピロノラクトン、トラセミドがよいよされています

ちなみに持久力スポーツを長く続けると、冠動脈にもストレスがかかり結果石灰化しやすいと言われています。

マラソンをしているから、太っていないからと安心せずに、健診をしっかりうけて、治療の必要があるものについてはしっかりと治療しましょう。

3-3.抗酸化食品!足の筋肉にもいいよ!

心筋の炎症によって心筋が線維化するのであれば、エビデンスはありませんが抗酸化食品も有用と思われます。普段から野菜・果物やナッツ類、(ワイン・ビール(小声))などでしっかり抗酸化しましょう。

足の筋肉も、心筋と同じ筋肉です。足の筋肉をメンテナンスする意味でも、普段からしっかり摂取しましょう。

4.おわりに

実は心筋線維症になると、死亡リスクがどのくらい上がるよ!とか、パフォーマンスがどのくらい落ちるよ!という明確なデータはありません
ですが証明されていないだけで、ある程度死亡リスクやパフォーマンスに関与する可能性があります(あまり関係ないかもよ!?という意見もあります)。

マラソンは時に命を落とすこともある競技です。くれぐれも心臓を労わってあげて下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?