モンゴル 男子サッカー代表 全選手、スタッフへのアシックスシューズ提供の裏側【前編】
2019年10月10日、ワールドカップアジア第2次予選にてモンゴル代表は日本代表と対戦をしました。
この試合をご覧になった方も多いと思いますが、実はこの試合にはこんな裏話がありました。ぜひ多くの方に知っていただけたら嬉しいです。
僕は2017年からモンゴルのサッカークラブへ移籍をして、それから3年間(シーズン途中の移籍、加入も含む)という年月を過ごしました。
現地で出会った多くの方々によって、新たな環境下での生活を支えていただきました。モンゴルでは英語はあまり通じず、生活に関して最初は大変なことも多くありましたが、そうした方々の存在によってとて思い出深い時間となりました。
そして、2019年の春に僕はタイのクラブへ移籍をして1年間、タイでプレーをさせてもらう事となっていましたが、思うようにいかない日々が続き、環境を変える選択をしました。そして同年7月にモンゴルへ移籍をすることが決まりました。
そのときに僕は思いました。
「これも何かの縁かもしれない。3年という年月お世話になったモンゴルへ恩返しをしたい。」
これは本当に僕も驚いたことなのですが、僕は韓国を経由してモンゴルへ移動をしたのですが、僕が韓国からモンゴルへ移動をしている時間にアジア2次予選の組み分け抽選が行われていました。
モンゴルへ到着して、抽選の結果を見ると
日本とモンゴルが同組となり、埼玉スタジアムで試合を行う事となったのです。
僕はその結果を見て、
「この素晴らしい機会に、何か自分にできることをするべきだ。」
こう思ったのです。日本と対戦するモンゴル代表選手に最高の状態で悔いなく戦って欲しいと思いました。
実現のために動き出す
もともと、モンゴル女子代表選手にもシューズを提供する活動をしていた僕は、全選手に良いサッカーシューズを履いてもらいたいと思いました。
以前、モンゴル女子選手への支援の際にも伝えさせていただきましたが、モンゴルサッカーはまだまだ発展途上で、国内には日本のようにサッカー専門のショップもありませんし、代表選手であれば海外遠征に行った際に購入ができるという具合でした。
(モンゴル女子代表チームへの活動内容: https://youtu.be/iZcnaw31VTI)
出来るのであれば日本人として、日本の良さを知ってもらいたいという気持ちもあり、日本のメーカーさんのシューズを履いてもらいたかった。
そこで、女子代表への支援の際にも一緒に活動を支えていただいたモリヤマスポーツさんに相談を持ちかけました。そして、アシックスの方々に話を持ちかけていただきました。
もしかしたら実現できるのではないかと思った要因としては、
①会場が日本・埼玉スタジアムで行われる。
多くのサポーターが駆けつける試合であるため、シューズを提供してくださるメーカーさん、モリヤマスポーツさんにも価値を提供することができるのではないか。
②対戦相手が日本代表
日本代表にはもちろん注目が集まります。しかしながら、当時選ばれていた選手の中ではアシックスを着用している選手は乾選手のみだった。対戦相手であれ、選手全員が着用するというのはかなりのインパクトがあるのではないか。
③試合はゴールデンタイムに日本全国へ生放送される。
リアルタイムに日本全国へ放送されることが決定していたので、様々なメディアへ露出する可能性があると思いました。
以上の要素があるために、もしかしたら協力をしていただける可能性があるのではないかと思いました。
白紙へ
そんな期待とは裏腹に、面白い話ではあると評価をいただきながらも一度、白紙となりました。やはり、いまのプロ選手が着用するようなサッカーシューズは1足あたり約2万円ほどします。それを全選手、スタッフへ支給する場合、サイズサンプルを含めて50足以上が必要となりました。
金額にすると、100万円以上の支援をしてもらうということです。面白いというだけでは実現できるものではなかった。
しかし、僕もお世話になったモンゴルへ何かを残すためには、特にサッカーを通して何か恩返しをするにはこの機会を逃してはならないと思っていました。
再燃、日本へ
日本代表とモンゴル代表が対戦をする約2週間前だったと記憶しています。モリヤマスポーツさん、アシックスさんの担当いただいた方々が今回の話というのはなんとか実現するべきことだと思うので、もう一度話をしたいと連絡をくださいました。
僕は、その瞬間にもう日本へ行くしかないと考えました。そのメールの返事に、
「僕が日本へ会いに行きます。場所も時間も合わせます。よろしくお願いします。」
と返事をしました。
そして、すぐに京都の伏見にて打ち合わせを行うこととなりました。
打ち合わせ、実現に向けて
当日、僕はパートナーとして、また自身もクラブの外部アドバイザーとしてかかわらせていただいている京都紫光サッカークラブ Ladiesのマネージャーである砂原さん、代表を務める樹山さん、アシックスさん、モリヤマスポーツさんにお集まりいただき打ち合わせを行いました。
京都の落ち着いたお洒落なカフェでした。
僕は、こうして企業の方々と打ち合わせを行う機会というのはあまり経験をしておらず、どんな風に話をして行くべきかととても悩みました。
その結果、
「なぜこのプロジェクトを実現したいのか」
それこそが最重要かつ、僕に伝えられることだと思いました。
自分が感じてきたこと、思っていること全てぶつけさせてもらいました。
試合まで2週間、限られた時間
樹山さん、そしてパートナーである砂原さんが僕に対する熱意を話してくださいました。
そして、以前よりお世話になっているモリヤマスポーツ 高田さんがそれに続き、モンゴルの女子選手への活動での想いなどを語ってくれました。
この日初めてお会いすることとなったモリヤマスポーツ 大西さんがそれに続きます。
「シューズを販売し、サッカーが大好きな子供達、選手を支え、応援させていただく側として、今回のプロジェクトはぜひ実行するべきだと思いました。」
緊張し、自分のありったけの想いを伝えた僕はその時の正確な記憶はありません。しかし、大西さんがそんなことをおっしゃっていただいたのを強く覚えています。
そして、いよいよアシックスの担当いただいた藤田さんの番に。
(改めて、この場を借りましてアシックスの皆さん、そして藤田さんには感謝を伝えさせてください。本当にありがとうございました。いま現在、僕はアシックスのシューズ、ウェアを着用して頑張らせていただいています!)
アシックスさんとしても、大西さんが述べていただいたように
「履きたいと言ってくださっている選手がいて、それを応援するというのが僕たちの仕事だ。だからこそ、この話はやらなければいけないと思いました。」
そうおっしゃっていただきました。僕はこれまでに様々なメーカーさんのシューズを履いて、サッカーを楽しませてもらってきました。
デザインがかっこいい靴や、好きな選手が履いている靴などなど・・・シューズを選ぶ基準はそんなことでした。
この方々と出会い、
「僕たちが身につけるまでにこれだけ多くの方々の想いや熱意がシューズに込められているんだな」
というのを強く感じることができました。
そして、少ない準備時間ではありましたが、この日すでに実行のために皆さんが何を準備し、実行するべきかというのをまとめてくださっていました。
そして、事前に用意をしていたモンゴル代表チーム、スタッフ全員分のサイズをすぐに集めることになりました。足りないものに関しては手配をかけて、代表チームの宿泊するホテルへ届けていただくこととなりました。
今回、モンゴル代表チームへ提供をするシューズは
“アシックス エクスフライ 4” というシューズにしました。カンガルー皮革を使用し、撥水性の良い特殊なコーティングをしており、軽量性にも優れたモデルです。
そして、僕は一足先に東京へ移動しました。
都内の代表チーム宿泊先ホテルにて
全国より集めたシューズをホテルで受け取り、代表チームの食事会場にてサイズ合わせ、フィッティングのチェックを行うことになりました。
リストとサイズを照らし合わせ、シューズの数量チェックなどを怠らないように万全の態勢で臨みました。
代表チームのトレーナーを務めており、個人としても非常にお世話になっていた錦戸くんにも協力をしてもらいました。(上、写真左が錦戸トレーナー)
ワールドカップを賭けた戦いであり、代表監督はチームには家族や近親者に対しての接触も控えるようにしていたため、彼の存在無しには難しいことでした。
僕のこともよく知っていただいており、代表チームの選手たち、コーチの理解もあり実現できました。
ここで一つ問題となったのは、モンゴルではEUサイズが一般的に使用されていたため、JPサイズになおした際に若干のズレが生じていました。(人によっては若干大きい、または小さい)
これも想定して、モリヤマスポーツさん、そしてアシックスさんが余裕を持った数量を用意してくださっていたので、ひとまず全選手にシューズを受け渡すことが終了しました。
色は全て赤で統一し、仮に全員が試合で着用した場合どれ程のインパクトを与えることができるだろう。
また、そのシューズが実は日本が誇るアシックスだというのはとても面白いことだと思いワクワクしていました。
今回、プロジェクトを実行するにあたりアシックスさんからのお願い
しかし、今回のプロジェクトを実行する代わりに一つお願いをされたことがあったのです。
「強制して履かせることはしないで欲しい。選手が選んで、履きたいと思った場合のみ履いてもらうようにお願いします。」
この言葉に僕は驚きました。しかし、とても感動をしました。
金額として100万円を超える支援をしてくださっており、何も見返りなどありません。それでも、履いて欲しいと思ってくれる人のために作っている、必要としている人がいるならばその人の足元に届いて欲しい、そんなアシックスさんの想いが僕の胸にはとてもあたたかく、かつ熱く届きました。
だからこそ、僕自身もこのプロジェクトを機にアシックスさんのシューズを使うことにしました。その思いに感動をしたからです。
もう一つ準備していたこと
僕はこの試合のためにもう一つ、彼らのために用意をしたことがあります。
それは近年、プロ選手を中心に多く着用されている靴下と滑り止めがくっついているグリップソックスというものです。
僕自身もJリーグで活躍する選手が着用しているのを見て、使用させてもらいました。
ジオカグリップスのグリップソックスの提供をお願いしていました。最高のシューズを用意していただいたので、そのフィット感をより高めてくれるグリップソックスが用意できればと思いました。また、代表のディフェンスリーダーを務める当時のチームメイトのTurbat Daginaaにもできることであれば用意してもらいたいとお願いをされていました。
こちらがそのジオカグリップスです。丸い黒い部分が滑り止めとなっており、シューズ内部で足が滑ることを防いでくれます。デザインもとてもシンプルで使いやすいです。
ジオカグリップスの日本での販売を行なっています株式会社 Naocastleの今矢さんにご協力いただき、全選手分のソックスをご提供いただきました。
改めまして、本当にありがとうございました。
(写真左から、今矢さん、渡邉、砂原さん。代表宿泊先の都内ホテル喫茶店にて)
そして、僕の分まで用意をしてくださりました。今も毎日使わせていただき、ありがたいことに個人的に連絡をいただき、購入していただいたり、Jリーグでプレーする若い選手たちを中心にお繋ぎする事もできて、これからもたくさんの選手たちに使ってもらえたらなと思っています。
また、僕は事前にいくつかのメディアの方々にお話をさせていただき、取材にきていただきました。
協力をしてくださったモリヤマスポーツさん、そしてアシックスさんに少しでも恩を返せることがないかと考えたときに、今回の活動はできる限りみなさんに知ってもらい、考えてもらうことが大切ではないかと思ったからです。
サッカーシューズのカテゴリでは日本でNo.1といって間違い無いと思うKohei's Blogさんにお願いをして取材をしていただきました。
のちに、この記事がとても話題を呼んでいただき多くの方々に知っていただくきっかけとなりました。Koheiさん、本当にありがとうございました!
また、サッカー仲間でありお世話になっているライターの鈴木智之さんにもご協力いただき、取材をしていただきました。(こちらは後編にてまた紹介させていただきます。)
日本でのトレーニングにて実着用、新たな問題が発生。
選手たちはスタジアムでの練習を終えて、提供をさせていただいたアシックスのエクスフライ4、そしてジオカグリップスを着用しました。
すると代表監督からこんなお願いが入りました。
「埼玉スタジアムは芝生が少し深いので、選手には取り替え式のシューズを履かせたい。どうにか用意をしてもらえないだろうか・・・」
(取り替え式:アルミや鉄などを使用したより芝生に刺さりやすいサッカーシューズの裏のポイントを使用したシューズの種類)
当日の試合まで3日。ここでは2つの問題があった。
①取り替え式のシューズを用意することにより、色が赤で統一できなくなってしまう。(取り替え式のカラー展開はホワイト一色のみ。)
メーカーさんへのほんの少しの恩返しとなるインパクトの部分が弱まってしまうのではないか。そして追加で用意することにより、当たり前だがメーカーさん、モリヤマスポーツ さんにもさらなる負担がかかってしまう。
②試合までの時間がもうない。
しかしながら時間がもうない。迷ってはいられない。要望をしっかりと伝え、できないことはできないとしっかり伝えるしかないと思った僕はモリヤマスポーツさん、そしてアシックスさんに事情を説明しました。
すると、すぐに手配をするとの返事が返ってきました。
僕はインパクトを少しでも最大化するために、とも考えていましたがアシックスさん、モリヤマスポーツさんは
「選手の全力のプレーを支えること。」
これだけにフォーカスをしてくださっていた。本当に素晴らしい方々と出会い、一緒にプロジェクトを実行できていることに幸せを感じた。
早速用意していただいたシューズをアシックスさんに茨城から千葉、そして僕たちが千葉から東京へと運び、それでも足りないものに関しては関東圏内のサッカーシューズを扱うお店に電話をして購入しに行くことで解決しました。
(都内の某サッカーショップの方、ご協力いただきありがとうございました。これもまたすごい話なのですが、僕が必要としたサイズが目の前で取り置きされて、売り切れるという信じられない偶然も発生しました。)
そして、翌日にはその全てを用意をすることができました。
急いでホテルへ移動をして、選手たちに再度フィッティングを確かめてもらいました。
そして、僕は友人のライターの鈴木さんと共に前日練習の行われる埼玉スタジアムへ急ぐ・・・
後編へ続く