住宅建築賞2019入賞レセプションを終えて
つばめ舎建築設計+スタジオ伝伝「欅の音terrace」が2019年の住宅建築賞を受賞しました.
2019.06.19(Wed.)~2019.07.05(Fri.)の間,東京都・京橋にあるAGC Studio 2Fにて模型&パネルの展示をしております.無料ですので,ぜひお気軽に足を運んでみてください.
初日は審査員の建築家である乾久美子・青木淳・福島加津也・長谷川豪・中川エリカ(敬称略)という錚々たる面々から直々に講評,審査の経緯,金賞の境い目などを議論する入賞レセプションがありました.実際にこのような透明な議論が行われることは非常に珍しいので,こちらも様々な意見を受けて感じたことをまとめようと思います.
切実な建築は小さな一歩から
まず初めに,個人的には長谷川豪さんに欅の音terraceの切実さを自身の建築観と比して評価してくださったことが西沢大良さん繫がりとして感慨深かった.我々のものは社会的背景への応答や小さな建築的操作がメインであるのに対して,長谷川さんは構法や空間の生成手法に対する切実さ(これは個人的見解)という点で相違はあるけれども,どうやら同じ切実さを感じるとのこと.ベクトルは違えど,共感を得られたのが嬉しいところ.
このあたりは青木淳さんも評価してくださった点.
よく在る鉄骨2階建てアパートを,最小限の操作(小商いスペースとデッキテラスの挿入)で劇的に環境を変えることに成功している,と.
商いを挿入すること自体は手法としてよくやられているし,町屋形式が日本では当たり前だった(これはコンセプトの時点で参照していることでもある.これは以前書いたnoteの文章で言及してます)ため,それ自体の目新しさは無いが,最近の建築家の「家開き」系提案はえてして暴力的になりがちであるのに対して,欅の音terraceでは非常にリアリティがあったとも.
余談だけども,青木淳さんはめちゃくちゃ頭良いのを安易にひけらかさず,非常に簡潔に分かりやすい言葉で表現できるのがすごい.本当に優秀な方.
欅の音terraceはなぜ金賞では無かったのか?
一方で,裏側バルコニーの処理(豊かな住空間の提案)やデッキテラスの日常でも映える工夫,ナリワイと暮らしの間の仕切り方が課題であるとの指摘が多かった.
どうしても表側のナリワイの空間にフォーカスを当てがちだったが,それに対して裏側が入居者へ放任している感があるのは事実.1階は拡張された裏側の庭があるものの,2Fバルコニーに対してももう少し工夫があって良かったのかもしれない.
デッキテラスはマルシェ時を想定して大きな平面がほしかったこと,北側道路の傾斜を活かして場所によってふるまいが異なるような水平線を引きたかったことの2点が設計意図だが,日常時の寂しさを払拭するアイデアもあり得た.
また,ナリワイと暮らしの間は完全に入居者さんに仕切り方を任せており,それが設計意図でもあったが,実際にははっきりとカーテンやベニヤで区切られてしまっているのが実情である.そこをもう少し工夫を見せられるレシピみたいなものがあった方が,やりやすかっただろう.
どこまで建築家が規定して,どこから入居者に委ねるかという補助線の引き方のデザインにまだまだ余地がある.
何より,長谷川さんの,"一目で何がやりたいか分かったが,それ以上のものが得られなかった”というのが示唆的.
それは建築的にチャレンジングなフックが無く,良くも悪くも上手くまとまってしまっているということを意味している.優等生的な建築に映ってしまったのではないだろうか.
そして住宅建築賞にもかかわらず,現地審査の時に住居部分を全然見せられなかったことは最大の敗因.これは完全に準備不足だった.本当に住むことが可能なのか,どのように住んでいるのか,というリアリティを伝えられていればもう少し結果は変わったかもしれない.金賞を最後まで争っただけに悔やまれる.
それに対して,金賞を受賞した伊藤暁さんの「筑西の住宅」は非常に辛口の愛情こもった議論が交わされた.
その議論の余地が無かった,とも言える.
事実,欅の音terraceに対しては好意的なコメントが多く,ここだけ終始和やかなムードだった.しかしながら,生粋の建築家たちにとって,それはやはり消化不良にならざるを得ないように思う.
とはいえ,3時間以上も金賞をどちらにするか議論してくださったようで,それは非常に有難いこと.
最終に残ったら,基本的にはみんな意見が合わない.あとはどの作品が金賞を授与するに相応しいかというロジックを,誰が組み立てられるかが問われる.
伊藤さんの作品は,極めて具体的な操作の集積で出来ている.一方で,住宅の原型である「民家」は,数多のアノニマスな人間による無意識的な操作の集積によってできた,集合知的な存在である.青木さんがその類似性を見出し,「筑西の住宅」を現代的な「民家」の手法として位置づけられるのではないかというストーリーを編んだことが決定的だった.
これからに向けた収穫
ともあれ,自分たちでは気づけなかった視点やパースペクティブをもたらしてくれて,尚且つ批評の鋭さを実作を通して味わえるのは素晴らしく経験になること.
これまでナリワイ×暮らしのソフト面を重視しがちだったのが,建築的な良さに評価をもらえたことが収穫でした.
住宅建築賞は施主・施工者・設計者の3者に授与される稀有な賞だが,レセプションから欅の入居者さんたちも出席してくれたのがかなり感動ポイント.うちだけやけに大所帯だったのが建築賞っぽくなくて,それもそれで非常に価値のあることだったんじゃないかと.だから我々は入居者さんたちも含めた4者で受賞したと思っています.
これは他のどの建築にも負けないこと.
いつか自分を筆頭に金賞が取れるよう,精進したいところ.
オフレコなタメになる話
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1991年神奈川県横浜市生まれ.建築家.ウミネコアーキ代表/ wataridori./つばめ舎建築設計パートナー/SIT赤堀忍研卒業→SIT西沢大良研修了