【宣伝】ファルマシアにトピック書きました.あとその付随情報.

はじめに

ファルマシアにトピック執筆の機会をいただきました.
掲載にあたりご協力賜りました皆様に感謝申し上げます.

「ザクロポリフェノール由来腸内細菌代謝産物ウロリチンAの抗老化効果」の題で Nature Aging 誌に掲載されたウロリチン A がもたらす造血能の若返り効果について検証した論文 (1) の解説となっております.

私が書いた解説のリンクはこちら.

元論文のリンクはこちら.

天然物の研究は歴史的経緯が複雑なことが多く,導入を書くのにいろいろ調べる必要があり勉強になりました.ここでは紙幅の都合で書けなかった背景情報を簡単にまとめたいと思います.

ザクロの文化史

 血のように赤く,複数の種子を内包するザクロの実は古来より繁栄・長命・復活のシンボルだったそうです (2).古代バビロン人が復活の象徴と見なしており,ギリシャ神話のペルセポネ伝説 (ハデスに求婚されたペルセポネがザクロ数粒を食べてしまったのでよもつへぐい的に年の数か月を冥界で過ごすことになるやつ) を経てキリスト教の復活信仰や不老不死を求める錬金術に伝わる (3) など歴史的に興味深い記述が生化学系の論文でも「掴み」として書いてあることが多いため,執筆にあたり参考にさせていただきました.

ザクロの生化学的効果と活性本体 UA の生成機構

 近年,ザクロに含まれるポリフェノールの一種 ellagitannin (ET) の加水分解物である ellagic acid (EA) が腸内細菌により変換され生じる Urolithin-A (UA) に抗老化効果があることが複数の研究で報告されています.すなわち,ザクロそのものは一種のプロドラッグとして振る舞うわけです.本稿では UA に関する研究のうち造血幹細胞に与える影響を検証したものを解説しました.

 UA をはじめとする urolithin family はザクロに含まれるポリフェノールである ET が小腸においてアルカリ加水分解され EA となったのち,更に腸内細菌により代謝されて生ずると考えられています (Fig. 1) (4).ET の構造やそこから EA, UA が生じてくる機構については S. Alfei らの総説論文が勉強になりました (5)

Fig. 1 ET から EA を経た Urolithin family 合成経路
O. Wojciechowska & M. Kujawska の論文より引用

UA の作用機序はマイトファジー促進である

 UA は 1980 年にラット糞便中よりすでに発見されていました (6)  が,その生理機能は長く不明のままでした.ポリフェノール類であることから活性酸素種 (ROS) 消去能を持つことは当初から推定されていたようですが,2016 年に D. Ryu らが UA がミトコンドリア選択的オートファジー (マイトファジー) を促進することを明らかにしました (7)

 すなわち UA は,
① 単に ROS を消去するだけでなく,
② 不良ミトコンドリアの除去を促進し電子伝達系から漏出する ROS を抑える機能を持つ
と考えられます.

 実際に D. Ryu らは UA を投与した線虫やマウスの筋組織においてマイトファジーの促進や細胞老化の抑制が誘導され,運動能と寿命の延長が生じることを明らかとしました.

UA によるマイトファジー促進機構

 UA によるマイトファジー促進機構については,その後も分子生物学的研究が進められており,現在では PINK1 (PTEN induced kinase 1) の安定化による PINK1/Parkin 依存的マイトファジーの促進によるものであるというのが通説のようです.PINK1/Parkin 依存的マイトファジーについては K. Tanaka の総説論文 (8) などに,それに与える UA の影響については D. D'Amico らの総説論文 (9) などにそれぞれ詳しいため細部は省略しますが,おおむね以下のとおりと考えられています.

  1. UA が不良ミトコンドリアシグナルタンパク質 PINK1 を安定化する.

  2. 蓄積した PINK1 がユビキチンをリン酸化する.

  3. リン酸化ユビキチン がユビキチン E3 リガーゼ Parkin をリクルート・活性化する.

  4. 活性化 Parkin によりミトコンドリア外膜のタンパク質が連鎖的にユビキチン化される.

  5. ユビキチン化タンパクを標的にマイトファジーが惹起される.

Fig. 2 PINK1/Parkin 依存的マイトファジーの機構の概略
K. Tanaka の論文より引用

UA 臨床応用への期待

 上記から,ミトコンドリア量の多い組織である筋肉や神経系において特に強い抗老化効果を示すことが期待され,実際に研究が先行したのも筋組織からでした.先行して行われた筋組織における効果についてはデュシャンヌ形筋ジストロフィーモデルマウスにおける症状進行の抑制や寿命延長効果 (10) に加え,2022 年に複数のヒト臨床試験において高齢者の筋力低下を防ぐ効果が報告されています (11, 12)

 神経系に対する影響についても PINK1, Parkin はいずれも家族性パーキンソン病の遺伝的リスク因子として見出されたタンパク質であり (9) ,これらの変異が孤発性パーキンソン病のリスク因子となることも知られています.したがって,PINK1/Parkin 経路を標的とする UA はパーキンソン病をはじめとした神経変性疾患治療薬の有望な候補と期待されます.実際に前臨床段階ではあるものの UA やその前駆体の EA がパーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患モデルに対し有効であることを示す研究が複数報じられており,それらをまとめた総説論文として (5, 13, 14) などが詳しいため解説執筆にあたり勉強させていただきました.

参照

(1) Girotra M. et al., Nat. Aging, 3, 1057-1066 (2023)
(2) Viuda-Martos M. et al., Compr. Rev. Food Sci. Food Saf., 9, 635-654 (2010)(3) Mahdihassan S., Am. J. Chin. Med., 01n04, 32-42 (1984)
(4) Wojciechowska O. & Kujawska M., Antioxidans, 12, (2023)
(5) Alfei S. et al., Eur. J. Med. Chem., 183, (2019)
(6) Doyle B. & Griffiths A. L., Xenobiotica, 10, 247-256 (1980)
(7) Ryu D. et al., Nat. Med., 22, 879–888 (2016)
(8) Tanaka K., Neurosci. Res., 159, 9-15 (2020)
(9) D'Amico D. et al., Trends. Mol. Med., 27, 687-699 (2021)
(10) Luan P. et al., Sci. Transl. Med., 13, (2021)
(11) Liu S. et al., JAMA Netw. Open, (2021)
(12) Singh A. et al., Cell Rep. Med., 3, (2022)
(13) An L. et al., Nutrients, 15, (2023)
(14) Gupta A., et al., Adv. Nutr., 12, 1211-1238 (2021)

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