中小企業経営者の皆様、従業員から給与をデジタル払いしてくれと言われたらどうしますか?
2024年11月から、一般の企業でも給与のデジタル払いが可能になりました。
自分たちには関係ない次世代の労使環境、のようなイメージですが、やっていることは現状の銀行振り込みとあまり変わりませんのでご紹介したいと思います。
今回は初めて給与のデジタル払いに対応したPayPayの事例で説明します。
■ そもそもデジタル払いとは
従業員の給与を、PayPayなど、資金移動業者の口座に入金することです。
資金移動業者の口座は、銀行口座と異なりいくつかの制限がついています。
例えば、一人当たりの口座の上限金額は100万円まで、という制限があります。
■ まず労使協定を締結する(ここが山場)
それでは具体的にデジタル払いに対応するための手順を見ていきます。
まず、給与のデジタル払いのために、労使協定を結ぶことが必要になります。
何か面倒だなと感じるかもしれません。しかし、そもそも給与を銀行振り込みにする時点で労使協定は結ばれています。
知っている方はご存知かと思いますが、実は給与は通貨払いが原則です(労働基準法第24条1項)。
例外として、「労使協定を締結」と「労働者の同意」があった場合にのみ、通貨以外のもの、すなわち給与を口座振込によって支払ってよいことになっています。
デジタル払いの場合にも、口座振込と同様、労使協定に追加することになります。
なお、会社側が振込手数料節約などのために振込先銀行を指定している場合もあるかと思いますが、これは労基法違反ですのでお気を付けください。
労使協定を締結後、従業員に必要事項を説明し、同意を得ることも必要です。
■ 従業員と事業者でやり取りしてもらう
労使協定が結ばれたら、従業員にデジタル払い用の口座を作ってもらいましょう
しかし従業員の方からデジタル払いを希望する場合には、すでに口座を持っている場合がほとんどだと思われるので、ここは問題ないと思います。
■ 従業員から「入金用口座番号」を受け取る
次に従業員から「入金用口座番号」を教えてもらう必要があります。
PayPayの場合、実態は銀行の口座番号に近いものになります。
ただ通常の銀行口座のように、預金・振込や引き落としには対応しない専用の口座です。
■ 給与の支払い
ここまでで、労使協定の締結、従業員との個別同意、入金用口座番号の取得が完了しました。
さて、給与支払日が到来すると、次は入金処理です。
PayPayの場合は、企業は入金用口座番号宛に銀行振り込みする方法で、給与を支払うことができます。
PayPayと事業者間で新たなサービス契約を結ぶことも不要ですし、新たなシステム開発も不要です。
■ 従業員から見ると
ようやく従業員のPayPay口座に無事にに入金されました。
給与として入金された金額には、コンビニチャージなどとは異なる
PayPayマネー(給与)
という名称が与えられます。
これは、PayPayでは給与のデジタル払いの上限金額が20万円で、通常のPayPayマネー残高と分離する必要があるからです。
ちなみに、20万円を超えた分は、別の銀行口座に振り込みされるようになっています。
■ 企業側になにかいいことあるのか
企業にとっては労使協定締結などの事務処理が増えるだけで全くないです。
従業員満足度は向上するかもしれません。
PayPay決済を店舗で提供している会社は、従業員のデジタル払いをPayPayで行うと、PayPay決済側の手数料優遇、なんて話が出てくると企業側にもメリットがあります。
ただ、個人的には給与振込口座の強制を誘発する話なので難しいかなとも思います。
さあ、環境は整いました。あとは給与のデジタル払いが広がっていくのか、注目です。
■ おまけ・関連する法改正について
以下、法改正に興味のある方向けの話になります。
デジタル払いの実現のためには、PayPayなどの資金移動業者の口座が銀行口座と同等である法的根拠が必要でした。
これは、以下のように労働基準法施行規則に「資金移動業者の口座」を追加することで実現しています。
ちなみに労働基準法施行規則とは、労働基準法に関する具体的な事項や手続きについて定める厚生労働大臣による命令のことをいいます。
この改正は、2022年11月28日に公布されていますので、実は法的には随分前から準備されていたことになりますね。
このブログのトップ画像は上記サイトからダウンロードできるリーフレット「賃金のデジタル払いが可能になります!」を参照しました。