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【診断士2次試験】今年の社長はどんな人?

診断士試験受験生の皆様、10月20日は2次試験お疲れ様でした。
前回のブログで、診断士2次試験は、社長が目の前に居るつもりで、診断報告が出来るかどうかを「やってみる」試験であると書きました。

診断士が作成する診断報告書は、社長が実際にアクションを起こすきっかけになるべきと考えます。そのためには、どんな社長でどういった報告が響くのかを社長目線で考える必要があります。試験であっても、社長の人物像を読み取り、社長目線の答案を作成する観点が必要だと考えています。

2019年事例Iの社長の姿

では、2019年度の診断士2次試験を例にとって、社長の人物像に迫ってみましょう。診断士として登録されている方も、中小企業の社長が置かれた状況を毎年の試験問題から考えてみるのも診断実務に役立つのではないかと思います。

ここでは事例IのA社の社長を考えます(問題文通りA社長と表記します)。
まずA社長とA社に関連した出来事を並べるとこんな感じです。

■1970年代より前
A社は、葉たばこ用乾燥機の製造・販売業。
たばこ産業は規制産業で参入障壁が高く、A社の売上は右肩上がり。
■1980年代
専売公社が日本たばこ産業へ。
だんだんとA社に向かい風が吹き始める。
■1990年代
たばこ生産者と消費者減少でA社の売上減。
A社長は海外留学中に呼びもとされて、そのままA社に就職。営業の前線で活躍する。
A社の経営の根幹が揺らぎ始める。
■2000年代半ば
経営の問題がより一層大きくなる。
A社長は経営の一角となり、自社製品のメンテナンス事業を立ち上げるが、失敗。
A社長の父親(2代目)が勇退し、新体制発足。
経営コンサルタントに助言を求めはじめる。
過大在庫や前近代的な経理体制の改善、古参社員に退職勧告など、リストラ実行。
コアテクノロジーを「農作物の乾燥技術」として位置づけ、社員に共有。
■2010年ごろ?
乾燥技術を活用した製品開発が成功。
・既存ルートで、既存市場を独自に開拓。
・HP開設し「試験乾燥」サービスを受付け、新規市場を開拓。
 インターネット商取引と営業部隊の大活躍で、新規市場開拓に成功。
■現在
A社は、総務部、営業部、開発部、製造部の機能別組織。
副社長(営業統括)はA社長の実弟、専務(開発・製造統括)は、いとこ。
さらに 、5名の親族役員が存在する。
A社長は組織再編を考えたが時期尚早として断念。

A社長を経歴を深掘り(妄想込み)

順を追って見ていきましょう。
A社は、1980年代までは業績が非常に良く、その中でA社長は3代目として一族から大事に育てられたと思います。
A社長は海外留学(おそらくMBAでしょう)の最中、父親の病気で日本に呼び戻されます。当初は父親の様子を見るだけだったと思いますが、「そのまま」A社に就職します(本文にわざわざ「そのまま」と書いてあるところが引っ掛かりました)。父親は病を患いましたが、その10年後くらいに勇退されるまでご活躍のように見受けられます。したがって病気はA社長を呼び戻す口実で「業績悪化している中、3代目が留学している場合か」などの声が一族から有ったのかもしれません。
A社長はしばらくして機械のメンテナンス事業を立ち上げますが、失敗します。昔ながらの経営方法の元で、昔からの方法に慣れている社員は、急激な変化についてこれなかったのでしょう。「新しき酒は新しき革袋に盛れ」という諺を思い出しました。
その後、父親の勇退、コスト重視の組織変革、古参社員への退職勧告などリストラ策の実施が続きます。父親は古参社員を道連れして勇退し、息子に後を託したのでしょう。
このころからA社長は経営コンサルタントに助言を求め始めます。留学の経験から、経営理論を活用しようと考えたのかもしれません。

次にとった策が「コアテクノロジー」の位置づけです。ジェイ・B・バーニーの「コアコンピタンス」や、MOT(技術経営)の教科書によく出てくる「コア技術戦略」に近いものと思います。他社と差別化できるる自社のリソース(技術力)をプロダクトアウト式で活用しようとしたのですね。この辺りもMBAっぽいなと感じます。

さてA社はコアテクノロジーを「農作物の乾燥技術」と位置づけ、新製品開拓、既存市場開拓、さらには顧客の商品を試しに乾燥させるサービスである「試験乾燥」による新市場開拓を行い、業績は回復し始めます。2010年頃にはインターネットによる商取引が一般化していたことも試験乾燥事業の成功に追い風となりました。しかし本文には意地悪な一文があって「営業部隊のプレゼンテーションが功を奏したことは否めない事実」だそうです。技術力やインターネットマーケティングだけでは足りず、営業の革新が大切だったということですね。
営業部隊はA社長の実弟の副社長が率いています。新規事業への貢献が大きいのでA社長としても頭が上がらない存在でしょう。開発部隊はいとこの専務が率いており、こちらも実際の製品を開発したわけですから、モノ申しづらいかもしれません。問題本文には「そして大所高所からすべての部門にA社長が目配りをする体制」とありますが、そんな悠長に上から目線で言いたいことが言えるのか、疑問です。
これ以外に親族に役員が何名かいて、総勢8名にもなるそうです。

A社長の人物像

父親の病気で海外留学から日本に戻ってみたら、周りに説得されて、そのままA社に入社してしまうほど素直な方。
A社長の父親は、旧態依然とした会社の中でA社長を海外留学に送り出したり、旧体制と古参社員を道連れにしてリストラをアシストするほど、A社長に対する期待度は高い。
海外留学仕込みの経営学の知識を活かして「コアテクノロジー」を選定し、事業を成功に導きつつあるが、経営理論だけでうまくいったとは考えていない。営業部隊を実弟が、技術部隊をいとこが仕切っており、両者の貢献が新規事業成功に大きく貢献していて、両者にはモノ申しずらい。
海外留学経験のおかげか、経営コンサルタントを違和感なく使えるほど経営学に明るい。組織再編の実施など、いろいろと経営学の知識を試したいが、親族役員が多く、意見調整に苦労すると考えている。

さあ、このような社長を前に、どんなヒアリングと診断報告をするべきでしょうか。
また、試験では、ここまで考えると解答に何を書くべきか、第一印象とは変わってくるのではないでしょうか。

IT系企業に所属する企業内診断士です。