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診断士試験の勉強をすると「バラマキ」政策に対して脊髄反射しなくなる(はず)

今日は2021年10月27日です。10月31日の衆議院議員総選挙に向けて、まさに選挙戦は佳境を迎えています。

今回の各党の政策には「再分配」という言葉がキーワードとしてよく出てきます。
各党は工夫を凝らした各種給付金策を提示しています。
これに対して「ばらまき合戦」と表現した官僚の方もおられます。
また、人々からは、
「バラマかれたお金は貯蓄に回って終わり」
「その分増税するので無意味」

などの意見も出ています。

さて、診断士試験の勉強をすると、バラマキ政策に対して脊髄反射をするのではなく、落ち着いて反応できます。
それは「経済学」の知識を使います。

試験の問題文に出てくる給付金の話

今年の診断士1次試験でも、経済学的には給付金はどう扱うのかについての問題が出ていますので具体的に見てみましょう
(問題文は、2021年度 中小企業診断士第1次試験 経済学・経済政策からの抜粋です)

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以下選択肢です。

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恒常所得とは字の通り長期的・安定的な所得のことです。
恒常所得仮説では、消費は恒常所得に比例するといっています。
したがって、恒常所得仮説に従うなら、一時的に所得が増えたところで消費は増加せず、給付金の効果はありません。


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絶対所得仮説とは、ケインズの消費関数に関する仮説で、ざっくりいうと、所得が増えた分はその時に使ってしまうということです。給付金はすぐに使われるので経済全体の消費は増加します。問題文は、「生涯の所得」と言っている点が間違いです。


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でたよ限界、と思っていらっしゃる方もおられますが、限界とは、なにかが1増えた時に、別の何かがどのくらい増えるか、ととらえるとよいです。
今回は所得が1増えた時に、消費がどのくらい増えるかです。
限界消費性向が高い人々とは、所得が消費に回る率が高い人々です。そのような方に狙い撃ちで給付金を交付することは効率がいいと言えます。したがって〇ですね。


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でたよ弾力性、という感じですが、弾力性も、先ほどの「限界」と似ていて、何かが変化した時に、別の何かがどのくらい変化するか、です。「需要の所得弾力性」は、所得が増えると需要がどのくらい増えるか、です(弾力性、という文字が付いている方が先に弾力します)。
問題文は、一時的なお金が入ると、不要不急の財、つまり普段買わないぜいたく品などにパーッと使ってしまうパターンですね(なんかダメな人ような気もしますが………)。
消費は増えますので〇です。

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結果的に、正しいことを言っているのはcとdなので、正解はオになります。


次の問題です。第5問から設問2を抜粋します。

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          AD = C + I + G
この式は経済学を学ぶとからなず出てくるGDPの式です。

          C = C0 + c(Y-T)
消費関数です。cは限界消費性向です。先ほどの問題でも出てきました。所得が1増えると消費がどのくらい増えるか、です。

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選択肢を見ていきましょう。


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ADが増加すれば景気拡大です。
          AD = C + I + G
より、Gの増分はそのままADの増分となりますが、
          C = C0 + c (Y-T)
より、Tの減少によるCの増加(マイナスとマイナスでプラスになります)はcを掛け算している分だけ弱まります。
したがって、同じ額でも政府支出の増加の方が効果が大きくなります。選択肢は正しいので〇


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aと矛盾しますので、自動的に×


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         G(政府支出)増加のプラス効果 VS T(税)増税のマイナス効果
のバランスで決まりますが、C = C0 + c(Y-T)なので、Tのマイナス効果はcを掛け算している分だけ弱まります。
結果的に、Gはダイレクトに増えて、Cの減少はそれほどでもなくなります。
ADは増えるので、選択肢は正しいことになります。〇


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cとは矛盾します。なので×

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正しいのはaとcなので正解はアでした。

勘のいい方はお気づきかもしれませんが、今回のバラマキで話題になっている政府による家庭への給付金は、Gの増加では無く、Yの増加になります。
つまり、消費関数
          C0 + c(Y-T)
の、Yの部分が増えます。
ただし、cを掛け算している分だけYの増加が小さくなります。

GとYのどちらかを同じ額だけ増加させた場合、どちらが経済全体への効果が高いかを比較すると、
          AD = C + I + G
より、Gをダイレクトに増加させた時の方が、Yを増加させるよりも効果が高くなります。

さらに財源を増税で賄うなら、Cの中身は、
          C0 + c(Y-T)
なので、
Y増加のプラス効果 VS T増税のマイナス効果

のバランスの話になり、特に、Y<Tなら値がマイナスになって給付金の意味なしになります。給付金分より増税額が大きければ当たり前ですね。

まとめ

冒頭に出てきた意見に戻ると、

「バラマかれたお金は貯蓄に回って終わり」

という意見については、
「限界消費性向が0%ならその通り。さらに、需要の所得弾力性がゼロに近い場合を想定さてますね」
と冷静に言えるとかっこいいと思います。


「その分増税するので無意味」

という意見については
「給付金額より増税額の方が大きければその通り。Yの増分とTの増分の比較になりますね」

と言えるとかっこいいです。
さらに、
「一番効果が大きいのは増税した分は国が直接消費する施策ですが、さすがにこれをダイレクトに選挙の公約にはしにくいですね」

と言えれば完璧です。

経済学が診断士1次試験の試験範囲になぜあるの?という声はは昔からよく聞きます。
経済学を勉強すると、施策のベースとなる経済理論を知ることが出来ます。ですので、給付金施策に対する「バラマキ」など声に対して、経済学的にはこういう解釈となっている、と落ち着いて応えることができるわけです。


IT系企業に所属する企業内診断士です。