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【診断士2次試験】今年の社長はどんな人? ~三世代物語~

10月25日に診断士2次試験を受けられた方、お疲れ様でした。
さて、昨年のこの時期のブログで、診断士2次試験は紙上の試験とはいえ社長の人物像の把握が大切、と書きました。

中小企業診断士が実際の診断報告をする際には、社長の人物像を踏まえ、どんな報告をすると響くのかを考えると思います。なぜならそうしないと社長が腹落ちせずに実際にアクションを起こそうと思ってもらえないからです。

そこで、昨年に引き続き、2020年度事例Iの問題文から、A社の社長の人物像に迫ってみました。
といっても今年の試験は、A社長というより、社長の「祖父」が熱い人物でした。

A社の概要

 社長:40代前半
 事業:酒造店(売上2億円)+レストランと土産店(売上3億円)
 場所:有名温泉地
 創業:江戸時代、ただしA社長一族の経営は2000年代以降
 関連会社:A社長の祖父が経営する飲食チェーン
      A社長の母が女将を務める高級旅館

A社長の祖父

祖父は、飲食業の複数店舗開拓に成功した実業家で、地元の有力者です。
さらに、30年前に地元の旅館を買収し、娘を女将に据えて、全国的に有名な高級旅館に成長させました。
また、2000年代に、現在のA社を買収して、立て直しのために孫(A社長)を投入しています。

ここで少し考えると、すごいことに気がつきます。

・祖父・娘・孫の世代間の年齢差を25歳とすると、
  A社長:40代前半
  母(女将):60代後半
  祖父:90代前半!

・世代差を20歳としても、
  A社長:40代前半
  母(女将):60代前半
  祖父:80代前半

つまり、本文には明記されていませんが祖父はかなりの高齢なのです。にもかかわらず、パワフルに企業グループを引っ張る現役の経営者という像が浮かび上がります。

旅館を買収した時の話

本文には、

30 年ほど前には地元の旅館を買収して娘を女将にする

とあります。
女将は現在60代と思われますので、この時の女将は30代、その子どもであるA社長も10代そこそこだったかったと思われます。
旅館を買収して小さな子を持つ娘に女将に任せるとは、祖父はなんと思い切った人かと思います。
女将もそれに応えて、この旅館を高級旅館にまで成長させました

酒造店を買収した時の話

本文には、

首都圏の金融機関に勤めていた孫の A 社長を地元に呼び戻すと、老舗酒造店の立て直しに取り組ませた。

とあります。
酒造店の買収時期を2000年代中頃と考えると、当時のA社長は20代後半だったと考えられます。
A社長は金融機関勤務でまだ駆け出しと思われますが、経営者として呼び戻されたことになります。
女将の時と同様、やはり祖父は谷底に突き落として育てるタイプのようです。
孫もこの期待に応え、酒造店を立て直すとともに、レストランやお土産やなど経営の多角化にも成功しました。

三世代の歴史

いろいろ情報が出て来ましたので、ここで、年表にまとめてみます。

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祖父は15~30年周期で次々と手を打ってきているように見受けられます。
さらに、自身の子と孫の人材育成にも成功しています。
2020年代は、最後の仕上げに何をするか、という時期になるのでしょう。

孫への期待

先ほど書いたとおり、祖父は一代で企業グループを築き上げた名経営者ですが、80~90代と高齢のため、後継者問題は直近の課題と考えられます。
祖父にとっての孫、つまりA社長には気になる記述があります。

幼少時から祖父の跡を継ぐことを運命づけられ、自らも違和感なく育ってきた A社長
近い将来には、自身が総帥となる企業グループ

総帥、なんて言葉は普段はあまり使いませんよね。
いつも祖父は孫に「次の総帥はおまえだ」と言っているのでしょうね。
孫には自分の後継者として、グループをぐいぐい引っ張る人になってほしい、という並々ならない期待感があるものと思います。
つまり、診断報告としては、事業継承や、企業グループの総帥としての振る舞い方など、大局的に見た視点が必要だと考えます。逆にすぐに出来る細かな施策などはA社長には響かない可能性が高いと思われます。

実際の試験では、時間も多くありませんので設問1つ1つに対して、本文の状況や知識を使ってさっさと解答を組み立てていくことになりがちです。

しかし実際にA社長やその祖父に会うことができるなら、一つの企業グループを立ち上げた名経営者の生き様を継承させる、という重厚なテーマが根底にあることに気がつくでしょう。

社長の人物像まで考えると、解答の内容も少し変わってくるのでは、と思いました。

IT系企業に所属する企業内診断士です。