13

「まずは、過去へと、飛ぶことにしましょう。あなたが、中指を、失った日。少し、辛いお気持ちになるかとは、思います。だけど、向き合う必要が、ある。そう、時空の住人が、言っております。」
    そう言いながら、ミケは、路地裏の階段を、のぼっていった。そこには、空き家になった、ガランとした部屋が、広がっている。扉が、ひとつあって、どこへ、続いているのかは、検討がつかない。
「この扉の向こうは、すでに、時間の概念が、異なっています。いわば、意識、ひとつで、時を、またがることできます。さあ、集中して。あの日、事故の起きた日、場所は、国道沿いの、ちょうどスクランブル交差点に入る、コンビニの前。」
    イメージを固く、締め付けて、僕らは、その扉をくぐった。紺色の空が、一瞬、全体を包み、気付くと、僕らは、車が、ビュンビュンと、通る道路に、いた。
「もう少しで、両親が死んだ、忌々しい瞬間です。準備はいいですか。」
「ひとつ、訂正したい。僕は、忌々しいだなんて、考えていない。だって、ろくに、記憶にないんだ。両親がいないことは、もう既に、アイデンティティとして、自分の中に内在化している。いまさら、その過去を変えようとは、思わない。」
    少し、沈黙が、続いたあと、つぼみが、口をひらいた。
「私は、あなたのことを、よく、知っている。場合によっては、両親よりも。だから、思うの。これから起きることを、自分の目で、見るべきだと思うの。だって、自我を、かたどることになる出来事だから。」
    次の瞬間、2台の車両が、衝突する。僕は、辛くとも、悲しくとも、なかった。人が死ぬとき、それは、いかなる、孤独からも解放され、だけど、どんな騒音も、よせつけない、闇深い一人になる。

いいなと思ったら応援しよう!