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「この世界とは、異なる未来への移動は、大きな作用が必要です。そこで、重力を利用しましょう。この部屋は、9階に位置しています。時空の扉は、この窓から、地上の落下地点の途中に、存在しています。拙者の言うことが、お分かりですか?」
そう言うと、ミケは、窓を、器用に開ける。
「ちょっと、待って。そうだとするならば、僕らは、この窓から、飛び降りることになる。」
「あるいは、そういうことです。」
その先に、ほんの少しの死を、垣間見た気がした。もし、ミケの話が、でたらめで、投身自殺する結界になったとしたら。べつに、死なんて、怖くない。だけど、前よりは、生きていたいと、思っている。自分のなかに生まれた、わずかな光ともいえる、心の躍動が、そう言っている。
「私は、もう、準備は出来ている。もう、引き返せないところまで、来ているの。いまさら、怖気づいて後進するのは、嫌だわ。あなたの旅に、同行すると、決めたときから、もう覚悟は、決めている。
なにも代償なしに、不思議な体験を、手にいれることなんて、できない。愛にだって、痛みが、伴う。ずっと前から、この宇宙ができたときから、それは、ひとつの真実として、横たわっている。だから、強くなれるの。」
つぼみは、いたって、冷静に、ひとつのひとつの言葉を、噛み砕くみたいに、話した。
「分かった。僕にだって、決断の必要な日が、いつか、来ると思っていた。それが、今日なんだと、思う。先に、行くよ。それで、危険がないなら、つぼみが、あとに、続いて。
ミケ、君を、信じるよ。なぜ、僕らが、巡りあって、なぜ、時をまたぐことになったのかは、分からない。考えても、意味がないことがあることを、経験的に、知っている。心の変化を、自覚しながら、大人になっていく、今を、本当に、愛してる。」
そして、僕は、意を決して、窓から、一歩を、踏み出した。意識が、すぐに無くなるのを感じた。ただ、体が、重たい空気圧で、押されて、痛みを感じる。空の色は、あいも変わらず、綺麗だった。