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目を覚ますと、いつもの自分の部屋にいた。その夜、僕は、つぼみと、交わる夢をみた。とても強烈な印象で、かつ繊細な感触を、残して。彼女の肌は、暖かくて、柔らかな心地に包まれている。セックスの経験はないのに、手慣れたように、作業を淡々とこなし、最後に果てるまでの一連の流れは、まるで、一枚の絵画のように、完成され、洗練されたイメージを連想される。なんとも、言い難い、幸福な味わいだけを残して、朝が来る。そして、そんな夢のことなんて、なかったように、新鮮な空気を吸い込み、心臓を動かし、食事をして、排泄をする僕の営みは、続いていく。あっという間に、死までたどり着きそうな、この今が、いやおうなく、終わっていく。でも、それでいい。
横にいた、つぼみが、目をこすりながら、起き上がる。
「おはよう。昨夜、あなたと夢のなかで、性行為したの。笑い話じゃない。真面目な話よ。
とくに、あなたのことを、好いているとか、そうじゃないとかの、話よりは、ただ、野生のように本能に従う、動物的な感性について。私たちは、人間であり、同時に、地球上にいる、生物の1種にすぎない。でも、それでいて、愛されたいとか、慰めてほしいとか、自分の弱さを、つながりによって、昇華させようとする。それは、傲慢だけど、愚かだとも思う。だって、現実や、真実は、もう、心のなかに、存在しているんだもの。
もう、私たちは、なににも、恐れる必要はないのよ。夢のなかで、あなたと寝る私は、幸せそうだったわ。目を覚ました現実の私が、今、あなたを、愛しているとか、そんな直接的な答えは、言わない。自ずと、正解は、やってくる。だって、もうすでに、未来を目の当たりにしてるんだから。ミケと一緒に。それを、待てばいい。」
同じ夢を見たことは、言わなかった。それを、告げてしまうと、2人の関係が壊れてしまいそうで。
「もう、僕らの旅は、これで、終わり。季節が移り変わるように、きっと、心も、変化していく。だけど、けっして、変わらないものを、この旅で、手に入れたような気がする。たとえ、人ごみにまぎれて、自分のことが、誰か分からなくなっても、また、思い出す。この夏に訪れた、不思議な出来事を。」
まもなく、秋がくるだろう。それを報せるみたいに、空は、すっきりとした蒼穹になっていた。果てのない空は、僕らをつつみ、やがて、死を連れてくる。透明で、色鮮やかな、体験として。時空の流れを、遮るみたいに。