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 気がついたら、自宅の一室にいた。だけど、どうやら、ここは、ただの、自分に部屋ではないのだと、確信する。なにせ、この世界の僕は、もういない。そして、両親は、生存している。隣に、つぼみが、横たわっていた。目は、閉じたままだが、意識は、あるようだ。彼女は、少しして、起き上がり、周りを見渡す。
「ここは、あなたの部屋ね。私たちがいた世界と、寸分も違わない。ベッドの位置、照明の模様、壁に貼り付けているポスター、奇妙なほど、その場所に、落ち着いて居座っている。だけど、何度も言うように、ここに、あなたは、すでに存在していない。」
 ミケは、慣れているように、時空を飛び越えて、自分の定位置に、戻るみたいに、部屋の片隅で、くつろいでいた。猫特有の、鋭い眼光と、ふわふわしたフォルムが、いつもより増して、可愛くみえる。僕たちが、到着したのを、確認すると、話し始めた。
「ここは、あなた方が、生きている次元の、3日後になります。本来なら、二つの世界は、交わりようがない。だけど、今回は、特別です。なぜ、時空を移動する力が、拙者に備わったのかは、分かりません。でも、そんなことは、どうでもいい。たしかに、お二人は、いま、ここにいる。
 あなたが、命を、落としたのは、今から、3ヶ月前。前触れは、なにも、なかった。いつもどおり、学校に通い、家族で、夕食を囲んでいた。朝になっても、自室からでてこないことを、異変に思い、部屋に入ると、あなたは、自殺していた。
 いとも、簡単に、命は、消えてしまう。そう思いました。ちなみに、拙者は、この家に、身を置いている飼い猫です。だから、あなたのことは、よく知っています。あくまでも、この世界の、あなたということですが。
 拙者と同じく、両親は、もちろん、落胆しました。世界で、もっとも愛する息子を、亡くしたのですから。彼らの姿を、見ている拙者も、心苦しいものが、ありました。そんな、おりにです。拙者が、人間のように、話す力と、時をまたぐ力を、もつようになったのは。そして、ここから、3日前の世界、両親が事故に遭い、あなたが、ご存命の世があることを、知る。そこで、両親は、拙者を、送り出すことにした。あなたに、もう一度、会うために。彼らは、部屋の外で、お待ちです。」
 僕らは、そっと、扉をあけた。もちろん、考えは、整理できていない。だけど、もう、流れに身を任すしかない。そう思った。自然と、つぼみの、手を握っていた。1人では、湧いてこない勇気を、生み出すみたいに。

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