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 季節は、冬を、迎えていた。薄手の僕らは、身震いをする。持っていたアウターを、つぼみに、渡す。
「ありがとう。優しいのね。いまから、見る2人は、未来の私たちかもしれないし、もしかしたら、違うかもしれない。だけど、そんなことは、どうでもいいの。だって、たしかに存在する、ひとつの世界で起きることだから。」
 おそらく、卒業を控える時期だろう。その頃の高校生たちの特有の、高揚感。これまでの関係に終わりを告げる寂しさと、まだ見ぬ未来への希望。そんなものが、入り混じる時間は、そう、長くはない。いまのところ、高校を卒業したら、僕は、都内の大学に進もうと思っている。バイトをしこたまして、海外旅行の資金を貯めて、異国を訪れる。前までは、その先で、死んでしまっていいと、思っていた。だけど、今は違う。最後まで生きる。この肉体が朽ちるまでは。死んだ両親に、胸を張れるように。
 見慣れた、つぼみの家の前に、男女の高校生が、話し込んでいる。どうやら、彼らは、未来の私たちで、あるらしい。背格好は、あまり今と変わっていない。僕らは、そっと、塀の陰から、見守ることにした。
「なにを、話しているのかしら。表情を見る限り、なんだか、しんみょうでは、ありそうだけど。」
「誰かに、自分の気持ちを伝えるときは、少しくらい、厳かになる。そういうもんさ。だって、これまでになく、無防備になる瞬間だから。だから、できるだけ、感情のセンサーに敏感になる。一言を放つたびに、相手の反応を伺う。その積み重ねで、今が彩られる。」
「どちらから、告白をするのかしらね。でも、そんな詮索をするのは、よしましょう。ただ、この瞬間を、目にする。あとは、時間の流れに、のってしまえばいい。」
 そして、未来の2人は、軽くハグをして、帰路についていった。

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