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 リビングに、立っていたのは、紛れもなく、両親だ。幼い頃の記憶を頼りに、その面影を追いかけていた。親の愛について、ひと通り、思考する。思い出すのは、やはり、自分は、彼らに、守られながら、生きていたという、ありきたりな答えだった。僕は、その時間が短かったということに、すぎない。思わぬことで、死んでしまった両親に、出くわす奇妙な人生は、少なからず、あるいは、とてつもなく、不思議な気分だ。
「その指のない手を、私にみせてちょうだい。」
 そう言うと母は、僕に近づき、手に触れた。温かいのが、伝わってくる。
「ミケから、だいたいのことは、聞いてるわ。私たちが、事故に遭ったこと、光くんという友だちがいること、そして、横にいるつぼみちゃんという、大切な人がいること。寂しい思いをさせて、ごめんなさい。
 あなたに逢いたいと思ったのは、なにも、この世界に、留まってほしいとか、そういう類の願いとは、違う。ただ、たくましく、生き抜いているあなたを、一目見たかった。そして、これからも、生き抜いていくためのエールを、送るためよ。」
 そして、少し、無言を貫いていた、父親の口が、開く。
「この世界の君は、もういない。だから、この世界の君について、話すことは、しないと、君を呼び出そうと決めた時から、妻と、決めていた。どんな、時間を、家族と過ごしたか。毎朝、どんな、会話をしていたか。もしかしたら、それは、君が、手に入れたかった体験かもしれない。でも、どうしようもないことが、往々とある。亡くなった者には、もう、会えないように。
 あえて、二人の息子の共通するところを言うならば、ひどく、死に、恋い焦がれていたこと。そして、一方は、それを、行動に、移した。私たち、両親は、無力すぎた。今日、君にあって、大方、安心した。顔に、生命力が、みなぎっている。生きたいという希望を、垣間見れる。それだけで、勇気をもらえる。」
 僕は、なにを口にするべきかを、考えていた。横には、旅に同行してくれたつぼみと、ここに導いてくれたミケが、見守っている。素直に、単純に、心の底からの思いを、言葉にしようと、決めた。

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