MTG『イニストラード:真夜中の狩り』リミテッド環境コモンベース概説
#0 はじめに
Magic: The Gathering「イニストラード:真夜中の狩り」(以下、MID)環境のリミテッド環境をコモンベースで概説します。強いアンコモンも多い環境ですが、アンコモン以上はパックの出に左右されますし、他の方がより詳細な有料解説記事を書かれると思うのでそのあたりは割愛します。
MID環境の要点は3つです。
1. アドバンテージ環境である
2. 信頼性の低い除去が多い
3. 「青 ≧ 黒 ≧ 白 > 緑 > 赤」
以下、順番に確認していきましょう。
#1 アドバンテージ環境である
MID環境にはアドバンテージ源、特にリソース面で様々なメカニズムが用意されています。特に重要なのが以下の3つです。
1. 腐乱トークン生成
2. 降霊
3. フラッシュバック
これらのメカニズムでリソース面のアドバンテージを取ることが容易であるため、攻め続けても弾切れになりにくく、先手有利環境になっています。
それぞれについてもう少し具体的に確認してみましょう。
#1-1 腐乱トークン生成
MID環境ではオマケのように腐乱トークン生成の効果が付いてきます。
例えば以下のような類似カードを比較してみると、腐乱トークンの価値は「実質0マナ」であると評価することができるでしょう。
単純な引き算
2/2の腐乱トークンはブロックできず、攻撃時に自壊してしまうので、単純に使うと信頼性の低い本体2点火力にしかなりません。それはそれで一応仕事はしているのですが、カードの組み合わせ次第ではアドバンテージに繋げられる点は押さえておきたいです。
生贄に捧げたり
《焼印刃》との2択を迫ったり
3体でタップダンスしたり
ETBやPIGを誘発させたり
コモンだけでもこれだけの活用法があり、特に黒、次いで白と青に腐乱トークンを活用する術が用意されています。実質0マナの価値しかないトークンに価値を発生させることができれば、そのぶん多様なアドバンテージを積み上げることができます。
#1-2 降霊
降霊コストで墓地から裏面の状態で唱えられる降霊メカニズムは、1枚で2枚分の働きをするカードと言えます。コモンだと以下の4種類です。
これらの降霊クリーチャーと1対1交換を繰り返していると、一方的に手札が尽きてしまいます。特に2/2/1の《餌鉤の釣り人》は優秀な地上ブロッカーであり、《餌鉤の釣り人》と相打ちになるタフネス2以下の地上クリーチャーは環境的に弱い、と言っても過言ではありません。
また、降霊後の変身クリーチャーは全て飛行を持っており、オモテ面で盤面を固めつつ相打ちしたらフライヤーとして戻ってくるという、回避能力が重要なリミテッドにおいて強い動きを簡単に狙うことができます。
ただし、対戦相手もその動きを嫌って相打ちを避けてくるので、降霊持ちを能動的に墓地に送り込む方法を用意したほうがデッキの完成度は上がります。具体的には以下のようなカードを採用すると良いでしょう。
諜報・ルーティング・切削
#1-3 フラッシュバック
フラッシュバックはフラッシュバック・コストを支払うことで墓地から再キャストできるインスタント・ソーサリーの常在型能力です。コモンだと以下の10種類が該当します。
特に重要なスペルが2つあります。
1つは、黒の墓地回収スペル《地下室からの這い上がり》です。ゾンビに+1/+1カウンターを置く効果が付いており、青黒との相性が非常に良いです。前述の通り青は墓地肥やしを得意としていて、かつ青黒にはゾンビが多いことから、青黒はこのスペルをかなり有効に活用することができます。
もう1つの重要なスペルが、緑の4/4トークン生成《影野獣の目撃》です。これは、4/4/4というスタッツが環境的に優れており、緑のフラッシュバック系のデッキで中核になるスペルだから、という理由が挙げられます。
上図が示す通り、フラッシュバックを最も有しているのは緑です。特に青緑がフラッシュバック系のアーキタイプとしてデザインされており、切削系のカードの価値が高くなります。上図の青の《異世界の凝視》、緑の《窓を叩く》といったスペルの他、例えば以下を採用すると良いでしょう。
なお、ここまでの解説で気付かれた方も居るのではないかと思いますが、青4/3/2の《臓器の貯め込み屋》はMID環境屈指の強クリーチャーです。ドラフトにおいてはアンコモンよりも優先してピックすることがよくあります。
#1-4 環境のクリーチャースタッツに関する補足
緑のフラッシュバックスペル《影野獣の目撃》に関する説明の、「4/4/4が環境的に優れている」点について補足するため、少し脱線します。コモンの地上クリーチャーについて、マナ総量・パワー・タフネスを一般化したデータの統計値を取ると以下のグラフが得られます。
横軸:マナ総量、
Ave(P):パワーの平均値、Ave(T):タフネスの平均値
Max(P):パワーの最大値、Max(T):タフネスの最大値
なお、一般化は下記の通り結構乱暴に行っており、個人的な趣味で集計した参考値と捉えてください。特に「狼男の裏面は集計対象外」の妥当性が難しいのですが、環境的に夜の維持が難しいことから、環境のサイズ感を把握するためには外れ値として扱うほうが妥当だろうと筆者は考えました。
・腐乱トークンは0/0として扱う。
・その他の生物トークンはスタッツに上乗せする。
・+1/+1カウンターはスタッツに上乗せする。
・ライフルーズ条件は常に満たすものとする。
・両面カードは2枚のカードに分けて集計する。
・狼男の裏面は集計対象外とする。
・起動型能力の変身では元のマナ総量と起動コストのマナ総量を合計する。
このグラフから、4マナ域のコモンの地上クリーチャーの平均スタッツは、「3.2 / 3.4」と読み取れます。《影野獣の目撃》の4/4/4というスタッツは、4マナ域のクリーチャーの平均スタッツを上回っており、このサイズが優秀だと分かります。加えて、《影野獣の目撃》はフラッシュバックで7/4/4として再キャスト可能で、このスペルの優秀さは際立っています。
参考:コモンの狼男たち
また、厳密な比較は難しいのですが、上図に示す通り4/4というスタッツは狼男とも充分やり合えるサイズになっています。わざわざターンパスして夜にしなければならないというデメリットが無いのも優位点です。
《銀弾》は狼男には刺さるが、ビーストには刺さらない
#2 信頼性の低い除去が多い
さて、アドバンテージの話から続いて除去の話に移ります。
「リミテッドでは除去が強い」が定説ですが、MID環境では必ずしもそうとは言い切れません。これは上述のアドバンテージの話が強く絡んできます。
ポイントは以下の2つです。
1. 1対1交換になりにくい
2. 状況を選ぶ除去が多い
#2-1 1対1交換になりにくい
リミテッドにおける除去の強さとは、「大抵のカードと1対1交換できる」というところにあります。しかし前述の通り、この環境にはアドバンテージ源が多数用意されており、1対1交換できない場合が多く存在します。
基本的に場に出た時点でアドバンテージが確定しているものと1対1交換はできません。除去を撃つだけ損です。
上図の中だと唯一「降霊」持ちは、破壊以外の方法で除去することで1対1交換を実現することができますが、その手段も大抵リスクを伴うものになっています。具体的には、以下の6種類が該当します。
△《スレイベンの除霊》:範囲が限定的でメインボードに入らない
△《蝋燭罠》:起動するまでが大変でコストも重め
△《墓地への幽閉》:生贄コストに充てられたりバウンスで回収されたり
◎《溺死者の逆襲》:腐乱トークン付きで、良い除去
〇《踊り食い》:腐乱トークンとの併用がほぼ前提
△《忌み者の火刑》:5マナが重い
こういった除去の弱さを補うために、降霊やフラッシュバック持ちを墓地から追放する手段がMID環境では求められます。ただし、墓地追放で手札損していては意味がないので、おおよそ以下のカードで対策されます。
《戦墓の大群》以外は弱めで、サイドボード向きのカードが多い。
《腐敗した再会》は腐乱トークンの使い道を用意した上で採用する。
#2-2 状況を選ぶ除去が多い
MID環境には、相手のサイズ・クリーチャータイプ・能力等に依存する除去が多数存在します。また、相手のアーキタイプ次第ではオーラ除去も機能しづらく、適切な除去を採用・プレイすることが求められます。降霊除去の話と被る部分もありますが、以下の除去は状況を選びます。
小粒なクリーチャーしか除去できない。
盤面の状況に依存する。
ただし、《オリヴィアの真夜中の待ち伏せ》は基本的に強く使える。
生贄コストに充てられたり、バウンスで回収されたりする。
クリーチャータイプや能力の有無、環境に少ないタフネス域に依存する。
ただし、《窓からの放り投げ》は青白以外には基本的に刺さる。
このように、除去選びが難しいのがMID環境の特徴です。
しかしそれでも、アンコモン以上のクリーチャー相手にはやはり除去が必要になってくるので、安易に除去を使用せず、盤面のクリーチャーで相手のクリーチャーに対処していくプレイングが非常に重要になってきます。
なお、強いコモン除去として認識されているのは以下の通りです。
#3 「青 ≧ 黒 ≧ 白 > 緑 > 赤」
最後に色の強弱を確認しましょう。
ここまでの話で、MID環境は「アドバンテージ環境である」ことと、「信頼性の低い除去が多い」環境であることが確認できたと思います。これらについて、各色それぞれ4段階評価すると、下表のようになります。
アドバンテージ面と除去の強さで総合的に強いのが青と黒で、回避能力持ちの豊富さを加味すると青が環境トップだろうと筆者は捉えています。逆に、アドバンテージを得る手段がほぼ皆無の赤は最弱カラーの認識です。
色の組み合わせで言えば、赤緑の狼男のアーキタイプは環境最弱です。狼男はコモンベースだとアドバンテージを得る手段が皆無で、タフネス6以上のクリーチャーを除去する手段に乏しいことも弱い理由になっています。また、環境に軽いスペルが多い関係で、夜の維持が難しいのも逆風です。
#4 まとめ
MID環境で取るべきドラフト戦術は以下の通りです。
1. アドバンテージの取り方を意識する。
2. 強い除去を取る。
3. 赤は避ける。
#5 最後に
「イニストラード:真夜中の狩り」のデジタル実装から1週間で環境の全体像が判明するようになったのは、17Lands.comでツール利用者の統計情報が公開されているおかげだと思います。統計情報を正しく分析すれば、誰でも容易に上達できるようになりました。これは実に素晴らしいことです。
ただし、統計情報に頼っているだけでは頭打ちになるのも事実です。一部のプレイヤーしか知らないノウハウは統計情報に反映されませんし、ピックで常に強いアーキタイプを選べることは稀です。そもそも、統計情報を正しく捉えるためには自分自身で実戦を繰り返す必要もあると思います。
本稿は、そういった統計情報は脇に置いておいて、筆者自身が環境理解を咀嚼すること、統計情報に頼らない視点を得ることを主目的として執筆しました。読まれた方の環境理解の一助にもなれば幸いです。
Twitter@takuwan_takusan