MTG『D&D:フォーゴトン・レルム探訪』ドラフト環境コモンベース概説
1. はじめに
『D&D:フォーゴトン・レルム探訪』(Adventures in the Forgotten Realms;以下AFR)のドラフト環境について、コモンベースで概説する記事です。ドラフトではコモンのプレイ頻度が最も高いため、コモン軸で環境を考えることが非常に重要です。
なお、アンコモン以上を踏まえたより詳細なものは、他の方が有料記事を書かれるかと思いますので、それをご期待ください。
2. AFR環境を簡潔に言うと
赤が強いため、赤を使うか、対策するかの2択環境です。
3. 赤の強カード
赤が強い要因はもちろんコモンのカードパワーが他の色に比べて高いからです。重要なカードを3つ挙げます。
《ホブゴブリンの隊長》
今環境を定義しているゴブリンです。このゴブリンを横に並べて集団戦術を達成しながら殴っていくだけで、対策していない相手を簡単に倒すことができます。実質的な回避能力持ちと言っても良いかもしれません。今環境のクリーチャーの質を考える際の軸になります。
《ドラゴンの火》
優秀なインスタント火力です。今環境はインスタントの除去が弱いのですが、赤にはこれがあるため優位に立ち回ることができます。
なお、ドラゴンとの組み合わせで火力が上がる点も見逃せなく、場のドラゴンを強化してブレスを吐かせれば6点以上の火力になることもあります。その際にはパワーのマイナス修整に気をつけましょう。
《略取するバーバリアン》
アーティファクト破壊と宝物トークン生成のどちらのモードも優秀です。
今環境には様々な装備品が収録されているため、それらを簡単に対処できるのが嬉しく、環境のアーティファクトにリスクを押し付ける要因です。
また、宝物トークン生成でマナスクリューや色事故に一時的に対応したり、ボムレアのタッチに役立てたりできるところも優れています。今環境はスクリュー受けが少なく、色事故も起こりやすいため、宝物トークンはデッキの動きを安定させる要素になっています。
以上を踏まえつつ、環境の掘り下げをしていきます。
4. 環境のクリーチャーの質
《ホブゴブリンの隊長》が評価されているのは単純なカードパワーの高さの他に、コモンのクリーチャーが全体的に防御的で、コモンだけで勝ち切る手段が乏しい環境であることも関係しています。
以下、コモンのクリーチャーのパワーP・タフネスTの平均値Aveと最大値Maxを集計した折線グラフです。横軸がマナ総量、縦軸が集計値で、トークン生成能力持ちのクリーチャーはパワー・タフネスを合算する、といった一般化をしています。
このグラフから、タフネスの平均値がパワーの平均値をおおよそ上回っている(赤AveT > 青AveP)ことが見て取れます。これは、攻撃側に工夫が必要な環境であるということを意味しています。
コモンだけで勝ち切れないということはすなわち、ゲームが長期化して相手のレアに付き合う必要が出てくるということです。パックの出に左右されてしまうぶん、長期戦になりそうな漫然としたデッキは避けるべきで、相手がレアを引く前に倒すアグロ軸の組み方を意識することが重要になります。
5. 低マナ域のクリーチャーのアグロ性能評価
各色の低マナ域のクリーチャーをアグロ的な観点で評価します。テキストを書き連ねると長くなるので、「〇」「△」「×」の簡易評価です。
「〇」評価のクリーチャーが多い色はアグロ軸で組みやすく、「×」評価のクリーチャーが多い色はアグロ軸で組みにくい、と評価できます。
赤と白がアグロ軸で組みやすく、逆に青が組みにくいと判断できます。
6. 環境の回避能力
もともとリミテッドでは回避能力持ちが重要と言われていますが、今回のようなタフネスに偏った環境ではそれが顕著になります。ここではAFR環境の回避能力持ちを確認します。
6-1. 飛行
まず、環境の攻撃的なコモンフライヤーをピックアップしました。
《レンジャーの鷹》
サイズこそ小さいですが、1ターン目に着地した後、白の豊富な装備品と組み合わせて攻められます。盤面が膠着した時にはダンジョン探索でマナフラッド受けもできるので、1枚採用しておくとデッキが引き締まります。
《アルボレーアのペガサス》
同マナ域に3/3のフライヤーが居るのでサイズ不足感はありますが、地上のクリーチャーを飛ばして高打点を叩き込める点が優秀です。ちなみに相手のクリーチャーを飛ばして《垂直落下》させることもできます。
《プレイナー・アライ》
攻撃時誘発型能力を持つフライヤーです。ダンジョン探索の効果が控えめで、かつサイズも平凡なため、物足りなさを覚えることも多いですが、それでもコモンベースでは悪くない性能です。通称「アライさん」。
《ジンの風予見者》
マナ比サイズの良いフライヤーです。占術付きのため、デッキの動きを安定させる点も高評価です。青で攻撃的なデッキを組む際には必須です。
《大気教団の精霊》
相手のフライヤーと睨み合いになりやすいスタッツですが、バウンス能力で盤面をこじ開けられる点は高評価です。コストの重さは気になります。
《マンティコア》
マナ比サイズが悪いため厳密には攻撃的なフライヤーではないのですが、地上クリーチャーのチャンプアタックを許容するため、攻撃的なプレイングを支援するクリーチャーという意味でピックアップしました。MTGAのラダーだとプラチナ帯ぐらいまではケアされにくい印象です。
攻撃的なコモンフライヤーは以上です。総じて、白はフライヤー戦術を取りやすく、青も《ジンの風予見者》のピック枚数次第ではフライヤー戦術を取れる色と言えるでしょう。
なお、コモンの対飛行カードは以下の通りです。
ただし、それぞれ問題点を抱えています。
《垂直落下》
BO1で採用しづらい。撃ち先が居ない可能性がある。
《レンジャーの長弓》
前述の《略取するバーバリアン》に破壊されるリスクがある。
《エルターガルドのレンジャー》
タフネスが1なので、フライヤーと相打ちになってしまう。
《モルデンカイネンの変身》
コンバットトリックで介入されるリスクがあるし、活用条件が厳しい。
6-2. 威迫
続いて、環境の「威迫」関連のコモンクリーチャーは以下の2種です。
《武器庫の古参》
装備品を要求するため、前述の《略取するバーバリアン》によって破壊されて機能不全になるリスクがあります。
《悪意のビホルダー》
威迫を全体付与したり、環境の面倒なエンチャントを対処したりと使い勝手の良いクリーチャーですが、6マナが重いのでアグロ戦術とはあまり噛み合いません。ただし、黒は防御的に組みやすい色でもあるので、少し長めのゲームレンジでフィニッシャーとして活躍してくれることがあります。
6-3. その他の回避能力
回避能力に「接死」を含める場合もありますが、今回は割愛します。
最後に確認しておくべきなのが、「ブロックされない」能力です。
《盗人の道具》
パワー3以下限定とはいえ、フライヤー戦術を取りにくい黒にとって貴重な回避能力付与の装備品で、宝物生成付きである点も評価対象です。ただし、やはり《略取するバーバリアン》に破壊されるリスクは存在します。
7. 《ホブゴブリンの隊長》に対する各色の主な回答
今環境を定義している《ホブゴブリンの隊長》に対する、各色3マナ以下のコモンの主な回答を確認します。3マナ以下で限定するのは、相手が先行で《ホブゴブリンの隊長》を2体展開して、4ターン目に集団戦術で殴ってくる場面を想定しているためです。
《不動のパラディン》
ダメージレースで有利に立てます。大雑把な考え方ですが、パワー2の絆魂持ちはパワー4のクリーチャーとライフレースが可能です。
《君は見張り中に物音を聞いた》
2マナの軽量除去なので、相手が素直に殴ってくればマナ損せず討ち取れます。ただし、相手が殴らず展開した場合は構え損になります。
《魔法の眠り》
2マナのクリーチャーに3マナ使っていてはマナ面で不利ですし、ダブルシンボルなので色事故で撃てない可能性も考えられますが、これぐらいしか選択肢がありません。
《よろめく怪異》
死亡時に-1/-1修整を与えるため、3/1先制攻撃を迎え撃てます。タフネス2のクリーチャーとも相打ちを取れて、宝物生成手段としても使えるため、見た目の割に有用なクリーチャーです。
《急な落下》
3マナなのでマナ面で若干不利ですが、除去兼ダンジョン探索カードなのでデッキの構成次第では良い回答になります。
《ドラゴンの火》
最強の回答です。
《間に合わせの武器》
2点火力に宝物生成がついてくるのが嬉しいです。アグロ相手の後手番を巻き返すポテンシャルがあります。
《月の円環のドルイド》
相手ターンでは2/4なので、3/1のゴブリンをしっかり止めることができます。それでも殴ってくるなら(基本的には)コンバットトリックを持っているということで、《決闘のレイピア》以外なら1:1交換なので許せる、レイピアだと苦しい展開になる、といった具合です。
自ターンではパワー4で集団戦術に貢献する点も評価対象です。
《狩りの戦利品》
3マナのスペルかつ、事前にクリーチャーを展開していることが求められますが、2体目のゴブリンが展開された返しのターンならば対応されるリスクは低いです。(1マナのインスタントは確認しておきましょう)
8.《ホブゴブリンの隊長》に対する回答に「なりにくい」もの
逆に《ホブゴブリンの隊長》に対する回答に「なりにくい」カード、一見良さそうですが筆者の主観ではリスクが大きく見えるものを挙げてみます。
《君は道で待ち伏せに遭遇した》
タフネスを上昇させることで一方的に討ち取れる可能性がありますが、《ドラゴンの火》で対処されるリスクが気になります。
《パラディンの盾》
タフネスを上昇させることで一方的に討ち取れる可能性があります。コンバットトリックで対応されても装備品が残るのでデメリットは一見薄いようですが、効果に対して再装備のコストが重く、《略取するバーバリアン》に破壊されるリスクがあります。
《幽閉》
2マナのクリーチャーに3マナ使っていてはマナ面で不利になります。また、宝物を与えるデメリットが大きく、その後の展開負けに繋がります。
《隠し扉》
見た目は止まりますが、殴られ続けるので装備品などでいつ突破されてもおかしくなく、アーティファクトなので《略取するバーバリアン》で破壊されるリスクがあります。
《ショッキング・グラスプ》
パワーを下げることで一方的に打ち取れる可能性があります。ただし、上手く活用できないとデッキ内の有効なスペルの割合を悪化させるリスクがあります。(かなりざっくりとした説明ですが、単に1ドローカードとして採用すると、39枚デッキに土地17枚が入っているのと同じような状態になり、マナフラッドしやすくなります)
《モルデンカイネンの変身》
《ドラゴンの火》も気になりますが、そもそも効果的に使える場面が限られるため、基本的に採用したくないカードです。ただし、そういった評価を踏まえて裏をかくために採用する、といった選択肢も一応存在します。
《ステュギアの末裔》
一時的に凌ぐという意味では悪くないですが、脅威は残ったままなので回答とは言い切れません。
《財宝荒らし》
ライフレース負け覚悟でマナ加速して巻き返す、という展開を狙えます。ただし、ライフ負けが大きいので基本的に狙うべきではありません。
《鱗の薬草医》
4枚目の土地を追加セットして、白や青のタフネス4以上の4マナクリーチャーで盤面を固められる可能性があります。ただし、それらを揃えられるかという確率的な問題や、条件を満たすクリーチャーの選出が悩ましいという問題があります。
《雄牛の筋力》
自然に採用できる強いコンバットトリックですが、《ドラゴンの火》で対処されるリスクが気になります。
《コンペルド・デュエル》
2体目のゴブリンを討ち取れる可能性があります。ただし、タフネス2以下のクリーチャーだと《決闘のレイピア》の装着で相打ちになります。
9. 《ホブゴブリンの隊長》に対する回答まとめ
白・黒・赤には2マナ以下の優秀な回答が存在しており、後手番でも巻き返しを狙うことができます。
緑にも回答は存在しますが、どちらも3マナである点が気になります。
青の回答は3マナである上にダブルシンボルであるため、他に比べてリスクが高くなっています。
10. 環境のインスタント除去
続いて、AFR環境のコモンのインスタント除去を確認します。
《君は見張り中に物音を聞いた》
コストが軽く、モード選択付きで腐りにくい優秀なスペルです。ただし、相手のシステムクリーチャーに触れないという弱点があります。
《君は川にたどり着いた》
バウンスモードが疑似除去として機能しますが、基本的に手札損です。
《ステュギアの末裔》
タフネス2以下のアタッカーを討ち取ることができます。システムクリーチャーには触れません。
《マンティコア》
基本的にチャンプアタック・ブロックとの組み合わせで大型クリーチャーを倒します。システムクリーチャーには触れません。
《ビホルダーの眼》
実質的な完全除去ですが、6マナは重過ぎます。
《ドラゴンの火》
優秀な3点+α火力です。
《ファリダの火の玉》
5点は環境のほとんどのクリーチャーを倒すことができます。逆に言えば、タフネス6以上のクリーチャーが赤にとって脅威ということです。
《垂直落下》
フライヤー限定除去のため、BO1では採用しづらい問題があります。
《狩りの戦利品》
一方的な格闘なので使いやすく、接死との相性が抜群です。相手に除去を重ねられないように気をつけましょう。
《とげの落とし穴》
起動に5マナ必要なので実質的には6マナ5点除去です。ダイスロール目当てか、シールド戦で除去不足の時に採用するぐらいだと思います。
コモンのインスタント除去は以上です。
黒のインスタント除去がかなり弱いのが今環境の特徴で、システムクリーチャーも対処できる軽量火力の《ドラゴンの火》が飛び抜けて強いことが見て取れます。青は盤面干渉しにくいので、打ち消しも絡めつつ上手く立ち回ることが求められます。
11. コモンベースの色別評価
ここまでの内容からコモンベースに色別評価を行った結果が下表です。
この表の通りに判断すると、コモンベースの色別の強弱は、
赤 > 白 > 黒 > 緑 > 青
となります。
他にも評価基準は存在しますし、本来はアンコモンも踏まえた色別評価をすべきなので、コモンベースだとざっくりこのような並びになる、程度の認識で問題ありません。
ただし、順位が大きく入れ替わるようなことは無いはずなので、この評価をベースにAFR環境のドラフト戦略を検討すると良いでしょう。例として、以下のようなものが挙げられます。
・赤は強いが混雑するので、触るか触らないかきっちり判断する。
・白も悪くないので、上家と住み分けて白黒や白緑を目指すのも有力。
・青には触らないほうが良い。参入するなら、対アグロ戦を意識する。
12. 補足:知っておきたい優良カード
最後に、ここまで触れてこなかったカードをいくつか紹介します。
《黎明運びのクレリック》
白・青・黒のエンチャント除去や、アンコモン以上の厄介な「クラス」を破壊できる点が優秀です。アグロ性能は低いですが、白緑のライフゲイン要員としても採用できます。
《古代の伝承の僧侶》
スタッツは低めですが、ドローとライフゲイン付きで単純に優秀です。
《ピクシーの案内人》
青赤ダイスロールを目指すなら必須のクリーチャーです。1回のD20で10〜20の出目が出る確率は55%ですが、2回のD20で10〜20の出目が出る確率は約80%になります。
《賢い妖術師》
ソーサリータイミング限定ですが、マナ加速、ダブルシンボルの捻出、疑似警戒付与など使い勝手の良いクリーチャーです。
《フェイン・デス》
今環境はETB・PIG能力持ちが多いですし、構えやすい点が優れています。
《不気味な報奨》
宝物生成も嬉しい、単純に強い確定除去です。
《忠誠の代価》
今環境ではコモンにサクリ台が2種類あり、ダンジョン探索でも生贄に捧げることができるため、アクトが完全除去として機能する場面はそれなりにあります。赤黒をピックする際には意識すると良いでしょう。
《武勇の歌い手》
実質3/3/3相当の高水準クリーチャーと捉えることもできますし、装備品を付けた《ホブゴブリンの隊長》を強化して殴らせることで単騎で集団戦術を達成させることも狙えます。
《アウルベア》
キャントリップ付きの5/4/4トランプルが弱いはずがありません。ドローによって6マナ目以降にアクセスしやすくなるので、さらに高マナ域のフィニッシャーを用意しておくと良いでしょう。
《群喰らいのヒル・ジャイアント》
7/6というサイズが単純に強く、コモンベースだと赤に対する半除去耐性を持ちます。着地が遅いぶん、ライフゲインが嬉しい場面が多いです。
《進化する未開地》
今環境はダブルシンボルのカードが多く色事故が起こりやすいため、マナベースを強化するという意味で1枚は必ず採用したいです。また、相対的にレアが強い環境であるぶん、後から流れてきたレアをタッチする手段としても早めに確保しておくことを推奨します。
13. おわりに
以上、『D&D:フォーゴトン・レルム探訪』ドラフト環境のコモンベース概説でした。普段はニコニコにドラフト動画を上げていてその中で環境概説をするのですが、今回は内容が細かすぎるように思ったのでnoteでまとめることにした次第です。記事の内容が参考になれば幸いです。
感想・質問等は Twitter@takuwan_takusan までよろしくお願いします。