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西麻布の夜、よもぎの香りとミニマルテクノ 

西麻布の夜は、湿り気を帯びたネオンの光で満ちている。六本木の喧騒から一歩踏み込んだこの場所には、どこか退廃的なムードが漂い、静かにエンジンを吹かせるランボルギーニの音が、低く響くミニマルテクノのベースと混じり合う。

青山霊園の片隅でよもぎを摘んでいた俺は、黒のタイトワンピースを纏った彼女の影に気づいた。

シルエットが完璧だった。

タイトな生地が肌に吸い付くようにフィットし、腰のラインが滑らかに浮かび上がっている。ヴェルサーチのドレス。肩から胸元にかけてのカッティングが深く、鎖骨の下で光るゴールドのネックレスが、ルイ・ヴィトンの広告のように洗練されていた。

彼女のハイヒールはルブタン。

スラリと伸びた足首の下、鮮やかなレッドソールが濡れたアスファルトに映り込み、青山霊園の無機質な墓石に強烈なコントラストを生んでいる。

バッグはFENDIのバゲット。

光沢のあるレザー、細いゴールドチェーン。指先で軽く弾くと、ミニマルテクノのシンセのように乾いた音を立てる。中には、YSLのマットリップ、Aesopのハンドクリーム、そして、どこかで手に入れたであろう精製塩の小瓶が入っているのが見えた。

「あなた、ここで何してるの?」

彼女は言った。声は、Roland TR-909のスネアのように乾いていて、それでいてどこか甘かった。

「よもぎを摘んでる」

「都会の男が?」

「都会の女が、ヴェルサーチを着て青山霊園で男を逆ナン?」

彼女は微かに笑い、ルージュの乗った唇を少し開いた。

サンローランのリップは、絶妙な濃さだった。

「よもぎって、どんな味?」

俺は一本摘み、軽く指先で撫でてから、彼女の手のひらに置いた。彼女はそれをつまみ、細い指でゆっくりと擦り合わせる。

「ちょっと青臭い」

「でも、いい香りだろ?」

「…ふーん」

彼女は唇にそれを近づけ、舌先で軽く転がした。

その瞬間、遠くのクラブから聞こえるビートが、わずかに歪んだ。

「苦い」

「でも、血が巡る」

彼女は小さく笑い、ルブタンのピンヒールを軽く地面に打ちつけた。

タタン。タタン。

西麻布の夜、テクノのリズムと混じり合う足音。

「ねぇ、もっと苦いの、教えて?」

港区女子のファッションは、完璧だった。ヴェルサーチのワンピース、ルブタンのヒール、フェンディのバッグ、そして、青山霊園でよもぎを摘む俺を逆ナンする余裕。

西麻布の夜は、まだ続く。

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