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たとえば日常的な教師に、非日常を生きた少女を与えたとせよ

私は教室を出た。

今日はおかしな日だ。
いつもは指名したらなんでもハキハキと答える佐々木さんが、今日は何にも答えられずに椅子にぺたんと座り込んでしまった。
座った理由を聞いても「わかりません」としか答えてくれず、私もどう接したらいいのか、途方に暮れてしまった。

子どもたちは可愛い。
でも、たまにこうやって、どうしてそうなるのかよくわからないことになる。
よくわからないことになると、私は途端に頭が真っ白になる。
今日の佐々木さんにしても、それで授業の大半が終わってしまった。
最後には仕方なく、保健室に行くということで、ケリをつけてしまった。

「思い通りにいかないなあ……」

職員室へ次の時間の教材を取りに行く途中、私は思わずそう口にした。

「高田先生、どうしたんですか?」

振り向くと、同期の斎藤先生がそこにいた。

「ああ、今日もちょっとトラブっちゃって……また授業が進まなかったの」

「へえ、トラブルですか。今日はまたどうして」

「うちの生徒が一人、いつもはハキハキ喋るんだけど、今日は指名してもずっと黙ったままで……」

「ふーん……子どもっていうのは、何年先生をやっても、やっぱりわかりませんねえ……」

「ほんとう。結局黙ったままだったから、最後には保健室に連れて行ったんだけどね」

その瞬間、「たかだせんせい!」と後ろで声がした。振り返ると、私のクラスの佐々木さんが立っていた。

「え、佐々木さん?もう大丈夫なの?」

「うん、ほけんのせんせい、どこも悪くないって言ってた」

「じゃあ」と言って、佐々木さんは廊下を走って教室に戻って行った。
「走るなよー」と斎藤先生の追いかける声を後にして……。

「ほんとう、よくわかりませんね」

ぼーっと佐々木さんの後を見つめる私を尻目に斎藤先生はつぶやいた。

きっとこのことを私はすぐに忘れるのだろう。
別に私にとって、なんの意味もないことなのだから。
明日からは、いや2時間目からはまた、いつも通り子どもたちの前で授業をして、夕方には明日の準備やらなんやらで追われて、夜はぐっすり眠るんだ。

でも、そうやってなんにも感動なく一日一日を過ごしていくのはとても味気なくて、子どもたちのそういうわけのわからない行動にはとても興味があって、そもそも私はだから先生になったのであって、でもいざわけのわからないところに出くわすと頭が真っ白になって、結局忙しさにかまけて全部忘れていってしまうんだ。

そう思うと、急になんだか寂しくなった。
そして佐々木さんの後を追って、詳しく話を聞いてみたくなった。

「あ、高田先生!……時間!」

「え、あ、ああっ!」

チャイムの音と同時に、私は全てを忘れた。

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Takuto Ito
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