【考古学】ギザギザを評価する
ツルツル、ザラザラ、なめらか、キザギザ。
これって何が基準になるのでしょうか?
私にとっては学生時代から悩んでいる問題で、没ネタ量産のテーマでもあります。
今回はギザギザの評価についての試行錯誤を紹介します。
鉱物は融けたのか?
大学院生の頃、シュードタキライトと呼ばれる岩石を研究していました。
この石は地震によって岩盤がずれた際の摩擦熱で融けた岩石です。
この岩石を調べると地震がいつ発生したかがわかるので、地震の周期性などの研究に役に立ちます。
岩石が地震などで細かく割れた場合、割れた鉱物粒子は尖った角を持った形になります。
一方でシュードタキライトは、摩擦熱で溶けるため、溶けにくい鉱物は輪郭部分だけが融けて丸みを帯びた粒子として残されます。
鉱物粒子が角ばっているか、それとも滑らかな輪郭になっているのかを調べれば、その岩石が融けたか融けていないかを判断できるのではないかと考えたわけです。
形を評価する指標
形を評価する指標はいくつかありますが、地質学で代表的なものには円磨度や角張度、フラクタル次元、楕円フーリエ記述子があります。また、土木工学でも凹凸係数などが利用されています。
これらの指標を用いて、ただ割れた鉱物と、割れた後に一部融けた鉱物の形を比較してみました。
予想通りではありますが、一部融けた鉱物の方が角が丸くなっていることが確認できました。
しかし「この閾値を越えたら融けたと言える」というような閾値を設定することができず、博論の本論とも直接関係のない課題だったために、それ以上研究することなく没ネタとなってしまいました。
焼け石の割れ面は評価できたのか?
最近、このギザギザ問題とまた対峙しています。
以前のnoteで、旧石器人が火を使って調理を行った証拠である焼け石について紹介しました。
石を加熱することによって熱膨張によって割れるのと、焼け石を水などで急冷して熱衝撃で割れるのとでは、破断面のギザギザ度が異なると言われています。
私たちも実際に石を電気炉で加熱して実験してみましたが、確かに焼け石を水に浸けて割ると破断面はギザギザになりました。
割れ方のギザギザ度合いで水に浸けたかどうかが判断できれば、旧石器人がグリル調理に焼け石を利用したのか、ボイル調理に焼け石を利用したのかを考えることができます。
しかし、割れ方のギザギザ度合いはどう評価したらよいのでしょうか?
ひとまず、割れ線をPhotoshopのマグネット選択ツールでトレースし、汎用性の高そうなフラクタル次元(ボックスカウント法)を算出しました。
しかし、感覚的なキザギザ具合とフラクタル次元による形の複雑さは一致しませんでした。
おそらくトレースした割れ線の長さが資料によって異なることと、ボックスカウント法のボックスの大きさが影響していると考えられます。
新しい指標を考えてみた
フラクタル次元の求め方にはいくつかの方法があります。
ボックスカウント法よりも手間がかかりますが、Modified Pixel Dilation (MPD) 法の方が正確なフラクタル次元が推定できると言われています。
MPD法は画素点膨張(dilation)を複数回行い、画素点膨張の回数と画像の面積の関係からフラクタル次元を求める手法です。
線の画像を膨張させたとき、直線でない部分では画素点膨張によって生まれた点が重なることになります。
つまり、線が複雑であるほど点の重なりが生じ、画素点膨張によって作られた画像の面積が小さくなるという仕組みです。
今回は、このMPD法の考え方を利用し、画素点膨張と同じ回数の画素点収縮を行ってみます。
この処理は画像解析ではクロージング(closing)と呼ばれる基本技術です。
元の線とクロージング後の線を比較することで線にある凹凸を検出し、線のギザギザ度を評価してみました。
このクロージングを利用した方法で、フラクタル次元では評価することが難しかった細かいギザギザを評価することができたように思えます。
とは言え画素点膨張・収縮の仕組み上、注目点に上下左右で近接する点と、注目点の斜めに位置する近傍点では扱いが変わってきそうです。
課題は残っていますが、この指標を焼け石の割れ面に適用してみました。
北海道・東京・鹿児島の砂岩礫を対象に実施し、鹿児島の礫については保坂ほか(2024)「鹿児島県出土の礫群の残存脂質分析と焼石使用履歴分析の成果」『九州旧石器』の中で紹介しています。
オープンアクセスではないので本文は掲載できませんが、興味があれば読んでみてください。
今回はこれでおしまいです。
引き続き応援よろしくお願いします。