
歩み 〜『函館』の1ヶ月〜
時は遡り、2024年10月14日ーーー
札幌から車で4時間かけて函館に来た。
函館行きが決まった時から妄想だけをただ膨らませていた街が今目の前にあることに感動を覚えた。
ここから僕の歩みが始まっていくんだと、胸が躍った。
まずは掃除と引越し作業だ。
同居人の彼女がいなくなった部屋に住まわせてもらうことになっていたから、片付けをする。1LDKの部屋には彼女のものがなくなった痕跡がたくさんあった。彼女が持ち帰ったものの中には、カトラリー類が綺麗に一人分消えていたり、ゴミ箱も一個だけ残されてあったりと、優しさが垣間見え、なにやら想像するだけでドラマができるくらいの人間性が見えた気がした。彼女は僕と同じホテルで働く上での先輩になるから今後会うのが楽しみになった。
そんなこんなで引っ越し作業が終わり、まずは周辺探索だと思い、札幌からわざわざ持ってきたチャリ男くんにまたがり颯爽と外へ出ていった。
住んでいるところの近くには海岸線がずっと走っている。今まで札幌にいる時も福島にいる時も海の近くに住む経験がほぼなかった僕にとって水平線から覗く太陽、さざなみの音、砂浜を踏み締める音、カモメの鳴き声、車の走る音でさえも未知のモノに触れるように全てが新鮮で新しいものに感じたーーー。
ホテルでの勤務は11月22日からはじまる。それまでに免許を取らなきゃいけないというミッションがあった。小さな頃から車好きな友達が近くにずっといたからか浅い知識と興味だけはずっとあった。いつもはゲーセンで運転している車を実際に動かせる時が来たという期待でウキウキしながら入校した。
そんな思いとは裏腹に実際に運転を始めるとゲームでは当たり前にぶつけていた車だけど、ぶつかることの怖さを覚え、ものすごく緊張しながら運転していた。いくら言葉で『リラックス』とかけられても、言葉でわかっていても脳が緊張を解かない。ホラーゲームさながらビビりながら運転していた僕の車は側から見たらナメクジのように見えていたことだろう。
オンラインの授業で学科の授業を受けつつ技能試験の練習のため毎日乗り続けた。学校での対面授業しか受けたことがない僕にとってオンライン授業はとても新鮮だった。授業の動画を流しているスマホのカメラは常に起動しており、1分に一回写真が撮られる。それを確認して受けているかどうか確認するらしい。それを聞いて、身なりも整えて、綺麗に映るように角度を調節したりとプリクラを撮る前のjkのような振る舞いをしていた。授業の動画自体はバラエティ番組を模した形で進行していったからすごく見やすかった。だからこそ気が緩まないようしっかりノートを取った。
そして、最初の目標である仮免試験の日がやってきた。組んだ日程的に全て一発で合格していかなきゃいけなかった僕は問題文の一文字一文字を注視し間違いがないか、言葉の意味は合っているかなど細心の注意を払いながら解いた。
結果は合格。無事に路上教習へと踏み出した。
路上に出た後も全く函館の道がわからない僕にとって路上は魔界だった。さながら草むらから飛び出してくるモンスターのように人は飛び出してくるし、当たり前のように歩道から車ははみ出てくるし、曲がった先の行き先がどっちにいけばわからない道もあるしで頭の中はてんやわんや。小さい頃から見ていた『運転』がこんなにも難しいとは思わなかった。
そして、技能試験本番。正直技能試験は受かる気がしなかった。自分の中でやっちまったと思うところで試験管の先生が紙にチェックをしていた。それが何回か行われた後で試験管がその紙を膝の上に下ろしたからだ。受からなかった場合再試験するために2日間は必要だった。出勤の日にちが差し迫っていたからそんなことはしていられないと考えていた僕の気持ちなんか知りもせず、受験番号掲示板の僕の番号のランプが光った。
無事に合格しほっとしたけど、本免の学科試験は住所を移していなかったから札幌で受ける手筈になっていたからバスの予約だったり勉強で合格の余韻に浸る暇はなかった。
その日のうちに札幌に移動し、次の日に本免の学科試験を受験した。住所変更等もまだ済ませていなかった私は、ここで落ちたら札幌にもう何泊かしなきゃいけないし、住所変更したら函館で受け直すしかないし手続大変だし、出勤に間に合わないなどと考えながら合格発表まで身を削るような思いでいた。
合格発表掲示板の前で手を合わせて願っていたのは僕だけだった。心臓の音も他の人に聞こえるんじゃないかと思うくらいに脈打っていた。自分の受験番号があった時は、崩れ落ちそうになったのを我慢して小さくガッツポーズした。
前回は合格した嬉しさに浸る時間はなかったが、今回はホテルの出勤日まで時間があるので嬉しさを同居人と共有した。
合格した喜びを感じたのも束の間次はホテルでの勤務が待っていた。
ホテルでの勤務はビュフェ形式のレストランの朝食を担当する。正直サブリーダーという役職は僕には勿体無い。今まで働いてきたホテルで一二を争うくらい教育が行き届いてるのを働いて感じた。それと比べると僕は支配人が全くいないホテルで僕より上の立場の人が社長しかいない状態でホテルを運営しなくてはいけない状況で死に物狂いでやってきた経験があるためすごく恵まれてるし、育ちやすい環境だなと感じた。そんな中二つの宿題がレストラン支配人からでた。
一つ目は『食器・グラス・シルバー類はどのような過程を得て発注されているでしょうか
文章の中に必ず数字を入れて説明してください
また 何故破損表が存在するのか、破損表の使用目的も併せて記入してください。』
二つ目は『新メニュー開示からPOP作成までどのような手順があるのでしょう
以下の余白に手順を記入してみてください。
また、必要な事前準備はどのようなことでしょうか』
という問いだった。それも次の出勤日即ち次の日までにまとめるものだった。入ったばかりで何もわからないが、今まで経験したホテルの知識で今の自分が描ける精一杯を提出した。
すると、レストランの支配人からものすごく褒められ、僕の教育に力を入れてくれるとお話があった。
僕は今まであまり褒められることが少ない人生を歩んできたからかすごく自信に繋がった。
少し時は遡り免許合格した日。
一つ目標を達成した僕は、次の目標を定めようと思い、あらかじめ函館に来たらやりたかったことを見つめ直したーーーーー。
『僕は地域貢献のできる人間になりたい』
そう思い、地域おこし協力隊など探していたのも記憶に新しい。小さな変化を見つけそれを写真に収めたり、Instagramで投稿を本格的にやり出そうと思ったのもその時だった。
そんな思いにふけっているときに出会ったのが、『函館発信チャンネル』通称『ハコチャ』である。函館の魅力をSNSで発信していて、演者の方々も楽しそうに活動しているのを拝見して、これだ!と思いすぐさまチャンネル概要欄に飛ぶと『Gスクエア』という施設で活動していることがわかった。
そこは市が運営している交流施設でいろんな事業に携わっていた。特に僕が感銘を受けたのは『each』という高校生が1から100までデザインや記事を書く
まさに自分が思い描いていた未来に当てはまっていた。すぐさまメールを送りボランティアでもいいから何かお手伝いしたい旨を伝えた。
すると返事はあってお話ししたいとのことだったのですぐに予約を取り付けてセンター長の岡本さんとお話をさせていただいた。
センター長の岡本さんは本当に熱量があって、言葉一つ一つに熱がこもっていて聞いてる方も感情が乗ってしまうような方だった。
こんな人になりたい、こうありたいを体現したような人だった。
そんな方が何もスキルのない僕にいろんな提案をしてくださり、来週から動き出そうとしている。
振り返るとこの1ヶ月でいろんなことがあったなと感じたけれど、まだこれは『高木拓人』という人生の第一歩に過ぎない。これからどう歩いていくかはまだわからないけど、ゆっくり一歩ずつでも前に進めたらいいな。