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留学先で挑んだ Problem-based Learning プロジェクトを振り返って

本記事は「留学 Advent Calendar 2024」の19日目に寄稿しています。

私は5年半ほどの日本の電力業界での就労経験を経て、2024年秋からデンマークにあるオールボー大学のエネルギー工学院(AAU Energy)の修士課程に入学しました。
今回は留学先の特色ある授業「Problem-based Learning Project」をご紹介しつつ、振り返りを書こうと思います。

英語でグループワークする奮闘の様子から、留学のイメージを少しでも掴んでもらえたなら幸いです。



オールボー大学の目玉授業「PBL」

オールボー大学の学部・修士課程はかなり特殊なカリキュラムで、1セメスター「3 Courses + 1 Project」という構成になっています。
Course は一般的な授業、Project は Problem-based Learning (PBL:問題解決型学習)を指しています。

オールボー大学は PBL によるグループワークを学びの中心に据えたカリキュラムを長らく運営していて、AAU式PBLという学びの方法を体系化してきました。
学生のコミュニケーション能力や協調性を高めることと、社会の問題解決に必要となるスキル習得のサポートを目的としている、とのこと。

The Aalborg model assumes that students learn best when applying theory and research based knowledge in their work with an authentic problem. At the same time, the model supports students in the development of their communication and cooperation competences, and in acquiring the skills required when taking an analytical and result-oriented approach.

Problem Based Learning (PBL) at Aalborg University
https://prod-aaudxp-cms-001-app.azurewebsites.net/media/mmmjbthi/pbl-aalborg-model_uk.pdf

AAU Energy 修士課程の PBL Project では、平たく言うと「学生でグループを組んで一緒に1つのテーマを研究する」という取り組みをします。

Curriculum for the Master of Science Programme in Energy Engineering, 2024 より
Electric Power Systems and High Voltage Engineering の1-2学期目のカリキュラム
「Project」は PBL を指しています
https://studieordninger.aau.dk/2024/47/5084 

Project の評価は、研究論文の提出と、試験官による口頭試問(4時間)となっています。
奇数セメスターの Project では上記に加えて、学内カンファレンスでポスター+プレゼン発表をする機会があります。

AAU式PBLについてもう少し詳しく知りたいという方は、北欧研究所の安岡さんの記事を読んでみてください。

今回の PBL Project

さて、修士課程1学期目のPBLについて、わたしは『地方のエネルギー柔軟性(Local Energy Flexibility)に向けた Grid Readiness の推定』というテーマで研究に取り組みました。

テーマ決めは教授陣、ポスドクの方が提出した候補から選ぶ、という方式です。同テーマを提出してくれた准教授とポスドクの先生がわたしたちのプロジェクトの指導教官になってくれました。

Grid Readiness とは、新しい技術(電気自動車など)が将来電力系統につながることに対する電力系統側の準備具合、を問う概念です。

研究内容としては、系統解析シミュレーションソフト PowerFactory を活用して、デンマークの一地域を再現した配電系統(150/60/10/0.4kV)モデルを構築し、系統フロー解析を行いました。

さらに「2023年時点の系統モデル(現モデル)」と「数年後の電力需要・供給シナリオを反映した系統モデル(将来シナリオ)」を作成し、系統電圧や負荷率の変化などから、将来シナリオに対する現モデルの Grid Readiness を評価しました。

デンマークは、2050年に向けて今後電力需要が大幅に増加する見通しを持っています。仮にそのシナリオ通りに推移した際に、地域の配電系統へどのように影響が及ぶのか、把握することは安定供給の観点で非常に重要です。

わたしの視点では、日本の配電網向けにも、分散型エネルギー資源の影響を評価することに本研究を役立てることができるかなと考えています。

グループメンバー

この Problem に立ち向かったグループメンバーについて。
同じテーマに興味をもった「電力システム・高電圧工学コース」で専攻を共にする同級生5人とグループを組むことになりました。デンマーク人・ポルトガル人・スペイン人と私という構成です。

グループメンバーには作業部屋が割り当てられます。このメンバーとはPBL Project だけではなく、Course授業の課題を一緒に解いたりなど、基本的にずっと行動をともにします。
おかげでとても仲良くなりました😃

語学について、全員が英語を第二言語としているので、私の拙い英語にも耳を傾けてくれて非常にありがたいです。(全員とても英語は達者です)

彼らは学部までに全員系統解析などの講義も受講済みで、
この領域の知識が自習レベルにしかないわたしは、彼らの学部生時代の講義資料を読んで知識をつけながら、何とかくらいついていくスタンスをとりました。

将来シナリオの系統シミュレーションを終えて、結果についてあーだこーだ議論するのはとても楽しかったです。

PBL におけるストレッチゾーン

今回のプロジェクトでわたしにとってストレッチゾーンになったのは
「議論を通じた認識合わせ」と「共著の論文作成」でした。

株式会社アルー: コンフォートゾーンとは?より概略図
https://service.alue.co.jp/blog/comfort-zone 

議論を通じた認識合わせ

グループワークをする以上、議論を通じた認識合わせは避けては通れません。日本語ではそれなりにできることも、英語だとそもそも聞き取れなかったり、意味を汲み取れなかったり、ということが多分に発生します。

日本でも何方かと言えば内向的な性格であったわたしにとって、この議論に入り主張をすることは、かなりチャレンジングなことでした。
これは、いまもチャレンジしている最中です。

意識したこととして、議事録や論文に気づいたことや意見をコメントとして残しておくことで、意見を拾ってもらう機会を作るようにしました。
認識合わせの起点を自分で起こす作戦。

共著の論文作成

プロジェクトの成果物として「本文50ページ以内の、必要に応じて付録をつけた論文」の提出が必要でした。

グループメンバーで分担して書いて、クロスレビューしながら仕上げていきました。そして、主にわたしのパートの文章添削をたくさんしてもらいました。。

裏を返せば、みんなのライティングを学べるかなりわたし得な状況だったのですが、時間がタイトになってきた中で添削にメンバーの時間を割いてしまう場面もあり、かなり申し訳なさがありました。

それでもプロジェクトでは
「手が空いたときには積極的に担当をもってドラフトを書く」を徹底していました。

品質が低くても早く叩き台を作ってみせることで、議論を進展させたり、理想の文章との差分が明らかになって、物事が進むと思っているからです。
これは社会人になって身につけたムーブです。わたしのプライドよりも物事を進めるほうが重要。

そんな中で、自分の叩きとして書いた考察を本文に採用してもらったのは嬉しかったです。

深夜に根詰めて論文を仕上げるわたしたち

ということをしながら、論文提出締め切り当日の朝5時に本文49ページ+付録30ページの論文を仕上げることができました。
まさかデンマークで徹夜することになるとは思わず、ハードワークをしてくれたメンバーに感謝。。。

PBL Conference

この研究プロジェクトの区切りとして、学内カンファレンスで研究発表する機会がありました。せっかくなので、発表パートを分けてもらいました。

発表10分、質問5分という形。
タイトな発表時間を守るべくメモを読みながらの発表になってしまいましたが、なかなかに満足のいく発表をすることができました。

PBLの研究発表カンファレンス(学内)で発表するわたしたち

そしてこのカンファレンスでは、みんなで深夜まで根詰めて作ったポスターで表彰をいただくことができました…!このポスターもわたしが叩き台を作って、みんなでボコボコにしたやつです。

AAU Energy 修士課程の全26グループのポスターの中からの選出なので、かなりすごい!本当にメンバーに恵まれたなと思います。

Best poster award! やってやりました

10月ごろにあった出身国紹介ポスターパーティ(交流イベント)でも1位をもらったので、これで AAU Energy 内のカンファレンス2冠です。
一部友人からは「ポスターマスター」と呼ばれています。おいしいね。

年明けには、プロジェクトの提出論文に対する4時間の口頭試問と、Coursesの期末テストが控えています。
口頭試問のリスニングとスピーキングに不安が残りますが、想定質問リストを用意してなんとか乗り越えようと思います。

ストレッチゾーン、伸び代ですねぇ

初のPBLプロジェクト、当初の想像以上に満足感を覚えています。

研究テーマが面白かったこと、メンバーに恵まれたこと、表彰いただいたことももちろんあるのですが、
それ以上に自分をストレッチゾーンに置けたこと、その状況を少しずつよくしていけたと実感していること、が大きな要因かなと考えています。

学部生時代に1学期だけ敢行したアメリカ交換留学は、現地学生の英語の速さと主張の強さに圧倒されました。
そのときはグループ課題に十分に貢献できなかった挫折を味わうだけで、リベンジする前に帰国となってしまいました。

留学はボコボコになるチャンス、と認識して挑む今回は、自分の状況を理解しながら、適度にストレッサーを楽しめています。

初留学にこれから望みたいという方に1つ言葉を残しておくと、
留学に挫折はつきもの、当たり前のことなので、ストレッチゾーンを楽しむぐらいの心境で過ごすと、心穏やかに過ごせると思います。

今後についてですが、
この研究をもう少し進展させて学会発表まで持っていけないか、指導教官と相談してみる予定です😌

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takuroumi
いただきましたサポートは、のちの投稿内容となる、デンマークや欧州でのエネルギー工学の学びや体験に活用させていただきます。