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日本銀行が進める中央銀行デジタル通貨(CBDC)パイロット実験の詳細解説


はじめに

日本銀行は2024年4月、中央銀行デジタル通貨(CBDC)のパイロット実験に関する進捗を発表しました。2020年から始まったこの取り組みは、デジタル通貨の発行を通じた金融の安定性・利便性の向上を目的としています。今回のパイロット実験は「実験用システムの構築と検証」と「CBDCフォーラム」の2つの柱を中心に進行しています。この記事では、各ワーキンググループ(WG)ごとに議論されている具体的な内容や、実験用システムの設計概要、今後の展望について詳しく解説します。


実験用システムの構築と検証

実験用システムは、中央銀行のCBDCシステムからエンドユーザーのデバイス(スマートフォンアプリ等)までの接続を実現するために構築されています。システム設計の要点として、口座型データモデルの採用や、仲介機関の顧客管理システムとの役割分担が挙げられます。これにより、各顧客のCBDC残高や決済情報が確実に管理されるようになり、将来的な商業化に向けて複雑な台帳設計が導入されています。

特に重視されているのは、プライバシー保護とシステムの柔軟性です。仲介機関で個人情報を管理する部分と、決済台帳を管理する部分を分離してシステムを構築することで、データ保護が確保されています。また、CBDC口座のオートスウィング(口座残高が一定以上に達した場合の自動移動)やオートチャージ(不足分を自動補充)など、利用者が便利に使える機能が備えられています。

さらに、実験用システムには、送金や受入、還収、予約送金機能、逆引送金(送金先が送金元からの資金受取を事前に承認する仕組み)なども含まれ、従来の概念実証を超えた高負荷環境での実用的なシステム検証が行われています。


CBDCフォーラムの活動と各ワーキンググループ(WG)

CBDCフォーラムでは、金融機関やIT企業、フィンテック企業など多様な企業が集い、CBDCに関する議論が5つのワーキンググループ(WG)で進められています。以下では、それぞれのWGが扱うテーマと議論内容の詳細を紹介します。

1. WG1:CBDCシステムと外部インフラ・システム等との接続

WG1では、CBDCシステムが金融機関の勘定系システムなどの既存外部インフラとどのように接続されるかが議論されています。銀行預金との即時交換を想定し、特にスループット(秒間処理件数)やレイテンシ(遅延)を意識したシステム設計が求められています。中央銀行と仲介機関が効率的に接続するための中継システムの必要性についても検討され、安定的な接続方式の確立が目指されています。

2. WG2:追加サービスとCBDCエコシステム

WG2は、CBDCのエコシステム構築と、サービス開発者向けのAPI標準化に焦点を当てています。ここでは、CBDCが商業利用される場合に追加されるサービスの種類や、APIやSDK(ソフトウェア開発キット)を通じた柔軟な連携について議論されています。特に、APIの仕様統一とUX(ユーザーエクスペリエンス)の最適化が重視されており、今後、ユーザーがCBDCを快適に利用できるエコシステムが形成されることが期待されます。

3. WG3:KYCとユーザー認証・認可

安全な決済サービスの基盤として、WG3ではKYC(本人確認)や認証・認可に関する議論が進行しています。AML(マネーロンダリング防止)やCFT(テロ資金供与防止)対策も含まれており、リスクの度合いに応じたKYCの強度や、ユーザーの範囲(国内外居住者等)によって異なる本人確認書類の要件について検討が行われています。ユニバーサルアクセスを意識し、すべてのユーザーが安全かつ簡便に利用できる設計が重要視されています。

4. WG4:新たなテクノロジーとCBDC

WG4は、技術革新がCBDCシステムに与える影響を考察しています。UTXO(未使用取引出力)モデルなどの新しいデータモデルや、分散型台帳技術(DLT)との相互運用性について議論が行われています。これにより、システムの並列処理性やデータ更新の効率が高められ、将来の技術環境を想定した柔軟な設計が検討されています。

5. WG5:ユーザーデバイスとUI/UX

WG5は、CBDCのUI/UX(ユーザーインターフェースとユーザーエクスペリエンス)およびエンドポイントデバイスに焦点を当てています。ユーザーのITリテラシーや環境に配慮し、広範なユーザー層が利用できるように工夫がなされる予定です。オフラインでも使用できる機能や、災害時の利用可能性が検討され、アクセス性と利便性を高めたデバイス環境の提供が目指されています。


今後の展望

今後、日本銀行は実証実験やフォーラムでの議論結果を踏まえ、実験用システムの改善や新たな技術要件を定義していきます。新たに設置されるWGでは、電子マネーや現金との交換の仕組みについても検討が進められる予定です。CBDCが実現した場合、日本の金融インフラは大きな変革を迎え、利便性の高いデジタル決済手段として日常生活に浸透していくでしょう。

CBDC導入の決定は、今後の国民的な議論を待つ必要がありますが、日本銀行の実験が示すように、CBDCは未来の金融システムを支える可能性を秘めています。

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