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みんなが知らない核融合実験炉 ITERの世界


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核融合エネルギーは、将来のクリーンエネルギーとして期待されていますが、その技術と実現には多くの謎と挑戦が存在します。本記事では、世界最大級の核融合実験プロジェクトである「ITER」の詳細について、核融合の基礎からプロジェクトの背景、日本の貢献まで、徹底的に解説していきます。

核融合とは何か?

核融合の原理

核融合とは、2つの軽い原子核が結びついて重い原子核を形成する過程で、大量のエネルギーを放出する反応です。太陽や他の恒星はこのプロセスを利用してエネルギーを生み出しており、これを地球上で再現することができれば、膨大なエネルギーを得ることができます。核分裂と異なり、核融合は放射性廃棄物の問題が少なく、持続可能なエネルギー供給源として期待されています。

核融合と核分裂の違い

核融合と核分裂は同じ「核エネルギー」を利用しますが、その仕組みは異なります。核分裂は重い原子核が分裂する際にエネルギーを放出しますが、核融合は軽い原子核(例えば水素)が結びつくことでエネルギーを放出します。核融合は理論上、エネルギー効率が高く、燃料として水素の同位体(重水素や三重水素)を用いるため、地球上で豊富に入手可能です。

ITERプロジェクトとは?

ITERの目的

ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)は、核融合エネルギーを実用化するための技術的課題を解決し、将来の商業用核融合炉の基盤を築くことを目的とした国際プロジェクトです。ITERは「イーター」と発音し、「道」を意味するラテン語でもあります。このプロジェクトは、核融合エネルギーを地球規模で実現するための「道」を切り開くことを目指しています。

プロジェクトの背景と参加国

ITERプロジェクトは、1980年代にアメリカとソ連の提案から始まり、冷戦終結後の1990年代に具体化されました。参加国には日本、アメリカ、EU、中国、インド、ロシア、韓国が含まれ、各国が技術と資金を提供しながら協力しています。南フランスのカダラッシュに建設されているITERの研究施設は、国際協力の象徴ともいえる場所です。

ITERのキー技術

トカマク型磁場閉じ込め装置

ITERの中心的な技術は「トカマク」と呼ばれる装置です。トカマクは、ドーナツ型の構造を持ち、プラズマを強力な磁場で閉じ込める装置です。プラズマは数億度に達する超高温状態で、通常の物質の容器では閉じ込められないため、強力な磁場を使って壁から浮かせて保持します。ITERのトカマクは、世界最大規模のもので、これにより高温のプラズマを長時間安定的に維持することを目指しています。

超伝導コイルと磁場制御

ITERの磁場を生成するためには、超伝導コイルが用いられます。超伝導とは、特定の温度以下で電気抵抗がゼロになる現象で、この特性を利用して効率的に強力な磁場を生成できます。ITERでは、強力な磁場を発生させるために「トロイダルフィールドコイル」や「ポロイダルフィールドコイル」といった複数の超伝導コイルが使われています。これにより、プラズマを安定して制御し、長時間の核融合反応を維持することが可能になります。

プラズマ加熱技術

ITERでは、核融合を起こすためにプラズマを1億度以上に加熱する必要があります。これを実現するために、以下の技術が用いられます:

  • 中性粒子ビーム加熱: 高速の中性粒子をプラズマに打ち込み、その運動エネルギーでプラズマを加熱します。

  • 高周波加熱: 特定の周波数の電波を使ってプラズマ中の粒子を加熱し、エネルギーを与えます。これにより、プラズマ温度を急激に上昇させることができます。

プラズマの安定化と制御

プラズマは非常に不安定な状態であり、長時間にわたって核融合を持続させるためには、プラズマの形状や位置を精密に制御する必要があります。ITERでは、リアルタイムでプラズマの状態を監視し、制御するために高度な計測技術とフィードバックシステムが導入されています。

日本の貢献

高精度な超伝導コイルの製造

日本はITERプロジェクトにおいて、トカマクの心臓部ともいえる超伝導コイルの製造を担っています。特に、9メートルを超える巨大なトロイダルフィールドコイルの製造において、日本の精密加工技術が不可欠です。このコイルは、ITER全体の磁場制御において非常に重要であり、その精度がプラズマの安定性を左右します。

リチウムセラミックス技術による三重水素生成

核融合反応には三重水素(トリチウム)が必要ですが、自然界に存在する量はごくわずかです。日本は、リチウムを利用して三重水素を生成するための「リチウムセラミックス技術」を提供しています。この技術により、ITER内で三重水素を効率的に生成し、核融合反応を安定的に行うことが可能となります。

プラズマ計測技術と制御技術

日本の先端的なプラズマ計測技術もITERの成功に貢献しています。高温プラズマの状態をリアルタイムで計測することで、反応の進行状況を監視し、必要に応じて制御を行うことができます。これにより、プラズマの暴走や不安定な状態を防ぎ、安定した核融合運転を実現します。

ITERプロジェクトの規模と進捗

巨大な建設プロジェクト

ITERの建設は、南フランスのカダラッシュにある東京ドーム約60個分の広さを持つ施設で行われています。建設には数十年を要しており、2007年の工事開始から現在まで続いています。2025年には最初のプラズマ生成が予定されており、2035年にはフルパワーでの運転開始が目指されています。

総建設費と資金分担

ITERの総建設費は約200億ユーロ(約2.6兆円)と見積もられており、参加国がそれぞれ資金を分担しています。日本は全体の約10%を負担しており、技術提供と部品製造を通じて大きく貢献しています。日本国内の企業や研究機関も多数参加しており、日本の技術力が世界に貢献していることがわかります。

国際協力の象徴

ITERプロジェクトは、冷戦後の国際協力の象徴ともいえます。異なる政治体制や文化背景を持つ国々が、核融合という共通の目標に向かって協力する姿勢は、技術的な挑戦にとどまらず、国際関係における新たな可能性を示しています。特に、日本のような技術大国が中心となって貢献することで、世界が一つの目標に向かうことの意義が示されています。

ITERの課題と未来

技術的な課題

ITERプロジェクトが直面

する主な技術的課題としては、以下が挙げられます:

  • 長時間のプラズマ安定維持: 1億度を超えるプラズマを長時間にわたって安定させることは、未だに困難です。小さな不安定性でも装置に大きな影響を及ぼすため、精密な制御が求められます。

  • 三重水素の供給と管理: 三重水素は放射性物質であり、その管理と供給は厳重に行う必要があります。ITERでは、リチウムを用いた三重水素の生成技術が進められていますが、商業化に向けた課題も多いです。

商業用核融合炉への道

ITERはあくまで「実験炉」であり、商業用の核融合炉ではありません。しかし、ITERで得られたデータと技術を基に、次世代の核融合炉「DEMO」が開発される予定です。DEMOは2030年代に設計が進み、2040年代には商業運転を目指しています。成功すれば、核融合エネルギーが世界中に普及し、クリーンで無尽蔵なエネルギー源となる可能性があります。

まとめ

核融合エネルギーは未来のエネルギー問題を解決する鍵を握っていますが、その実現には未だ多くの技術的課題が残っています。ITERプロジェクトは、その挑戦に挑み続ける大規模な国際協力の象徴であり、日本の技術がその成功に大きく寄与していることも注目に値します。私たちは、ITERが開く未来のエネルギーの可能性に期待しつつ、その歩みを見守っていくべきでしょう。

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