「自由な女神」はエッジを歩く(Juice=Juice初見感想)
初めてのJuice=Juice単独
10月8日座間公演にて、初めてJuice=Juiceのコンサートに行ってきました。これまでアンジュルムのコンサートにしか行ったことがなかったのですが「今のJuice=Juiceを観ておいた方がいいのではないか」という感覚があり、アンジュルムと同日のチケットが取れたので参戦してきました。
結果、本当に観に行ってよかった。アンジュルムだけではわからなかったたくさんのことを受け取り、自分が培ってきた演劇の要素とも重なる部分が多くありました。
そこで「演劇人からみたハロー!プロジェクト」第3弾としてJuice=Juice、とりわけリーダー植村あかりさんについて書いてみようと思います。
今回のテーマは「不安定を歓迎する」です。
……ということで書き始めたのですが、先に断っておかなければならないことがあります。僕は植村あかりさんに敗北しました。お手上げです。
いくら演劇の理論に当てはめて解釈してみたところで、自分の解釈に合わせて植村さんを歪めてしまっていることに気づきました。考えれば考えるほど植村さんのことがわからなくなりこのnoteをお蔵入りにしようかと思ったのですが、せっかくなので自分の苦悩をそのまま残しておくことにしました。
この文章は「植村さんと今のJuice=Juiceについて解説しようとしたけどいくら理屈をこねても捉えることができず白旗をあげた記録」として読んでいただけると幸いです。
演劇人からみたハロー!プロジェクト第1弾
第2弾
「自由な女神」がすごかった
Juice=Juice座間公演の一幕にこんなことがありました。
とある曲で植村あかりさんが思いっきり歌割を飛ばし、段原さんが植村さんを責めるように(もちろん笑顔で)指さしながら近づいていくと植村さんは悪びれることなくその指にかみつこうとしていて、あまりに良いシーンで会場全体が暖かい空気に包まれました。植村さんは後のMCでそのことについて触れ「新メンバーが曲中にわちゃわちゃしている姿をみて、馴染んだんだなぁとジーンとしていたら歌割飛ばしました」と弁明していました。
また、以下のようなツイートもあり、植村さんの自由さが随所で光っているようです。
(余談ですが植村さんは同じ公演で「急に寒くなってきて秋を感じますね」と言った2分後に「私は秋をまったく感じていない」とも発言していて戦慄しました)
「自由な女神」とは元メンバー稲場愛香さんによってつけられた植村さんの二つ名です。本当に的確で、稲場さんの言語感覚の鋭さに舌を巻く限りです
が、そもそも舞台上で自由になるのはとても難しいことです。詳しくは過去記事で解説しているので第1弾・第2弾を参照していただきたいのですが、簡単にいえば仲間とお客さんを信頼し、お互いに肯定しあえる環境がなければ自分の心をさらけ出すことはできません。Juice=Juiceメンバーとファンの間にはこの信頼関係があり、だからこそ植村さんは舞台上で自由でいられるんだと思います。
ただ、植村さんに関しては本当に無邪気というか何も持たずに舞台上にただ存在しているような、そんな風に見える瞬間がありました。たとえば、アンジュルムリーダー竹内朱莉さんも舞台上で飾らずにいることができる素晴らしいパフォーマーだと思いますが、竹内さんからはあくまで「外に向けて発信している」意識を感じます。植村さんはそれすら曖昧で、自分が舞台にいるのか、何をしているのか、どういう流れなのかをすべて捨て去っているんじゃないかと感じました。
手放すことの難しさ
否定的なニュアンスに聞こえるかもしれませんが、これは本当にすごいことです。だって怖いじゃないですか。舞台上は何かを表現するための場所なのに、何も持たず表現せずただ一人の人間としてそこに立つなんて想像しただけで恐ろしい。特に役者をやったことがある人ならその怖さを十分に理解できるんじゃないかと思います。
役者の理想像は「稽古を繰り返し体に叩き込み、本番ではそれを捨てる」ことだといわれます。機械的に稽古を繰り返すだけでは活きた表現にならないので、本番では役としてその場にただ居て反応するだけ。その結果、稽古でしみ込んだ表現があらわれる、ということです。
でも人間そう上手くはいきません。たくさんの期待の目にさらされる舞台上ではかっこよくいたいし、失敗したくない。多くの段取りやセリフがあればなおさらです。積み重ねてきたものを手放すということは失敗するかもしれないリスクを許容することでもあります。
冒頭で紹介した植村さんが歌割を飛ばした場面、植村さんはいろいろなことを手放し、その瞬間の新メンバーたちを本当にただ感慨深く見つめていて、結果ミスにつながったのだと思います。当然、歌割を飛ばしたりセリフを忘れたりすることは良いことではありません。しかし失敗を許容しなければ成長もなく、新しい表現も生まれてこないのです。大切なのは失敗を許容できるコミュニティを作ること。植村さんの歌詞飛ばしでも、段原さんがそれを柔らかく指摘し、お客さんもふくめてみんなで笑うその場所があってこそです。この安心感ある空間作りはアンジュルムにも言えることですし、過去記事に書いた「Yes and」が関わってくる部分です。そしてその空間を作ることができればもうそこに「失敗」は存在しなくなります。
植村さんは10月9日(上記公演の翌日)のブログでそのことに触れていて、理屈では知らなくても感覚的に体得しているんだと納得しました。
※ちなみに稽古を手放して表現すると突拍子もないものが生まれることもあります。そんな表現のことを「#しおんぬ大暴れ」と呼びます。
不安定を歓迎する
「稽古を重ね堅実な表現を身に着け、それをいつでも捨てられる」という矛盾した不安定な状態こそが舞台上でもっとも理想的です。リーダーである植村さんが自ら積極的に不安定なエッジの上に立ち、時には転げ落ちそうになり、後輩たちがハラハラしながら支え笑いあっている、そんなチームが今のJuice=Juiceなのではないかと感じました。
「ハラハラする」というのは舞台芸術の根源的な楽しみのひとつです。空中ブランコや綱渡りを固唾を呑んで見守るような、そんな楽しさ。お客さんは、自ら不安定を歓迎して飛び込んでいく人のことが大好きです。その勇気を愛し、拍手を送るのです。
そしてもうひとつ。「不安定を歓迎する」ことは後輩からはやりづらいところがあります。それは上記にあるとおり失敗する可能性を内包しているからです。その点、リーダーが自ら実践してくれれば「感じたとおりに表現していいんだよ」「失敗してもみんながフォローするから」というポジティブなメッセージとして後輩に伝わり、ありのままで飾らない魅力的な表現が生まれるのだと思います。
そして敗北
……ここまで書いたところで僕は悩み始めました。「この文章はJuice=Juiceと植村あかりさんの魅力を伝えられているのか?」と。最初に書いたとおり、これは敗北の記録なのです。
第一弾、第二弾の記事を書いたときにはある程度の確信があり、アンジュルムの魅力の一端を多少なりとも文章化できていると自負したのですが、今回はまったくそうは思えていません。ひとつには、まだ僕がJuice=Juiceのことを調べ切れていないということがあります。コンサートも1度だけですし(だからタイトルに「初見感想」という言い訳をつけました)メンバーは全員分かっていますがパーソナルな部分の掘り下げができていません。解像度の低さは否めないと思います。
ただそれ以上に植村あかりさんという人物の深さに圧倒されているというのが正直なところです。どこまで確信的に行動しているのか、何を考えているのか、どういう人なのか、どこまで考えても自分の常識を超えているように思えてきました。この記事を書き始めたのは10月9日なのですが、それから一か月以上ああでもないこうでもないと理屈をこねくりまわし、書いては消してを繰り返し悩みました。しかしどう表現しても植村さんの魅力や今のJuice=Juiceの凄さを取りこぼしてしまい、ひいては矮小化してしまうような気がしているのです。
この文章よりも実物のJuice=Juiceはもっとパワフルで、正体不明の魅力にあふれている!僕が見たものをそのまま文章にできる才能があればいいのに!
悩んだ末、僕は白旗をあげました。いまの僕の中にJuice=Juiceを適切に語る言葉は無い。潔く諦めて10月9日に書いた最初の文章をそのまま載せることにしました。
この文章をお蔵入りにしようかと悩んだもうひとつの理由は、構成上、植村さんの歌詞飛ばしにフォーカスしてしまったことです。念のため書き添えておきますが、パフォーマンスのクオリティは本当に素晴らしかった。そのうえでの話だということはご理解ください。
まとまっていない駄文をお読みいただきありがとうございました。恥を忍んでこのnoteを公開したのは、どんなわずかなきっかけでもいいから今のJuice=Juiceを観てほしいという気持ちからです。幸運なことに、11月29日(火)に日本武道館公演があり、さらに幸運なことにまだチケットが取れるようです。(11/28追記)メンバーのコロナウイルス感染により武道館公演の中止が発表されました。
いままで以上にJuice=Juiceを追いかけていつかリベンジしたいと思います。
そして僕には手に負えなかったJuice=Juiceと植村さんの魅力を、どなたかぜひ解説よろしくお願いいたします……
強くなって振替公演(2/20追記)
2023年2月28日に武道館の振り替え公演が実施されます。
本来の武道館公演であった昨年11月29日からの3ヵ月、Juice=Juiceは多くの経験を重ねてきました。BEYOOOOONDSとの2マンライブツアーで全国をまわり、COUNTDOWN JAPANで外部フェスを経験し、52OSAKA ~Girls Castle~で大阪城ホールを沸かせました。
まだ経験が浅いメンバーが多くいるグループにとってこの3ヵ月はとてつもなく大きいはずで、2月28日の武道館公演では、昨年よりも大きく成長を遂げた新生Juice=Juiceの姿を見られると確信しています。
コロナウイルス感染での公演中止というトラブルをも追い風に変えてしまうJuice=Juiceというグループを、ぜひ多くに人に見てもらいたいと思っています。
信じられないことにまだ各プレイガイドにてチケットが取れます。この機会を逃す手はありません!
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