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HARF Project 6/13・27 稽古備忘録 お客さんのために

3ヵ月の基礎トレーニング期間もまもなく終了します。サポート講師としてお手伝いさせていただいた僕のトレーニングは6/27で終了。これからは本番に向けて台本稽古に入っていきます。
6/13の稽古後に僕が体調を崩してしまったので2回分まとめての振り返りをしていこうと思います。


6/13 テーマ「失敗を歓迎する=助けてもらう勇気」

Yes,andワークショップでも繰り返し話している内容ですが、とにかく失敗を恐れずにトレーニングすることがとても大切です。失敗を恐れているとチャレンジしなくなるし、思い切った表現が生まれてこなくなります。でも現代社会で生きていると「失敗してはいけない」という呪いが強くなりすぎてどうしても思いきれない。だからトレーニングでは「失敗を歓迎する」という言葉を掲げてどんどん失敗を促します。

トレーニング① ナンバーラインしりとりバージョン

リズムに合わせてみんなでしりとりをやっていきます。リズムが入ることで言葉がなかなか出てこなくなります。言葉をうまく言えなかったりリズムから外れてしまったら「間違えた!」と大きな声で宣言します。すかさず他のメンバーは「OK!」「おめでとう!」など肯定の言葉とアクションを贈ります。こうして失敗を歓迎する感覚を身体にしみ込ませていきます。

トレーニング② ワンショット

まずセリフを一つ決め、ターゲットがそのセリフを言えたらクリア、というゲーム。しかしターゲットはそのセリフを知らず、しかも一言しかしゃべってはいけない。チャンスは一度、一言だけ。だから周りの人がシーンを積み重ねてターゲットからそのセリフが自然に出てくるように積み重ねなければならない。ターゲットは当然なにも知らないわけなので、周りの人から情報をもらわなければセリフは言えないわけです。どんどん積極的に仲間に頼り助けてもらう。そしてその結果としてのセリフを失敗を恐れずに発する。
こういったトレーニングはどうしてもクイズっぽくなってしまうんですが、それでは意味がない。結局セリフは当たらなくても構わないのです。お互いに助け合いながら失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を体感してもらいたい。

6/13のトレーニングでは劇団員も何人か参加してくれて懐かしい雰囲気に包まれました。やっぱりみんな面白かったなあ。参加者のみなさんも普段とは違うメンバーでトレーニングできて新鮮だったんじゃないかと思います。


6/27  テーマ「お客さんのために何度も家に帰る」

僕の最後のトレーニングということで総まとめの回。目的と方法の再確認。
我々がなんでこんなトレーニングをやっているのか。それはすべてお客さんのため。舞台芸術はお客さんがいなければ存在できない芸術であり、お客さんに喜んでもらえなければ意味がない。「お客さんのため」という最終目的を絶対に忘れないようにしたい。
そしてお客さんに喜んでもらうための方法論を我々はすでに持っています。それは天然工房の演技法Nシステムの基礎「エネルギーを出す」「いっしょになる」「相手のために」という3要素。もうこれだけでいいんです。これを全力でやっていればそれ以外何も必要ないのです。とてもシンプル。でもなかなかそうもいかない。自分をカッコよく見せたいとか、失敗したくないとか、こんなことやってて何の意味があるんだろうとか、様々な思考によって我々はシンプルになれないんです。だから何度でも家に帰る。「エネルギーを出す」「いっしょになる」「相手のために」という3要素に何度でも立ち返り、何度でも再確認する。それはたぶん何十年役者をやっていてもずっと変わらないことなんだと思います。

トレーニング① 自由ボックス

Nシステムの基本トレーニング・自由ボックス。自由であるがゆえに難しいけど、でもそれも本当にはシンプル。上の3要素だけを持って自由にボックスを踏む。

トレーニング② マリオネット(ニューチョイス)

二人組になり、一人がセリフをしゃべりもう一人が動く。そして物語のタイトルが与えられて(例:「靴がたくさん降ってきた!」など)みている人は「その展開イヤだ」と思ったら「NO!」と叫ぶ。NOと言われた演者は展開を変えなければならない。「マリオネット」というトレーニングと「ニューチョイス」というトレーニングを組み合わせたもの。
お客さんのために演技をする感覚を養うのが目的だけど、お客さんもNOを突き付ける勇気が必要なので結構大変。
「靴がたくさん降ってきた!」というタイトルでスタートしたとき「朝起きた。なんの変哲もない日だった」というセリフからはじまった瞬間、僕は「NO」と言いました。何か起こってほしい。せっかくの物語なんだから何の変哲もない日ではない一日にしてほしかった。
どうしても役者は安定を取りたくなります。しっかり地盤を固めて一歩一歩踏みしめて物語を創りたくなる。でもそれは自分のため。失敗したくない、変なお話にしたくない、カッコよく見せたい……など。そんなことよりお客さんは「靴がたくさん降ってくる」ことを期待している。役者のこだわりなんてお客さんには関係なくて、とにかく面白いものが見たいんだと思います。
……この辺の話はすごく長くなりそうなのでやめておきます。また別記事でまとめるかもしれません。

トレーニング③ 意外な結末

これは以前にもやったトレーニングですが、「お客さんのために」を意識するのに持ってこいなので最後にもう一度。
最終的にお客さんが「意外だ!」と思う結末を作らなけらばならないのですが、やってみるとシーンがなかなか終わらない。意外な結末をつけるのが難しいから誰も責任を取ろうとしなくなるのです。でもお客さんのためにはお話を終わらせなければならない。最終的に意外な結末になったとしても、そこに至るまでにダラダラ責任回避のお芝居を見せられてもつまらないわけです。
お客さんのために「意外な結末にする」、お客さんのために「お話を終わらせる」。意外にするには積み重ねが必要だけど、積み重ねすぎても飽きてしまう。多くの意識のせめぎ合いが起こるこのトレーニングは本当に有意義だと思います。(まあ僕が考えたトレーニングなんですけどね!自慢)


というわけで隔週のトレーニングが終了しました。感想としては、楽しかったけど難しかった。そしてとても勉強になった。
参加者の4名も頑張って稽古についてきてくれて本当に嬉しかったし、4月の稽古当初に比べてとんでもなくエネルギーが出るようになっていました。みんなすごいよ、本当に。
演劇のトレーニングってどうしても抽象的になるというか、感覚とか意識の話になりがちなのでそれをどう伝えればいいのか苦労しました。できるだけ具体的にした方がいいとは思いつつ、自分の中でもぼんやりした感覚しかないものも多いので伝えられたかどうか……。特に「エネルギーを出す」「いっしょになる」「相手のために」という3要素は実際の演劇公演において体感してきた部分が大きくて、それを稽古だけで伝えるのは至難の業だと感じました。
でもこのHALF Projectの良いところは最後に演劇公演がついてくること。稽古で学んだことを本番にぶつけると多くの発見があると思います。台本稽古になるとまた大変なこともあると思うけど、お客さんのことを忘れずに楽しんで欲しいと思います。
僕も一人のお客さんとして本番を楽しみにしています!

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