審査請求や訴訟を想定した情報公開請求に対する決定のあり方について その2(情報公開請求等の受付窓口担当だったときに考えていたこと その8)

文書の特定と決定書の記載について

 開示請求があった場合、行政機関は、開示請求書の「請求する開示を求める行政文書の名称等」欄(開示してほしい情報の記載された行政文書を特定することができる事柄を記載する欄のことです。以下「請求対象文書欄」といいます。国の機関の場合の請求書ではこのような記載になっていますが、地方自治体等では欄の名称が違っていることがあります。)に記載された内容から、行政文書を特定して、開示・不開示の判断をします。
 このときに、例えば、「令和5年5月の○○部○○係の出勤簿(同係の職員全員のもの)」という記載であれば、実際の行政文書の名称がこの記載と違っていたとしても、記載内容からどのような文書が欲しいかは明瞭なので、文書の特定は比較的容易といえるでしょう。
 一方で、例えば、「○○部が所管する法令に関して発した行政指導に関する文書の一切」のような記載だと、該当する行政文書や行政文書ファイルが複数あるということも想定されますし、行政文書の保存や廃棄を定めた規程に従って廃棄済みとなった文書も対象になるようにも読めてしまうなど、文書の特定という意味では「特定するに足りる情報」として不十分という判断にもなりえます。(このような場合、仮に特定できたとしても、開示・不開示の判断対象の文書が膨大な量になり、開示・不開示の判断に通常よりも時間がかかるということも想定されます。)
 このような場合の受付窓口担当者のとるべき対応は、前の記事で記載していますので、改めてご確認いただければと思います。

 少し補足しますと、行政機関情報公開法に基づく情報公開請求の場合、開示請求1件ごとに開示手数料が必要となるので、開示請求書が1通であっても、請求対象文書欄に記載された内容からすれば、複数の行政文書の開示を請求していて、これらの行政文書が1つの行政文書ファイルにまとまっているとか相互に密接関連している(行政機関情報公開法施行令13条2項参照。)とはいえず、1件の請求とは扱えないという場合には、1通の開示請求書で複数の請求が記載されていると扱うことになり、手数料もそれだけの分を納める必要があります。手数料が納付されない場合、納付された件数分だけ開示・不開示の判断を行い、不足している分については請求を拒否する(一般に「請求却下」とも言われます。行政手続法7条では「拒否」という用語になっています。)ことになります。地方自治体等では開示請求に手数料が不要なので、その意味では問題ないようにも思われますが、行政処分の個数(これは訴訟における訴訟物の個数にもなります)という側面からみれば、やはり1通の請求書であっても複数の請求がなされていると扱い、請求ごとに開示・不開示の決定を分けて行うべきであろうと思います。

 話を戻します。上記のように、1つの開示請求で、複数の文書が開示・不開示の対象になるということがありますので、当該開示請求書で開示を求められた文書であって行政機関が特定したものについては、特定した全ての文書の名称を開示(不開示)決定通知書に明瞭に記載すべきでしょう。この特定の過程について記録を残して説明できるようにしておくべきということについては、前の記事で記載していますから、こちらも合わせて確認してください。

開示・不開示決定の記載について

 ここで、開示(不開示)決定通知書の記載について、消費者庁で情報公開担当課長補佐として情報公開に携わり、また、現在弁護士として地方自治体からのご相談等に対応しているなかで考えたことを記します。

 現在の開示(不開示)決定通知書の記載は、実際の文書を見ていない請求者からすると、開示(不開示)決定に関する情報が十分伝わるような記載になっていないように感じます。
 通知書を受領した人からすれば、実際の文書を見ていないので、「不開示情報は○○、○○は××なので不開示情報を定めた行政機関情報公開法5条〇号に該当する(地方自治体の場合、情報公開条例〇条〇号に該当する)」と開示(不開示)決定通知書に記載されていても、その文書が全体で何ページあり、不開示とされた情報は何ページ目に記載されているのか、そのページは全部が不開示なのか、その一部が不開示なのかということは全くわかりません。
 私の経験からしますと、例えば、個人の氏名や住所が、対象となる行政文書の複数個所に記載されている場合でも、不開示とした部分の記載としては「個人の氏名及び住所」、理由は「生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別できるものであって、開示する例外に該当しない」というような感じで、一括りにされていることが多いです。
 この場合、当該文書の氏名や住所を記載する欄であればともかく、いわゆる地の文のところに氏名や住所の記載があってそこが不開示とされている場合であって、氏名や住所のほかにも不開示情報となるものがあってそれも黒塗りとされていると、地の文で黒塗りになっているのは、個人の氏名及び住所なのか、そのほかの不開示情報なのかは、黒塗りになった文書の開示を受けても分からないということになってしまいます。
 開示請求をした人からすれば、個人の氏名や住所は開示してもらわなくても良いけど、例えば、それ以外の行政の活動に関する情報は開示してほしいと思っても、黒塗りの箇所が何の理由で不開示なのかがわからず、とにかく不開示決定を争わざるを得ないという状況にもなりかねません。
 また、訴訟や審査請求において、裁判所や審査会などに対して、この不開示とした部分は、どういう理由で、法令に定めるどの不開示情報に該当するからだ、ということを説明していくわけですが、開示・不開示の判断をした人が訴訟や審査請求での説明を担当できるならともかく、別の人が説明する文を書くとなると、なかなか大変な作業になってきます。
 こういう点から、実際の開示(不開示)決定通知書に付属させるかどうかは別としても、何ページの何行目のどこの黒塗りは、どういうことが書いてあるのか、不開示情報を定める条文のどれに該当するのか、該当する理由は何かということを整理しておくことをおすすめします。(なお、この整理のときに、「どういうことが書いてあるのか」ということを記載するにあたって、不開示とした情報をそのまま引用してしまうと、仮にこの整理した文書が世に出た場合、不開示情報を開示するのと同じ効果が生じてしまいますから、そのままを書くのではなく、ある程度抽象化して記載する必要があります。)
 そして、できるならば、この整理したものを開示(不開示)決定通知書に落とし込むようにするのが良いというのが、これまでの私の経験からの意見です。


 開示(不開示)決定の実務に携わる方からすれば、期間制限もある中で、こんなに細やかな対応をするのは難しい、というのが正直な感想ではないかと思います。
 判断対象となる文書が多くて作業が大変ということもあるでしょうし、多くのケースで、開示(不開示)決定の最初の判断を行うのは、現場で他の業務を行っている部署の担当者なので、他の業務がある中で開示(不開示)の判断を、しかも、相当な速度で行い、かつ、それが法的に正しくなければならない、というのはなかなか大変であろうと思います。
 行政機関の法務・訟務を担当する部署、場合によっては顧問弁護士と連携・相談しながら対応していただくのが良いと思いますが、相談するための資料作りに時間をかけて、対応のための時間が削られては元も子もありませんから、とにかくスケジュール管理をしっかりして、よりよい決定ができるように頑張っていただきたいと思います。