Vol.1 「ベトナム縦断旅!?」
「タクローさん、臭すぎます!」
あべじゅんは深さ約2mはあるであろう肥溜めに落ちた僕に向かい、そう一言だけ吐き捨てるように言うと、助ける素振りを微塵にもみせずただ一人去っていった。
肥溜めに捨てられた男、タクロー。ここまで来ると涙の一つもでず、ただただ笑けてしかこない。
謎の町「ニンビン」のほどよいネオンの明かりが僕を照らす。そして、どれだけ今の僕の状況が酷いのかということを確認すると、一段とニオイがきつい、お気に入りのマルボーロを一服し心を落ち着かせる。
「ベトナムまできて何してんだろうおれ?」
そう思うと、あのときこの旅をしようと約束したことを、後悔せずにはいられなかった。
就職活動を終えたのはいいが、わりかし単位が残っていることに焦り、必死に大教室の前に座り授業に取り組んでいた2019年11月の秋。僕はいつも通り、別府の温泉ガスによって色が剥げまくった愛車「ボルティー」を運転し、大学へと向かっていた。
到着し時間を確認すると、授業まで残り10分。今日は小テストの日のため、急ぎ足で教室へ向かう。
キャンパス中央にある噴水に差し掛かろうとしたときだ。
「Excuse me, May I ask you a question?」
その声が急ぐ僕の足を止める。体験授業か何かで地元の小学生がキャンパスに来て、留学生に英語で質問をするということがここではよくあることなのだが、かれこれ僕は10回は留学生に間違えられていた。
またこいつら間違えやがってと一瞬イラッとしながらも、全力の作り笑顔で
「I’m Japanese 」
と言い、川崎ムネリン顔負けの神対応をしてやる。
小学生なりの嫌味なのだろう。後ろから、Thank youという声が極端に大きい声で聞こえてきたが、そんなのはガン無視だ。小テストがあるので急がねば。
教室に着くと、今まで一回も授業でみたことがないレアキャラ集団が、完全に後ろの席をぶんどっていた。見た目+態度諸々はチカーノそのもの。これも小テストがあるときや、中間・期末テストシーズンによくみられる光景である。まあどこの大学もそうだと思うが。
仕方がないため、完全にガラパゴス化現象に陥っている前方付近に腰を掛け、テスト勉強をしながら教授の到着を待つ。
待つこと10分。教授がやや遅れて複数人のTA(ティーチングアシスタント)と共に教室へ入ってきた。いつもは威厳など毛頭ない教授も、テストの時となると複数人のTAを従えて教室に入ってくるため、やたらとその時だけ威厳があるようにみえる。財前五郎も嫉妬するだろうな。
その後問題用紙が配られ、軽く教授から説明があり試験が始まった。
開始から1時間後。今回は割と勉強していたおかげかスムーズに問題を解くことができたため、一度解答用紙を隈なくチェックし、早めに教室からでる。
予想以上に早く試験問題を解き終えたため、教室から出て何をしようかなと考えていると、上から何か冷たい液体が自分の頭に落ちてきていることを感じた。
これはもしかして、、、やつのよだれ、、?
ロン・ウィーズリーが賢者の石の番犬、「フラッフィー」恐る恐る見上げたかのように上をみてみると、そこには僕の予想通り、唾を口横にこれでもかというくらい溜めて、不気味な笑みを浮かべるオオハシがいた。
彼はこの物語のメインキャラの一人のため、億劫ではあるが、ここで簡単に紹介させて頂く。
名前:オオハシ
性別:男
年齢:24歳(2019年時点)
特徴:ホームベースのような顔
趣味:登山
特技:無茶をすること
「何してんの今?暇ならカフェテリア行こうぜ?」
正直彼とカフェテリアに行くのは憚られたが、腹も減っていたし、なにより、よだれをずっと上から垂らさられるのはごめんだたったため、しょうがないが一緒に行くことにした。
ベトナム行っちゃう?
カフェテリアに行くまでに、記念すべき通算11回目となる小学生からの声掛けをくらったため、イライラしながらカフェテリアの蕎麦を食らう。
「なにイライラしてんすかーー。俺の唐揚げあげますから、機嫌直してくださいよ!え?唐揚げだけじゃ足りない?!そんな事言わないでくださいよー。俺今日持ち金残り250円なんすよー、、」
こいつ何に金使ってんだよ。残り250円って、今どきの小学生でもありえねーぞ。こみ上げてくる笑いを抑えながら、更に彼を困らせるために色々と無理難題を注文する。あべじゅん、申し訳ないな。
ここで、あべじゅんの紹介をさせて頂く。彼は冒頭にもある通り、最愛の先輩が肥溜めに落ちたときにでも助けない、夜神月のような冷酷な心の持ち主のため、できるなら紹介したくないがこれも物語のためだ。我慢せねば。
名前:あべじゅん
性別:不明
年齢:22歳(2019年時点)
特徴:別府のババコンガと称されるほどの毛量
趣味:風俗嬢の日記観察
特技:支釣込足
すっかり困り果てたあべじゅんは、真っ白の灰になり、リング片隅に笑いながら座っていた。
食事をしてから、特に話をすることがないため各々で携帯をいじり始める。たまにこういうカップルをジョイフルでみかけると、さっさと帰れやと!!叫びたくなったものだ。付き合い方は人それぞれなので、僕がとやかく言う必要などないのだが。
「そういやさ、タクロー卒業旅行どうすんの?なんか決めてる?」
卒業旅行か。ちょっと早いけど、もうそんなこと考える時期か。ただ今の取得単位の状況を考えるとな、、そう思うと僕の首は自然に横を振っていた。
「あっ、考えてないんだ!じゃあさ、卒業旅行「ベトナム縦断旅」しない?めちゃくちゃ面白そうでしょ?」
「べ・ト・ナ・ム縦断旅行?!」
3限目の開始を知らせるために設定した、携帯のアラームが鳴リ響く。だが僕は、携帯を叩き潰し、3限の授業をサボることに決め、オオハシのロマンあふれる話「ベトナム縦断旅」の話を聞くことにしたのであった。
隣であべじゅんは、授業行きましょーと嘆いていたが、、、、
次回「コロナだけど、どうする?」に続く
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