ViVi名物企画「国宝級イケメンランキング」はどう生まれたか? 立案した講談社・平本哲也さんの企画術【女性誌のTAKURAMI】
可愛いだけじゃなくて、面白くて役に立つ。Z世代に大人気の女性誌メディア『ViVi』。
Webサイトほか、YouTubeやTikTok、Twitter、LINE、Instagramなどで日々、雑誌と連動させた企画を発信し、SNS総フォロワー数は“国内女性誌NO.1”の700万人超え。
ViViはどのようにして若い世代から支持を得ているんだろう?
テレビや海外のニュースでも話題になる看板企画「国宝級イケメンランキング」を企画した平本哲也さんに取材し、平本さんの企画の考え方から、ViViがZ世代に圧倒的に支持される理由を探りました。
企画することを、「自己満足、傲慢な気持ちを捨てて、多くの人に役立つ楽しいものをつくること」と語る平本さん。
世の中の多くの人に届くものをつくるために、平本さんが必要な力として挙げたのは、「自己満足、傲慢にならないこと」と「いいものをつくるために粘る姿勢」でした。
仕事として企画する上での「自己満じゃないか」の視点
──ViViが圧倒的に支持される理由を平本さん企画の考え方から探っていきたいのですが、「国宝級イケメンランキング」の立案者で、NET ViVi編集長でもある平本さんにとって「企画」とはどんなことを考えたり、実行したりすることでしょうか?
企画とは編集者にとって「淡々とやるべき当たり前の仕事」という考えなのですが、その上で僕にとっての企画とは、自己満じゃなく、多くの人に役立つ楽しいものをつくることかなと思います。
世の中にあることのすべては企画から生まれていて、サプライズの誕生日会も飲み会も、広義で言えば企画ですよね。ですが「仕事としての企画」となると、「身内での企画」とは違った視点が必要になると思っています。
それが、「自己満になっていないか」と疑う視点ではないかなと。全国の人や世界中の人が見るものに対しては、それだけの責任が発生すると思うんです。普段から「本当にみんながそれを知る必要があるのか?」と考えるようにしています。
──「自己満じゃなく、多くの人に役立つ楽しいもの」って一体、どんなものでしょうか?
例えば、ViViの可愛い世界観を好きでいてくれる読者の方々はたくさんいますが、世の中の需要や流れを無視して、ViViが頑なに信じる「可愛い」をつくり続けるのは自己満だと思うんです。そういったマインドで企画をつくると、ViViのことをまだよく知らない人たちには届きませんよね。
もちろん、限られた人にわかってもらえればいいという考え方もあると思いますが、ViViはメジャーな媒体です。多くの人が可愛いと感じたり、面白い、役に立つと思えるコンテンツをつくらないといけないと思っています。
そのためにViViは、Instagramをリニューアルした5年ほど前に、SNSの投稿内容を一から見直しました。従来のように撮影のオフショットだけを載せるのではなく、「ヘアメイクの方が本当に愛用する新作リップ企画」など、ViVi以外の興味関心ごとが入り口になるコンテンツづくりに力を入れてきたんです。
「Z世代のエンパワーメント企画」も、多くの人に役立つ楽しいものをつくることを目指した企画です。
女性誌の企画はファッションやビューティーが中心になりがちですが、日々いろんなことが起こる中で自分を救ってくれるものって、それだけじゃない。ViViのデジタルでは「社会に出たときに自分の助けとなり、それによって日々を楽しめるようになるものをつくりたい」という想いから、ジェンダーやヘルスケア、ハラスメントなどを取り上げるエンパワーメント企画に力を入れています。
3月には国際女性デー(3月8日)を記念して、YouTube動画や記事でジェンダーや人権について学ぶ機会をつくりました。まだまだ手探りな部分も多いのですが、世間の需要に合わせて新しい企画に挑戦することが何より大切だと思っています。
「国宝級イケメンランキング」から紐解く、企画成功に必要な「粘る力」
──Webサイト・NET ViViのアンケートから好きな俳優やアーティストに投票して、「NOW部門」や「NEXT部門」など各部門の1位を決める「国宝級イケメンランキング」は、ViVi以外の入り口から興味関心を引く企画の代表例だと思います。
ありがたいことに、2016年に第1回を実施したときからどんどん注目していただき、広告やテレビ、映画業界から「キャスティングの参考にしている」という声もいただいています。
──それはすごいですね。Twitterでも頻繁にトレンド入りするこの企画の発案は平本さんだそうですが、どういった発想から生まれたのですか?
国宝級イケメンランキングは、「日本の多様なイケメン文化にフォーカスした企画をしたい」という思いから生まれた企画なんです。
発想の根本には学生時代のオランダ留学中に感じたことがあります。オランダは社会政策を始め、いろんな面でリベラルと言われているけれど、美の基準に関しては白人至上主義がまだ根強く残っている。そう感じたときに、「日本ってどうだっけ?」と考えてみると、背が高い人から低い人、ワイルド系からソフト系まで、じつは幅広いタイプの人が“イケメン”と認められていることに気づいたんです。「イケメンへの寛容さは日本の宝」という気づきから、「国宝級」というワードが生まれました。
編集部でのプラン会議でも反応がよくて、企画が通るかもという手応えもありました。その一方で、当時はここまで大きな反応をもらえるとはまったく思っていませんでしたね。
──第1回から1万票を集めたこともすごいことだと思いますが、その後にどんどん投票者が増えて最新の2022年の下半期は57万票。ここまで大きな反響を呼ぶプロジェクトになれた理由をどのように分析しますか?
投票してくれる方にどこまで伝わっているのかはわからないけれど、あらゆるところで手を抜かずにいいものをつくろうと粘り続けてきたことが、絶対に企画の良し悪しに影響していると思っています。
国宝級イケメンランキングではランクインした方のインタビュー記事を掲載しているのですが、第1回目でNOW部門1位に選ばれた山﨑賢人さんが多忙すぎて、インタビューも撮影も実施できない可能性があったんです。
事務所から提供いただく山﨑さんの宣材写真やメールでのアンケート取材でつくることもできるのですが、それではあまりに味気ないですよね。なので、各所に交渉して写真は少しでも自然なカットが載っている写真集から使わせていただき、取材も無理を言ってご本人に電話で対応いただきました。
僕は、いい企画にするためには「粘る力」がとても大切だと思っています。撮影ひとつとっても「予定通りにいいカットが撮れた、よかったね」と簡単に終わったものって、たいていよくないんですよね。
もっとメイクをこうした方がいいな、この背景なら衣装を変えたほうがいいなとか、もっと企画がよくなる余地があるなら、現場を止めてでも、周りに嫌な顔をされてでもいいからと粘る勇気が必要。そうやっていいものがつくれた方が、結局、周りの人たちも喜んでくれたりするものです。
身近にある“本当のこと”から関連づけてみて
──企画を立て、成功に導くために、「自己満じゃないか」「粘れているか」と問い続けることが大切。その上で、企画のファーストステップとも言えるアイデア発想についても、お勧めする考え方があれば教えてください。
企画のネタって案外、身近なところに転がっているものです。ひとりの人から話を聞くだけでも、いろんな情報を受け取れる。企画を考えるとなると、つい難しく考えて、自分から遠いネタから無理に引っ張ってしまいがちですが、もっと「自分ごと」でいいと思っています。
例えば、大学生から「カラーマスカラが流行っている」という情報を受け取ったときに、なんで流行っているんだろう?と考える。そうすると、「ほかの人には変化が見えにくいカラーマスカラが好きってことは、他人目線よりも自分がメイクを楽しむことに意識が向いているんだな」「劇的に顔が変わるアイテムではないから、大胆なイメチェンよりも垢抜けしたいんだろうな」など、いろんなことが見えてきます。
このように、その情報の奥にあるものを、ちょっとズラして企画することがViViでは多いですね。カラーマスカラから「自分に意識が向いている」ということがわかったら、それを類語辞典のように関連させて、「ボディメイクの企画」をやってみるとか。
──身近な情報の“奥”にあるものへ関心を持つことが、企画の第一歩なのかもしれないですね。
そうですね。情報を見たまま、聞いたまま享受するのではなくて、「なんでこの人はそれをやっているんだろう?」「なんでそう考えるんだろう?」とちょっと疑問に思ってみることが大切だと思います。人って、本当のことをすぐに言ったり、見せたりしないものですから。
──情報の奥にある本当のことを探すのは自己満にならないためにも大切なことで、ViViは多くの人に届く雑誌であり続けるためにその努力を続けているんだなと思いました。最後に、NET ViVi編集長としての今後の展望を聞かせてください。
Z世代全体をエンパワーメントする企画をもっとやっていきたいですね。ViViのデジタルは、「知識を持って、みんなで楽しい人生を送ろう」という気持ちで日々コンテンツをつくっています。国際女性デーの企画は大きなステップアップでしたが、これに満足せずに、ViViのエンパワーメント企画をブラッシュアップしていきたいです。
■プロフィール
平本哲也
NET ViVi編集長。新卒で講談社に入社し、『FRIDAY』で編集者としてのキャリアをスタート。『週刊現代』を経たのち、2015年に『ViVi』編集部へ配属。オリジナルコンテンツのほかメンズを起用したタイアップ企画なども手がけ、2022年からNET ViViの編集長となる。
取材・文:小山内彩希
編集:くいしん
撮影:飯本貴子