【総評】企画とは誰もが面白がるものをつくること。「『走れメロス×〇〇』で斬新な商品を企んでください」──作家・菊池良さん
今回の講師は、こんなお題を出してくれていた、作家の菊池良さん。
菊池さんはこれまで、文豪たちの文体を模写してカップ麺の作り方だけを描く『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)や、
2022年10月に発売された最新作、世界文学の登場人物をネコに置き換えた『ニャタレー夫人の恋人』(幻冬舎)など、
ユニークな切り口から、文学の世界へと誘う書籍を手がけてきました。
「みんなが知っている普遍的なものから企画する」「イメージと離れたもの同士を掛け合わせてギャップを生む」ということを大切にしている菊池さん。そんな菊池さんが古典文学という普遍的な題材から設定したお題が、「『走れメロス×〇〇』で斬新な商品を企んでください」でした。
今回は、学生から集まった回答の中から菊池さんに寸評していただき、さらに後半のインタビューでは、菊池さんが企画する上で大切にすることも教えてもらいました。
走れメロス×〇〇の回答と寸評
「テキスト自体がCMの字コンテのようで、わかりやすく映像も浮かぶアイデアですね。おそらく回答者はオチとして『走れメロス×髪用ワックス』の言葉を最後に持ってきているけれど、じつはオチってこれで終わりですよっていう合図なだけ。あまり重要じゃないので、もっと最初にアイデアが伝わる内容を持ってくるとよりよい企画になるかもしれません」(菊池さん)
「たとえば『◯キロ走ったらセリヌンティウスが助かるミニゲームがあるシェアサイクリング』のように、もっとシェアサイクリング自体に、走れメロスのストーリーやキャラクターと絡ませてサービスの部分を説明したいなと思いました。走れメロスなのに走らない、というアイデア自体はいいなと感じています」(菊池さん)
「こちらもタイムリミットに間に合わせるための具体的なアイデアを、もう少し掘り下げたら面白いなと思いました。たとえば、王様が罵倒してくるとか、タイムリミットまであと何時間と表示されるとか。いいなと感じるポイントは、走れメロスのストーリーとしっかり絡めたアイデアになっているところですね」(菊池さん)
「これはつまり、トイレットペーパーの紙にメロスのストーリーが印刷されているということですよね。トイレットペーパーというのは誰でも知っている普遍性あるものですし、走れメロスとの掛け合わせは、一見まったく関係なさそうなものに見えて、紙が引っ張られる動作が『走る』動きと連携していてつながりをつくれていて、ギャップも生まれる。とてもいい企画だなと思います」(菊池さん)
「メロスが深刻な状態のときに旅行をしているという設定が面白いですし、3日縛りの旅行本というのも実用性があっていいんじゃないでしょうか。旅行本というワードはもうひとひねりできそうですね、たとえば『地球の歩き方』ではないですけれども、歩くというワードを掛け合わせてみるとギャップが生まれるかも」(菊池さん)
「こちらの回答もサービス自体と走れメロスのストーリーをもっと絡められたら、新しい面白さが生まれる気がしますね。サイトならたとえば、東京から3日で戻って来れる場所を紹介するとか。メロスを模してそういうことをやっているブログがあったら人気が出る気がします」(菊池さん)
みんなが面白がる企画をつくる、普遍性とギャップの生み出し方
──今回、学生にお題を出して回答の寸評もしてもらった菊池さんに、まずはご自身が企画することをどのように捉えているか伺いたいです。
僕にとっての企画とは、誰もが面白いと思うものをつくることです。面白いものってハードルが高そうだけど、友だちと話していて爆笑をとったことが人生で一度もないって人はじつはあんまりいないんじゃないかな?と思っていて。じつは誰でも、日常的に面白い何かを生み出していると思っています。それを小さい範囲でしか伝わらないものにせずに、どうやって不特定多数の関係性のない人にも面白いと思ってもらうか、そこを考えることが企画だと思います。
──菊池さんからは企画するヒントとして、お題発表記事で「普遍性」と「ギャップ」というワードを挙げてもらいました。このふたつはどういうことか、どういう考え方をすれば企画に盛り込むことができるのか、教えてください。
普遍性というのはみんなが知っていること。僕は企画するときいつも、この普遍性を考えることから始めます。みんなが知っていること、たとえばコンビニとか、ファミレスとか。そういったものから企画した方がみんなが面白がれるというのは、僕自身が仕事でWebメディアを運用していた中で得た気づきでした。
僕自身もそうだったのですけど、よく陥りがちなのが、マニアックなものを世に出すと珍しいからみんなが喜んでくれるという勘違いなんです。珍しいものを楽しむって結構ハードルが高くて、マニアックなものを出しても、マニアックなものが好きな人にしかウケないというのはよくあることですね。
──とはいえ、コンビニやファミレスなど普遍的なものをただ取り上げるだけでは、何か差別化するポイントがないと、もうすでに普遍的な価値として世の中に浸透しきっているものがあるからという理由で選ばれないような気もします。
そこで、みんなが知っているものと何を掛け合わせればいいんだろう?という視点が大切になってきます。僕は普遍と何かを掛け合わせるときに、そこにギャップが生まれるか?という視点を大切にしています。ギャップが生まれれば、ユニークで面白がられる企画になるんです。お題記事では、普遍性から企画するとき、「イメージと離れたもの」「一番逆のもの」と掛け合わせるとギャップが生まれるというヒントを出しました。
今回の回答だったら「走れメロス×トイレットペーパー」はギャップがあっていいなと思いました。トイレットペーパーは、走れメロスという古典文学として権威あるものと、トイレットペーパーという日常的なものという組み合わせがギャップを生んでいるなと。10月に発売された最新作『ニャタレー夫人の恋人』も、『チャタレイ夫人の恋人』というシリアスな内容の古典文学に猫を掛け合わせて、児童文学っぽい感じにするという形でギャップを狙っています。
──普遍的なものから企画するときに普遍の中に埋もれないように、掛け合わせるものでギャップを生むことが大切なんですね。
みんなが知っているという理由で流されないという視点では、「つかみ」も大切。これは今回の回答の「走れメロス×髪用ワックス」でコメントした「じつはオチってあまり重要じゃない」の話にも通じることです。つまり何を言いたいのかというと、企画を伝えるときには「とにかく出オチすること」、最初にインパクトを伝えることが大切なんです。出オチっていい印象がないと思うのですけど、消費が速くなっている時代性もあって、オチが先にないとそもそも企画が目に止まらない。音楽でも曲のイントロがどんどんなくなっている、冒頭からサビの曲が多いというような話を聞いたことがありますしね。
──自身6冊目となる『ニャタレー夫人の恋人』が刊行されたばかりですが、菊池さんが今後、企画していきたいことがあったら伺いたいです。
じつは去年、年間1000冊読書するということをやっていまして、今年も1000冊読もうとしています。今は、700冊くらいなのであと300冊がんばりたいですね。そこで得たものから来年は書籍の企画をしたいなと思っています。
──普遍性に気づいたりギャップを見つけたりするにおいても、やはり日頃から自分の中に知識や発見をストックしていくことが大切ということなのかなと思いました。
そうですね。たくさん映画を観たり本を読んだりしてみると違う作品の中でも何か共通点が見つかる。その共通点っていうのは、多くの人が面白いと思う普遍的な要素なので、とにかくたくさんの映画や本に触れてみることは大切だと思います。
あとは、企画するアドバイスとして伝えたいことは、とにかくリアクションを受け取ることですかね。自分のアイデアを友だちに話してみるとかブログに書いてみるとか、そうすることで、面白いものとつまらないものは反応がまったく違うということを知ることも、みんなが面白がるものを企画する第一歩として、やってみて損はないと思います。
■プロフィール
菊池良
1987年生まれ。作家。大学時代に公開した就活サイト「世界一即戦力な男」がインターネット上で話題となり、ドラマ化、書籍化がされる。株式会社LIGからヤフー株式会社を経て、編集者、ライターとして独立。共著に、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら 青のりMAX(ともに宝島社)』、単著に、『世界一即戦力な男――引きこもり・非モテ青年が音速で優良企業から内定をゲットした話(フォレスト出版)』『芥川賞ぜんぶ読む(宝島社)』などがある。最新作は、『ニャタレー夫人の恋人(幻冬舎)』。
取材・文:小山内彩希
編集:くいしん
撮影:石川優太