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「好きな映画」…。
「好きな映画を1本挙げるとしたら何ですか?」
巷の社畜が選ぶ「未来に残したい世の中の愚問ベスト100」の第8位に選ばれたと、もっぱら評判のこの愚問。
はたしてあなたなら、なんて答えますか?
私はその昔、映像系の専門学校に通っていた。
全国から集まった映画好きの猛者達が初めて顔を合わせる入学直後の4月。映画館すらない北海道の片田舎から出てきたまだかわいらしい青年の私に、その猛者達が、こちらの映画IQを探るが如く史上稀にみる愚問を浴びせ続けられる地獄のような1か月を経験をした。その頃の私は、純朴な若さの外側をなんびとからも舐められまいとする「必死のプライド」で固めており、精一杯の背伸びでヨーロッパ映画や香港ルノワールの作品名を口にしていたというとってもとっても「イタイ」記憶がある。
まあ、背伸びをしただけで嫌いな作品を挙げた訳でなく、もちろん嘘を言った訳でもないのだが、新しいクラスでのヒエラルキーを確保するため必死になって挙げていたその「作品達」のタイトルを今でもどこかで耳にすると、ほろ苦い香りと共にあの4月を思い出すのである。
折しも映画の世界にヒップホップというか、サンプリング手法を掲げて颯爽とタランティーノが登場したあの時代。
そうなると今度はクラスメイトと引用元の作品を知っているか、はたまた触れてるかのカルト勝負になり、足繫く駅前のレンタルビデオ屋に通う羽目になった一年でもあった。そしてそこのビデオショップのアダルトコーナーに「Jリーグ初得点」を記録したヴェルディのマイヤーのサインがあったのも良き思い出である。
あれから月日は随分とながれた。
もはやプライドはおろか、恥という言葉もお金ももちろんなく、おまけに社会生活でのヒエラルキーなんてとうに底を彷徨っている状態の私だが、今なら心から好きな映画を声高に言えちゃうようになったから時間というのは不思議な代物。その不思議な時間を扱った私の一番好きな映画の名は…
「バック・トゥ・ザ・フィーチャー」(監督/ロバート・ゼメキス/米国)
どうですか?
あの4月に、こんな映画を「一番好き」なんて口にしようもんなら、途端にクラスで嘲笑の対象に成り下がる超メジャーハリウッド作品なのだが
11歳の私がこの映画を初めて見た後の感激と興奮は40年近くが過ぎた今でも全く色褪せる事はないのである。伏線使い方、映画的なエモーション、キャラクターなど魅力をあげればキリがないが、この映画の持つ本当の魔法はそのストーリーである。
主人公の高校生マーティーが友人の科学者ドクの発明したタイムマシン <デロリアン>で意図せず30年前にタイムスリップしてしまう。そこで両親の恋に至る出会いを邪魔してしまい、なんとあろう事か母がマーティーに恋心を抱いてしまう。両親を本来の恋仲に戻し未来の自分を無事誕生させることと、尚且つその未来に無事マーティーが帰る事。
この両軸が見事に絡み合った魅惑のストーリーなのである。
当時、我家には父がどこで手に入れてきたのかこの作品のβ版ビデオの海賊版がありそれこそ繰り返し何度も観たのであった。
作品を観てセリフを覚え、カット割りを研究し、スケボー購入を検討し(残念ながら高額の為断念)、シナリオを文字起こしすることまで至ってしまった私はある事に気が付いた。それは禁断の遊び…。
この作品の持つ魅力あるストーリーの「フォーマット」を使って私自身がタイムスリップをして未来を”正常”な形に戻す「妄想の旅」の始まりなのである…。
まず私は映画のストーリーに沿い、自分が30年前に送り込まれ、若き両親との出会いを果たす。だが生粋の日本人の私と母とのラブストーリーは余りにもうす気味悪く、早々にこのタイムスリップの旅は終わりを告げる。
だが妄想のヒントを掴んだ私の次の旅は、氷室と布袋と出会いをアシストし伝説のロックバンドを誕生させることに成功。
旅はとどまる事を知らない。
かの永ちゃんに「成り上がり」という言葉を伝授したかとおもえば、わんぱく坊主の釜本少年に「これからは野球ではなくサッカー」と進言し、江川に「空白の一日」を耳打ちしたのも何を隠そう、私なのである。
まさに昭和現代史を縦横無尽に旅する私。
この妄想のタイムスリップの「ミソ」は、未来(現代)を決して「変えてはならない」という事。このハードルがなかなか難しくかつ楽しく、良くできたゲームである。
なのでレベッカの解散も、宇野内閣の史上最速退陣も防ぐ事が出来ず、三億円事件の阻止にも失敗したのであった。
だがこの妄想タイムスリップ。
副作用として中毒性が激しいのである。
充分に齢を重ねてからも「妄想デロリアン」からの降車を許してくれず
北海道コンサドーレ札幌のサッカークラブのサポーターになった
「現在でも」絶賛タイムスリップ中なのである。
自慢になるのは申し訳ないが、週末の開幕を控え続々と皆さんの手元に届いているユニフォーム。このユニが赤黒縦縞になった経緯は、コンサ設立時にタイムスリップした私の「センス」によるところが大きい。古くは石水勲少年に実家の石屋製菓に入社を勧め、岡田監督にジェフの「野々村選手」獲得の電話をさせ、まだJリーグもない時代のオノシンジ少年に「札幌はいいよー」と呪文のように唱えた私。私無くしては現在のコンサドーレが全く違った彩りをしていただろう。
そして…。
これからもこのタイムスリップを続くのである。
たとえばいつの日か、もうよれよれになったマーティーことワタクシが、
2025シーズンに颯爽と現れるかもしれない。
荒野の一発退場を防ぎ、深井の膝を守り、宮澤の引退を5年引き延ばす。
コンサドーレを無事J1に昇格させ、その数年後のコンサドーレのタイトルを
「現実通り」に達成させることができた時、私の長きにわたる妄想タイムスリップは終わるはず。そんな果てしない使命を成し遂げるために開幕直前の今宵も妄想の旅へ…。
いやはや開幕前に戦力分析やシーズン展望を期待してた方はごめんなさい。
こんなくだらなきNoteを覗いてしまった皆さんに、お詫びとして最後になりますが私の友人科学者ドクの言葉を。
「未来は君たち自身で作るんだ。すばらしいモノにしなきゃ。君たちサポーターの手で!」
さあ…マーティー。
待ちに待った、開幕だよ…。
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