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代行…。
退職代行という職業があるらしい。
なにやら本人に代わって会社に退職を申し出てくれるようだ。もっと早く知っていれば私の社畜人生も変わっていただろう。今頃沖縄キャンプを堪能して日焼けした顔をみてニヤついていたに違いない。しかし今まさに隣の部屋でなぜかaikoを熱唱する息子がカブトムシの成虫になる迄には社畜からの脱却はお預けなのである。
だとすればいっそのこと、社畜そのものの代行を頼んでしまうのはどうてあろう。出勤代行、ウオークイン補充代行、カツ丼作り代行、アルバイトのシフト作成代行、パートの主婦の方々の愚痴聞き代行、挟まったよれよれの千円札を朝の通勤で行列をなすお客様から罵声をあびながら取り除くレジ復旧代行。
しかしこれらを代行していただくには社畜の給与は薄給すぎる。しかし代行会社がタイムセールたるものがあるとしたら、ぜひともお願いしたい代行が私にはある。
荒野拓馬に私の気持ちを伝えていただきたい。
2025シーズン。北海道コンサドーレ札幌の新主将が発表された。
それはすなわち荒野拓馬がキャプテンでは無くなったという事でもある。
一年の短命政権であった。
そして近年では一番ほろ苦い味のするシーズンだった。その年に荒野が黄色い腕章を巻いていたという事も彼らしいというか、私が荒野を愛してしまう理由の一つのような気がする。
思い起こせば私の愛する荒野は昔から、いつも何かの”矢面”に立っている。
シュートを打てば宇宙開発と罵声をあび、チームがPKを献上しPKスポットの芝をめくっては非難をあび、時間稼ぎにと丁寧に靴紐を結んでは相手サポからブーイングをあびる。そんな彼には聖地厚別の風さえ滅多に無いヒーローインタビューを聞き取りにくくするくらいの強風をあびせる。そういう荒野拓馬を私はどの選手よりも好きだった。だが今季、荒野拓馬は敗戦後キャプテンマークを投げつけ長年彼を愛する私をもざわつかせた。
確かに。いわゆる優等生タイプのキャプテンではなかった。元来感情を積極的と思われる程、表に出すタイプである。うまくいかないシーズンには絶好の注目対象になってしまう。サポーターのフラストレーションの矛先は過剰に荒野に向いてしまった。荒野自身もそれを交わそうと器用な術など披露しない。”キャプテンとしては向いていない”と言われても仕方ないのかもしれない。
でも、それが”荒野拓馬”なんである。
彼は自ら進んで矢面に立つ男なのである。
キャプテンとして冷静にその場をまとめたりなんかしない。
波風立てることを得意のプレースタイルにしている。
利き足は「挑発」である。
それは彼自身に潜む負の感情や大事な仲間の弱い心を、時に覆い隠すように、時に優しく守り抜くために荒野拓馬はあえて感情をむぎだしにし、なんなら不敵な笑みを浮かべ、力の限り「強がる」のである。
そんな悪人ぶりに私はたまらなく惹かれてしまう。
荒野を見ていると私自身の弱さも吹き消してくれるのだ。
そう。荒野拓馬は優しき「悪人代行」なのである。
運悪くこの,noteを見てしまった皆さんにお願いがあります。
今シーズン、スタジアムで少しだけでいいので私の「お気持ち代行」になってください。
キャプテンから解放された荒野拓馬に大きな声援とそして悪いプレーにはブーイングを。
「荒野拓馬。つらいシーズンのキャプテンでいてくれてありがとう」という私の思いを込めて。
主将ではなくなったけど"普通の悪人代行"に戻った荒野拓馬は必ずやその声援とブーイングに応えて心熱きプレーや行動を見せてくれるでしょう。
そして私達にまた、不敵な笑みを浮かべてくれるのです…。
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