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スタートアップの不都合な真実
~“急成長”の裏で見えないプレッシャーと苦しみがある~
きらびやかなイメージの裏にある現実
ここ数年、「スタートアップ」という言葉が華々しく取り沙汰されてきました。SNSやメディアで取り上げられるのは、華麗なる大規模調達のニュースや、あっという間に時価総額数千億円を達成する“ユニコーン成功物語”。スタートアップこそが未来を変え、新しいイノベーションを連発しているかのような印象も。
もちろん、そこには夢と希望があって、実際に世の中を大きく動かす力を持つ企業も多数あります。ただ、その一方で、スタートアップの“実態”を深くみると、あまり語られない苦労や矛盾があったり。
本記事では、スタートアップにまつわる“不都合な真実”に焦点を当て、表面的なキラキラ感の陰で起きている問題を洗い出してみたいと思います。とはいえスタートアップをネガキャンする目的は全くなく、それを踏まえたうえで最後は個人的な想いをまとめてます。
大型調達が生む“過度なプレッシャー”
スタートアップといえば、数億円、数十億円もの資金を一気に調達し、猛スピードで事業を拡大していくイメージがあります。
確かにこの資金力によって、短期間で市場を席巻するチャンスが生まれますが、同時に“投資家の期待と要求”という重いプレッシャーも背負い込むことになります。
(なぜ?と思う方は投資家の収益モデルをしっかり理解するといいと思います)
急拡大のプレッシャー
多くの投資家は当然、高いリターンを求めてます(そうでない投資家ももちろんいます)。調達後には「いつまでにユーザーを何倍に?」または「いつIPO?」といった厳しい目標が突きつけられ、経営者とチームはその達成に追われる日々を過ごすことになります。このプレッシャーが、適切な意思決定をゆがめたり、サービスの質より「数字」優先の拡大を選択せざるを得ない状況を生むことにも‥‥。資金調達ラウンドの連鎖
X回目の調達でうまくいかなければ、さらに大きな額を集めようとする――スタートアップは往々にして、連続した資金調達ラウンドを繰り返します。ただ、そのたびにバリュエーションを上げなければならないため、現実を超えた成長ストーリーを投資家に提示するプレッシャーが膨れ上がる。もし目標を大幅に下回ったり、新しい資金が集まらなかったりすれば、次のラウンドで“ダウンラウンド”になってしまい、組織が一気に不安定化するというリスクが待っています。(強調してますが、調達できなくなって不安定になるのは組織です。)
“赤字覚悟”という言葉の裏側
スタートアップは「急成長」を目指すために、最初は赤字を出してでもユーザー拡大やシェア獲得を優先するスタンスが多いです(私が提唱しているソリッドベンチャーは真逆ですが)。確かに、それが一気に先行者メリットを得るうえでの合理的な戦略になる場合もあります。ただ、ここにも見過ごせない問題点があります。
“キャッシュバーン”に依存した事業運営
大規模調達ができた資金を広告費や人件費に大量に投下し、赤字を掘りながらトップライン(売上やユーザー数など)を伸ばすモデルが多い。ただ、これは資金が尽きる前に次のラウンドを成功させなければ即座に資金ショートという綱渡り状態でもあります。つまり銀行口座のキャッシュが日に日に目減りしていきます。従業員の過酷な働き方
赤字覚悟で“スピード”を最優先するスタートアップは、往々にして“24・365(24時間365日)"つまり徹夜や休日返上が当たり前の開発・営業チームになりがちです(そうでない全く逆の環境がスタートアップやソリッドベンチャーが当たり前なら微妙すぎますですが)。そして外部投資家に向いた短期KPIを達成しなければならなかったりして、激務やバーンアウトが起こりやすい環境になってたりします。夢を追って入社したメンバーが心身を疲弊させ、退職するケースも実際によく耳にする話だったりしませんか?ユーザー数至上主義の弊害
市場シェア拡大こそ全て、という考えが強くなるあまり、プロダクトの本質的な価値や長期的な収益モデルが二の次になることもあったり‥‥。なんだかんだ上手くいって、ユーザーは集まったものの収益化できず、事業が立ち行かなくなるというパターンに陥るリスクが潜んでいたりします。
組織拡大が生むマネジメントの混乱
スタートアップは短期間で一気に人材を増やし、組織を膨らませるのが常。プロダクト開発・営業・マーケなど、多岐にわたる職種のメンバーを集める必要があり、そこに投資マネーが投じられます。ただし、この急拡大路線にも不都合な真実があります。
組織カルチャーの未成熟
創業メンバー数名から一気に数十名、数百名という規模に増えると、創業時に大切にしていたミッションやバリューが共有されないまま人が増えることが多くあります。結果、チーム内で意見対立が激しくなったり、現場と経営陣のコミュニケーションが破綻したりと、組織が混乱に陥ります。これ、自分が事業会社で事業責任者をしていたときにもありました。メンバー間でもコミュニケーション不全、リーダー陣のスタンスの違いなど。それでもトップラインを上げるためにはメンバーを増やす選択をしなければならないつらさ‥‥。キツイ。人事制度・仕組みが追いつかない
急成長フェーズでは、人事評価・職務分掌・キャリアといった基本的な制度が整理できないまま人を大量採用することが多いため、社員が公平に扱われないと感じたり、現場が混乱したり。結果的に、優秀な人材から離脱するリスクも上がったりします。採用のミスマッチ
短期KPI達成のために“とにかく採用人数を増やす”アプローチを取りがち。これがスキルやマインドが合わない人材を抱え込むリスクを高めたりします。経営陣が短期的に採用人数を評価し、実績としてアピールする一方で、現場はミスマッチ人材を抱え困惑する――という矛盾が起こり得ます。
EXIT(IPO・M&A)が“唯一のゴール”になる危うさ
スタートアップでは、VCなどの投資家に対して大きなリターンを返すため、数年以内のIPOやM&Aをゴールとするのが一般的です。しかし、この「EXIT一辺倒」の構造は、事業自体の価値や顧客への本質的価値提供を後回しにしてしまう可能性があります。
短期的な数字を優先しがち
「とにかくEXITまでに数字を上げろ」という投資家の圧力により、本来必要とされるプロダクトの改善や顧客サポートよりも、目先の収益・売上を急ピッチで積み上げることが重視されたりします。そして、IPO後に顧客満足度が低く、継続収益が伸び悩むという結果を招く場合も‥‥。IPO後の株価下落
EXITが完了すれば経営者や投資家は一時的に利益を得られますが、その後の株価は市場の冷静な評価(とは言い切りませんがそれが公開市場というもの)にさらされます。もし実態と見合っていない高バリュエーションで上場すると、数ヵ月後(下手したら数日)には株価が急落。結果、SO配布した社員のモチベーションが一気にダウン。長期的な成長が難しくなるという悪循環に‥‥。
“スタートアップだからこそ”得られるものもあるが…
もちろん、スタートアップのモデルがすべて悪いというわけでは全くないと思っています。成長市場での迅速なイノベーションや巨大資本を背景にしたグローバル展開、社員ストックオプションによる大逆転といったメリットは確かにあります。
ただ、そこには多くのリスクや矛盾が潜んでいるという事実を見逃しがち。もともとスタートアップは高リスク・高リターンの世界。冒険が好きな人にとってはやりがいがあるが、安定志向や持続可能性を重視したい人には不向きだと思います。目先のうんぬんのひかれてしまうのはヨクナイ‥‥。
“夢のモデル”ではなく“ハードモードな道”
スタートアップのキラキラなきらめきは確かに魅力的。割と多くの人がそこに憧れたりします。ただ、今回取り上げた不都合な真実――過度な調達プレッシャー、激しい赤字運営、組織の急拡大混乱、EXIT依存など――は、スタートアップの成功を阻む大きな壁でもあったりします。
成功確率はそもそも低い
ググったり、DeepSearchで調べればわかる通り、スタートアップの多くは5年、10年と生き残れない。それほどハイリスクな道です。資金力がすべてを解決しない
いくら大型調達をしても、マネジメントやプロダクトが未熟なままでは、勢いだけでは長続きしない。数年前の大型調達したスタートアップの動向を見てみると‥‥?EXITできなければただの赤字企業
投資家からのプレッシャーに応えられなければ、膨大な赤字を抱えて終わる危険も――これは厳しい現実。
もしスタートアップで起業を考えてるなら、こうした“不都合な真実”を覚悟し、リスクとリターンを天秤にかけて参入を決めるのが絶対いい。勇敢に飛び込む人だけが、華やかな成功を手にする可能性をつかむ。それがスタートアップという、ある意味“ハードモード”のビジネスの本質だと思います。
最終的には、「大きな夢を見て、一気に世界を変えたい」という意志が強ければ、そのリスクを取る価値はめちゃくちゃあります。一方で、リスクをコントロールしたい経営者や、じっくり安定基盤を築きながら成長したい人には、別のビジネスモデルも検討するのがいい。
スタートアップは決して“夢のビジネスモデル”などではなく、「大きく賭けて、大きく失う可能性もある」という、非常に難しい現実があります。
ここまで言いましたが、不可能を可能にする力もスタートアップにはある
もちろん、これらの「不都合な真実」を突きつけられるのはスタートアップ起業の現実ですが、忘れてはならないのは、どんな道にも挑戦と共に道を切り拓く力があります。
スタートアップには確かにリスク満載で、数多くの壁が立ちはだかります。理不尽で逃げ出したくなることもあるはず。ただ、その中でいろんな模索したり、道を切り拓いてきた会社や起業家たちもまた数えきれないはずです。
失敗も成功も、全てが一つの大きな学びになると思ってます。 そのうえでスタートアップという道を選んだ理由が起業家にあるはずで。それは、新しい価値を社会に生み出したい想いやこれまでにない新しい市場を自分の力を試したいという強い意志であるはず。エベレストを登るには厳しい環境があるはず。その山頂に立つ時の景色には、他のどこにもない達成感が待っていると信じています。
スタートアップもそれに似ているかもで。「すべてが上手くいくわけではない」、でも「それを乗り越えた先における成長の実感」というものをいつか得られる可能性がある。
どんな形にせよ、スタートアップでも「大きな夢を実現したい」という意思を持っていることに意味があると思います。失敗や大きな壁、自分の限界に直面したときに、それらを乗り越えられるのは当人次第。
スタートアップは確かにハードモードな道かもしれないけど、それだけに成し遂げた後の達成感や成果も大きく、何にも変えられないものになるはず。
リスクを抱えながらもスタートアップが消えずに済むどころか、世界を変えるような大きな力を発揮することがあるのも事実。大きな資本と高い志や意思を背景に、現実を動かすスピード感やイノベーションを生み出すのは、やっぱりスタートアップならではの醍醐味だと個人的に思ってます。
未知の領域に挑む“ハングリー精神”
スタートアップには常に「自分たちこそ新しい価値を生み出す」という強い意志があります。未成熟/まだない市場を開拓して、全く新しいプロダクトや解決策を世に出す――そんな“ハングリー精神”が従来の常識を塗り替え、社会を前進させる原動力になってるはず。才能と多様性がもたらす飛躍
スタートアップには、年齢や国籍、バックグラウンドを超えて、情熱をもった多様な人材が集まりやすい傾向がある。大企業にはない“垣根の低さ”や“チャレンジしやすい空気感”があって、年齢が関係ない才能の人たちがプロダクト開発やビジネスモデルのアップデートにフルコミできる環境を作りやすい。問題解決への強い意志が、社会を変える
単なる利益追求で終わることなく、社会の課題を解決するビジョンを掲げるスタートアップも増えているし、それが医療や環境、教育など、既存の仕組みでは動かしにくい領域に新しい風を吹き込めるのは、柔軟かつ大胆に動けるスタートアップの強み。
不都合な真実があるからこそ、乗り越えた先に見える成功には大きな意義があるとも言える。
恐れずに、ただ安易にながれずに
スタートアップが直面するリスクと矛盾を知れば、夢を抱く気持ちにブレーキがかかるかもしれませんが、そのリスクを冷静に把握しながらも、「何が起こるか分からない未来を自分で切り拓く」という意志を貫ける人であれば、スタートアップほど面白い領域はないはず。
安易に突き進むのではなく、計画的なリスクマネジメントが鍵
資金調達のシナリオ、事業収益化の道筋、社員の育成と組織デザイン――これらを怠ると、一瞬の花火のように散ってしまう可能性も。
ただ、しっかりしたビジョンと計画、そして柔軟な対応力を備えていれば、スタートアップはとてつもない成長エンジンへになる。周囲の助けや学びを活かす
すでに数多くの先駆者がいて、経験やノウハウの蓄積も進んでます。メンターや専門家、さらには投資家との関係づくりを通じて、危機をうまく回避しながら“次のステージ”へ成長する道筋も十分に拓けるはず。
改めて、スタートアップは確かに“ハードモード”な道。ですが、それゆえに得られる手応えや達成感もめちゃくちゃ大きい。不都合な真実にめげず、むしろそれを知ったうえで前進していく――その気概を持つ起業家こそ、未来に新しい扉を開けることができるのかもしれないと信じてます。