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【13】恥と先輩風

トルコに留学していたとき、仲の良かった友達が一人いた。彼とはよく空きコマに会って話す仲だった。彼の専門は言語学で、僕は貿易。キャンパスが違ったけど、僕は彼のキャンパスに近い寮に住んでいたので、時間を合わせるのにそう苦労はしなかった。

彼はめちゃめちゃ英語がうまかった。トルコの公用語はトルコ語だけど、通っていた大学はすべて英語で授業だったので、生徒は基本みんな英語が話せる。だけど彼は突出していた。

そんな英語マニアな彼は、All Ears Englishという英語学習Podcastをすべて網羅する勢いで聞いていた。僕もこのPodcastにはお世話になった。

https://www.allearsenglish.com/episodes/

「この回で僕の質問が読まれたんだよ」とめちゃめちゃ嬉しそうに話す彼を今でも覚えている。

青年海外協力隊の面接が決まって、急遽帰国しなければいけなくなったことを彼に連絡すると、最後に会おうとなって、いつものキャンパスで会って話した。

別れは近づいていたけど、いつものように他愛のない話をしていた。ただ一つ、彼が"I dated with him."と言ったこと以外は。

なんでも、アプリで出会ったフランス人の男性と「デート」をしてきたらしい。彼ほどの人が英語を間違えるわけもないから、そうだったのかと、会話をしていて少しびっくりした。

だけど僕にとって、それは正直どうでもいいことだった。彼が誰を好きになろうが、それは彼の自由だし、そのフランス人と彼が幸せならそれでいい。彼がそれを公にしているのかどうかは知らないけど、それを当たり前のように僕に話してくれたことがむしろなんとなく嬉しかった。

ただ一つ、僕は自分の放った言葉を後悔した。彼は、リトアニアに英語の先生としてボランティアをしにいく予定だった。国外線にそれまで乗ったことがなかったらしく、僕に色々と聞いていて、その延長で「海外に長期滞在すること」みたいな話になった。

「海外に住むってマイノリティになることだから、大変なこともたくさん経験するよ。」

先輩風を多少吹かせて彼に言ったその言葉は、僕なんかが言わなくても彼は十二分に分かっていたと思う。異性愛が普通の世界では、彼は海外に行かなくたってマイノリティだ。その後彼の「デート」の話を聞いて、僕は自分で言った言葉が恥ずかしくなった。彼はきっと、十分すぎるほど自分の性に思い悩み続けてきたのだろうと思う。

それでも、僕になんの躊躇いもなくそれを言ってくれたことは嬉しかった。彼にとって僕は、心の許せる相手だったのかもしれない。

息苦しい世界なことは、同じようにマイノリティとしてここで生きている僕には多少なりとも理解はできる。辛いこと、たくさんあるしあったと思う。でも、たまに見つかる幸せを、大切な人と一緒に分かち合って生きてほしいと、恥じらいなく先輩風を吹かせてきっと今は言える。

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熊谷拓己
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