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お世話になったすべての人たちへ。

3月19日、僕は大学を卒業した。

卒業式が終わった後、お世話になったキウイ農園のある掛川に向かって、東京の家の入居日まで時間があったから、2日ほど泊まった。今朝農園を出て、今日から僕は東京に住む。

いつもそうしていたように、僕は学割を使って在来線で掛川から東京まで向かおうとした。予想外だったのは、10枚近く発行した学校をすっかり実家に置き忘れてしまっていたことと、「電車信号の不調で、在来線が大幅に遅れています」のアナウンスだった。

そのまま普通に在来線に乗ったら、不動産業者との待ち合わせ時間に間に合いそうになかったので、僕は仕方なく新幹線のチケットを買った。追加の出費の3400円と、置いてきた学割を悔やみつつ、販売機の購入ボタンを押す。

在来線、乗りたかったな。新幹線は早すぎて、僕が大好きな時間を過ごした大好きな場所を、あっという間に置き去りにしてしまうだろうから。ゆっくり流れる電車の窓に思い出を重ねながら、新しく住む場所に向かいたかった。

案の定、新幹線は1分も満たない間に僕の見慣れた景色を通り過ぎて行った。高架の上、いつもと少し違って景色が見えたけれど、それでも懐かしくなるには十分すぎるほどの時間を、僕はこの場所で過ごしてきた。

静岡駅を抜けて見える大きなスポーツ用品店。大学が始まったばかりの頃、目新しくて始めたアルティメット用のスパイクを買いに行ったっけ。白い、オレンジ色のナイキのマークが入ったやつ。

レンガの就職予備校の建物が見える。あのすぐ裏に友達の家があって、よく集まったな。新幹線の音がいつもうるさかった。僕は今、その新幹線の中にいるのだけれど。

在来線の線路のすぐ傍に走る裏道。バイト先が静岡駅の近くのホテルで、信号のないこの道を先輩から教えてもらったな。表通りを走るよりも、全然早く着けた。

真新しくて、周りの建物よりすば抜けて大きいガラス張りの銀行の本社が見える。あの建物、僕がこっちにきたときはあったっけ。大学の最寄りの草薙駅も、最初はもっと小さかったけど、ずいぶん大きく、綺麗になったな。

もうそろそろ、僕が昔住んでいた家の周辺を通り過ぎるな。洋服の青山と、マックと、かつやの看板がミニチュアみたいに小さく見える。あのかつやでバイトして、留学用のお金貯めたっけ。手前の踏み切りは、一度鳴り出すとなかなか開いてくれなかったな。

これだけのことを思い返した、通り過ぎる間の1分間。ずいぶんと長くいたんだなと思うけれど、振り返ると1分にも満たないくらい、あっという間だったんだなとも思う。ほんとうに、あっという間に過ぎた5年間だった。

5年前、何も知らなかった高校を出たばかりの僕は、この場所にたくさんのことを教えてもらって、半人前くらいの大人になった。きっとこれからも、たくさんの人に出会って、いろんな場所を転々として、僕はまた少しずつ大人になっていくのだろう。

免許を取って、車さえあれば大体どこへでもいけることを友達や彼女と遊びに出かけて知った。バイトをちょっと頑張れば、飛行機でどこの国へも大体いける時代になっていることを知った。行った先で、どこの国も平等でないことも知った。自分の言葉が通じない世界があることを知った。

たくさんの個性が世界中には溢れていると、教えてもらった。それを「異文化」と呼ぶことも。知らないこと、慣れないことを受け入れる寛容さを教えてもらった。お金がなくても、人の優しさで旅ができた。お金がなくても、自分のやりたいことを人前でカタチにしたら、たくさんの人がそれを応援してくれた。

一歩足を前に踏み出して、知らない世界を知るたびに、僕は知らない世界でたくさんのことを教えてもらった。その楽しさや喜びを一番最初に教えてくれたのは、他のどこでもなく、今僕が一瞬で通り過ぎたあの場所だった。

高校生の時、ほとんど空欄だった「趣味」の履歴書の欄。今ではたくさんかける。ロードバイク、ドライブ、読書、英会話、ギター、海外旅行、文章を書くこと、自然に触れること。

「ロードバイクは、カンボジアで一人でアンコールワットをロードバイクを借りて回っていた時に、楽しいなって思ったんです。大学の友達で持っている人が何人かいて、それに影響されたのもあります。」

「ドライブは、免許を取った後初めて伊豆にドライブに行った時に、楽しいなって思って。景色がすごい綺麗で、あと、昔付き合っていた彼女と初めてのドライブデートだったので、それもあって楽しかったのかもしれません。」

「読書とギターは、熱海で住み込みのバイトをしていた時にアーティストを目指していた人の影響で好きになりました。僕と同い年くらいの人で、お勧めしてもらった山田詠美の「学問」っていう本が面白かったのと、あとその人自体一緒にいて楽しかったんですよね。それとギターは、ケニアにいたときに音楽ができたら何もない場所でも楽しいだろうなと思って始めたのもあります。」

「英会話はトルコにいく時、TOEFLの勉強で始めたのがきっかけです。オンラインの英会話をしていて、毎日少しずつ上達していくのが楽しくて。トルコに留学したときは、もっと流暢に話せるようになりたいと思って、毎朝発音の練習をしてました。「日本人の発音に聞こえないね!」っていろんな外国の人に褒められて、嬉しかったなあ。」

「海外旅行は、カンボジアっていう国に行ったときに楽しさを知って。日本と全然違う雰囲気とか、知らない場所とか文化を一人で歩くのが好きになりました。それでトルコに留学したり、ヒッチハイクでヨーロッパ中回ったり、ケニアに住んでみたりして、全部全部、すごい楽しかったです。」

「文章を書くのは、ケニアにいた時毎日noteを書いてたんですけど、それで読んで感想をもらうことが増えたりとか、お金をいただくときもあったりとか、人に認めてもらうことが嬉しくて好きになりました。自分の数少ない才能のひとつなのかなって思います。今もお金もらって書くことがあるんですけど、いつかこうやって人の力になるような文章をかけたらなって思ってます。」

「自然に触れることが好きなのは、ケニアにいた時に気づいた自分の一面ですね。田舎すぎて、花の匂い嗅ぐとか、鳥を見るとか、景色眺めるとかしかやることないんですよ。でも、それが不思議と心を癒してくれるんですよね。昔は都会に憧れてましたけど、今は完全に田舎が好きですね。それが高じて掛川のキウイ農家さんのところで住み込みで働いて、もっと自然が好きになりました。今度住む家で、農園で教えてもらったDIYしようかなと思っています。」

これを読んでくれている人たちへ。僕の友達へ。僕の大好きな、静岡へ。大学へ、お世話になったたくさんの先生、人たち、世界中のみなさんへ。

これ全部、一つとして欠かせず僕の大切な一部です。面接で聞かれようが、英語で聞かれようが、淀みなく、上に書いたように自信を持って答えられる自信があります。ここに書ききれない他のこともたくさんあります。

そして、それを教えてくれたのは間違いなくあなたなのです。特にやりたいこともない、貧乏な団地生まれの僕を豊かにしてくれたのは、他でもないあなたなのです。

なんとお礼を申し上げたらいいかわからず、「ありがとうございました」としか僕にはあなたに伝えることができないことを心苦しく思いますが、とにかくまた笑顔で、元気で、世界のどこかで、お会いできたらと思います。

5年間、お世話になりました。
すべてのきっかけをくれた
この場所がいつまでも大好きです。



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熊谷拓己
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